第41話

 6月19日、火曜日。


お店の定休日であるこの日に、吉永さんと2人でダンジョンに入る。


彼女と入るのはこれが4度目で、初めて一緒に入った日、そのステータスを見せて貰ったものが下記の内容である。


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氏名:吉永 沙織


生命力:2235


筋力:40


肉体強度:40


精神力:154


素早さ:31


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生命力はアイテムで1800上乗せされているが、全般的に高い。


マッサージ師やエステティシャン、垢すりのアルバイトを掛け持ちしていたからかもしれない。


尤も、単に掛け持ちしていただけでは、この数字にはならない。


どれも懸命に働いていたからこそ出せる数字だ。


俺がそう褒めると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。


それから三度、俺と1回に6時間程、京都のダンジョンで頑張った彼女の今の数字は以下。


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氏名:吉永 沙織


生命力:4475


筋力:158


肉体強度:174


精神力:306


素早さ:142


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『人材育成・改』で生命力を重点的に伸ばしながら、魔物が強い京都で時に俺が倒す1万円クラスの経験値の100分の1を得てきた彼女は、僅か18時間でここまで成長した。


「今回からは、僕はなるべく補助に回りますので、できるだけ1人で頑張ってみてください。

あなたに魔物の攻撃が当たる事はありませんので」


「はい」


瀬戸さんの店で購入した身体のラインが出る女性用の防護服に、俺が渡した胸当てと籠手、Cランクの槍を装備した吉永さんが微笑む。


風呂でご一緒した際にも思ったが、彼女、本当にスタイルが良い。


背も高く、美冬や南さんくらい胸が大きくて、腰がきゅっと締まっている。


垢すりのスパでも人気が極端に集中していたのも頷ける。


俺のお仲間である6人の女性達とは既に全員とパーティーの正式登録が済んでいるので、彼女達は皆が『転移』や『アイテムボックス・改』、『地図作成・改』の能力を知っているが、やはり吉永さんも転移には相当驚いていた。


理沙さんの時ほどではないが、暫し呆然としていた。


余談だが、遺言状は提出しなくても良いと伝えたにも拘らず、彼女達6人は全員が自主的に提出した。


微笑むだけで教えてくれなかったから、その内容までは分らない。


因みに俺のは、『全財産の半分を柊美冬に、残りの全てを他のメンバーで均等に分ける』という内容だ。


転移で魔物が居る場所に頻繁に跳びながら、吉永さんに奮戦を促す。


彼女の体力を回復しつつ、ダンジョンから得た『ランクD。武器。鋼鉄の棒』で魔物の攻撃を逸らしてやる。


そして折を見ては、額の汗を拭くタオルと、水の入ったペットボトルを差し出す。


早めの昼食を取った午前11時から探索を始め、夕方5時で終えて、その後は彼女の家で風呂を共にする。


お互いに背中を流し合い、浴槽では彼女が俺を抱き締めてきて、頻繁にキスをしてくる。


そうしながら、徐々にお客が付き出した、自身の店の事を話してくれる。


俺が広告会社に多額の金をかけて、彼女の店のホームページの作成と、ネットでの宣伝を依頼した効果が出てきたらしい。


割引というものを一切せず、その代わり、総来店数に応じて会員カードのランクを変えて、そのランクごとに年1回、俺が用意した特典を渡すやり方で、富裕層向けに営業している。


電車内やタウン誌の広告でよく見かける、『初回お試し価格100円』なんて馬鹿な事はやらない。


あんなものに行けば、十中八九、只では済まない。


終わった後に、家で使う何十万円もする高価な美容器具や、10回以上の高い回数券を買うまでは、外に出して貰えない。


よく考えて欲しい。


もし自分が店の立場なら、1時間100円で、使用する美容液や器具の費用だけでも大赤字になるのが分ってるのに、下手をすれば1回きりのお客にサービスをしようと思うのかを。


しかもそこから、広告費や人件費、光熱費を出すのですよ?


それでお客が沢山入れば、その内に儲かるって?


いやいや、そういった只同然の客でコンビニ並みに混雑した店に、他との差別化を欲する富裕層が来ると思いますか?


そこで働いている人達が本物のプロなら、自分達が苦労して得た技術を、陸にその価値も把握できない者に100円で奉仕しようなんて思わないです。


初回だけで逃げようなんて思うと、却って大損しますからね?


阿漕あこぎな事をする店は、経営者も陸な人物ではないので、沢山稼げれば、1年や2年、刑務所に入ってもどうという事のない人達ばかりです。


尤も、そうなる前に店を破産させて、彼らはさっさと逃げますから、損害賠償すら困難ですけれど。


吉永さんもその事はよく理解していて、『一見して利益が出ないと思わせる営業は、必ず何処かで無茶をしています。素人しか居ないのに、陸に研修もせずにお客に当たらせて、火傷や傷を負わせる店も沢山あるんです』と怒っていた。


風呂から出ると、30分ばかり彼女と過ごして、その後に美冬の用意した夕食を取りに、2人で俺の家に行く。


3人で食事をし、ハイヤーを呼んで吉永さんを送り届けた後は、美冬が眠るのを待って、ロシアのダンジョンに入る。


もう3分の2以上は探索し終え、予定通り、7月中には全てのユニークと宝箱の回収が終わるだろう。


そうしたら次は中国を攻略する。


『飛行』を使って移動していると、時々ワイバーンとも遭遇する。


倒すと50万円する魔宝石を落とすので、ドラゴン同様、見つけたら必ず倒している。


ロシアにある銀色の宝箱からは、極稀に銃と弾丸が出る。


これまでに50丁程入手したが、ライフルやピストルの何れも、売りには出さない。


1番下のランクでもDあり、良い物にはAランクの物が数丁あった。


簡単に人が殺せるので、馬鹿が悪用しないように、全て俺が保管する事にした。


通常の宝箱で多いのは、ダイヤモンドなどの宝石類だ。


次いで金塊、レアメタル。


金塊も既にアイテムボックス内に数十トンあるが、通常の世界でこれ全部を売ると、きっと一時的にかなりの値崩れを起こすから、これも売らない。


ダイヤモンドの中には、3000カラットの大物や、ピンクダイヤも多数あり、こちらは後で、お仲間の女性達が欲しがれば、差し上げようと考えている。



 6月28日、水曜日。


今日は百合さんのお誕生日である。


松濤にあるレストランの個室を予約して、仲間内でディナーを楽しむ。


その後、夜更かししても明日の仕事や通学に響かない俺だけが彼女達の家に招かれ、南さんと百合さんから接待を受ける。


彼女達は、俺が6階にあげた2部屋の内の1部屋だけで暮らし、もう1部屋は、主にダンジョンで使う武器や装備品の保管庫に利用している。


3人で探索した際に得たドロップ品は、全て彼女達に渡しているので、DやE、Fランクの安物を売った以外の物は、そこで管理しているらしい。


南さんが親からの資金援助を受けて購入し、それまで住んでいた、赤坂にある7000万円の物件は、俺がその値段で買い取り、その全額を彼女は両親に返却した。


瀬戸さんの店とは別の場所で、200以上のドロップ品を大量に高値で売った彼女達は、それだけで10億円近い収入を手にした。


俺のお陰で武器屋に大量の安価な武器が流れ始めた日本は今、より良い武器を求める世界中の探索者達から注目を集め始めている。


わざわざ日本まで来て、武器だけ大量に買って帰る人もいるそうだ。


「和馬はお酒を飲まないの?」


レストランではいつもソフトカクテルだった俺に、南さんが尋ねてくる。


「人目のない場所や、家族だけの家では飲んでます。

まだ16歳なので、レストランの個室と雖も、お店にご迷惑が掛かりそうな時は控えてます。

因みに、赤ワインやデザートワインが好きです」


「フフッ、ならここでは飲めるわね」


自身が持つ赤ワインのグラスを傾け、口に含んだ物を、そのまま口移しで俺の口内に流し込んでくる。


何度もそれを楽しんでいると、百合さんが顔を見せる。


「お風呂の準備ができたわよ」


南さんに腕を引かれ、この家の浴室で、3人一緒に入る。


彼女達が俺の身体を洗う際、タオルやスポンジの類を使わなくなった。


掌に石鹼を十分に泡立て、それで身体を撫でてくる。


頭は勿論、手の指や足の指まで丁寧に洗ってくれる。


初めの内は両手で必死に隠していた反応部分も、百合さんに後ろからその手を取られ、南さんの為すに任せている。


浴槽内では前後から抱き締められ、1人と会話をしていると、もう1人から悪戯をされる。


「百合さんへのプレゼントですが、土地なんて如何ですか?」


後で俺を抱き締めながら、首筋に悪戯してくる彼女に、そう尋ねてみる。


「土地?」


「はい。

土地とは言っても、現時点で価値のある場所ではありません。

岩手の田舎です。

そこに、一筆の土地を20万坪購入して差し上げます。

そして毎年、百合さんの誕生日が来る度に、岩手に同じ広さの土地を買い足していきます。

将来的な目標は、岩手県全体の約4分の1くらいを買いたいですね。

南さんが総理まで昇り詰めたら、特別法を作って貰って、取得から100年売らない事を条件に、国民が個人で同一の地域に200万坪以上所有する土地は、固定資産税をゼロにして貰いましょう」


「・・何でそんな事をするの?」


南さんが俺をもてあそぶのを止めて、不思議そうに尋ねてくる。


山1つ買っても数百万しかしないような場所だから、金額にしたら大した事ないが、それでも敢えてお金を無駄にするようなものだからだろう。


「節税の意味も少しありますが、国土の整理と、自分が好きに使える広大な土地が欲しいのです。

まあ、買っても暫くは地均じならしくらいしかできないでしょうがね。

その間に、民法の相続の規定や税法なんかも変えねばならないでしょうし」


今のこの国には、無駄な土地、遊んでいる土地が多過ぎる。


首都圏に極端に人口が集中する反面、田舎の親が死んで残された二束三文の土地は、兄弟姉妹間の相続の煩雑さや、登記変更や諸手続きに掛かる費用の方が売却価格より高いなどの理由から長年放置され、荒れ果てる一方になっている。


しかも時が経てば経つほど相続が複雑になり、最早自治体でも手に負えなくなっているのだ。


仕事の遅い、と言うか、面倒な事は直ぐ先送りにする癖がついた役人や職員に任せ切りだと、一体何時まで掛かるか分らないし、知らない内に他国に買われたりして後々厄介な事になる。


「僕は自分で北海道を買い占めていくので、岩手は百合さん名義にして、僕が賃料を支払う形にしたいのです。

ご協力願えませんでしょうか?」


「良いけど、自分の領地にでもするの?

お殿様になるのかな?

フフフッ」


それだけ言うと、また2人して俺を弄び始めるのだった。

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