第30話
1月8日の23時から、自室に入る美冬におやすみを告げて、石川県の探索を再開する。
それまでは、休み明け初日の彼女とゆっくり夕食を取り、学校での出来事などに耳を傾けていた。
美冬は頭も良く、能力値が高いせいで運動も一般人とは比較にならないが、絵心は無いようだ。
声が奇麗で歌も上手いが、美術の授業だけは苦労しているらしい。
昼食の時間はいつも決まったメンバーで過ごすみたいだ。
彼女の容姿に
吉永さんの店を出た後、羽田から飛行機で小松空港まで行き、そこから最も近いダンジョンの入り口に入って、既に石川県の攻略を始めていた。
自宅近くの入り口付近から、夕食の時間まで、1時間ほど探索を進めていた場所に転移する。
石川県のダンジョン入り口数は、計53個。
ここの本命は、白山比咩神社だ。
進路上に居る魔物を狩りつつ、真っ先にその辺りにまで足を運ぶ。
無事『異界の扉を開く鍵の1つ』が見つかって、ほっと一息。
その後、妙立寺、気多大社、白山神社、那谷寺、尾山神社、妙成寺、愛染寺、兼六園辺りを探索する。
何れの場所でもユニークは見つからず、生命力や肉体強度を僅かに上げる品の入った金色の宝箱が出てきたのみであった。
大円寺辺りで、
スケルトンを巨大化したような魔物で、きらびやかな衣装を身に付けていた。
戦利品は、15センチ程の魔宝石と、『回想』という特殊能力だった。
この能力は、『死者や魔物の記憶を垣間見ることができる』というもの。
う~ん、使用状況がよく分らない。
人の死体は24時間以内に消滅するし、魔物の記憶と言われても、正直、知性を有していそうな魔物は極少ない。
今までに心当たりがあるとすれば、ユニークくらいだ。
まあでも、こうした能力が在るという事は、それが必要になる状況も存在する可能性がある。
特殊能力はどれも非常に貴重で、普通なら、どれだけお金を積もうと、どんなに望もうと1つも手に入らない。
有難く思わなければ
ユニークが消滅した場所に頭を下げ、次へと進む。
金劔宮では、金色の宝箱から『一攫千金』の特殊能力を得られるアイテムが出てきた。
『少ない投資で、将来確実に大きな利益を齎すものに、自然と目がいく』
アイテムの説明にはそう表示されている。
既に持っている『金運』との違いは、前者が短期間で利益を齎すものであるのに対し、『一攫千金』は言わば大器晩成型である。
数年、十数年の時間を掛けて、じっくりと価値を増やしていき、ある時ドカンと莫大な利益を生む。
能力がダブる訳ではないので、その場で口にすると、『幸運・改』の4番目にその表示が現れた。
朝の6時を過ぎたので、一旦ここで探索を止める。
家に帰ってシャワーを浴び終えると、美冬がもそもそと顔を洗いに来た。
「おはよう」
「・・おはよう。
ほんと、朝から元気よね」
洗面所で入れ替わり、珈琲を淹れに行く。
自室に入るとパソコンを起動し、先日売り注文を出しておいた、2つの銘柄をチェックする。
どちらも『金運』のお陰で暴騰する前に買えた株で、1つは100億、もう1つは300億円の利益を出している。
この能力を入手して以来、既に4000億円程を株で稼ぎ、ネット競馬で15億、宝くじで2億円稼いだ。
理沙さんには5件ほど、総予算500億円で、優良不動産の買い付けを頼んでいる。
そちらの方でも赤字会社を作って経費をじゃぶじゃぶ使わないと、国に支払う税金がかなりの高額になる。
理沙さんに支払う報酬も、1件につき5000万円に増額し、顧問税理士である美保さんへの年額報酬は、200万から一気に3000万円に改めた。
美冬が18歳になったら、俺の会社の副社長にでもして、たんまり給料を支払おう。
パソコンで株のサイトを眺めていた時、需要申告の画面で、とある企業の株が目に付いた。
仮条件は1200円くらいだったので、上限の1000株まで注文を入れる。
暇を見て、理沙さんからこの企業のCEOに、話を通して貰おうかな。
どうせなら、100万株くらい買いたい。
5年以上の売却制限を付けて、議決権なしの優先株にでもすれば、売ってくれるかもしれない。
早速、『一攫千金』の能力が働いているし。
上場してから1か月もしないで、一時的には大きく値下がりするだろうが、長い目で見れば10倍にはなるだろうから。
下がった時にも普通株で買い足しておけば、将来的にはこの会社の筆頭株主として、毎年多額の配当すら受け取れる。
株のチェックが済むと、身支度を整えた美冬を学校に送り出し、3時間ばかり久々の睡眠を取る。
その後美冬が帰宅するまで、ネットで調べものや航空券の手配をしていた。
1月9日21時、美冬に早めに寝るように告げて、石川探索の続きをする。
『まるでお母さんみたいね』、彼女にそう言われて、微妙にショックを受けたのは内緒だ。
今回はこの県内に在る宝箱を全て回収し、魔宝石の値段が1万円以上する魔物を狩り尽くすのが目的になる。
地図上に青く表示される宝箱、計41個を約4時間で回収し終え、本格的に魔物の掃討に入る。
例の如く、両手に剣を持って、県内を縦横無尽に走り回る。
魔物がまだ沢山居る内は、この方が断然効率が良い。
約6時間、朝の7時近くまで続けて、7000体くらいを狩ると、美冬と朝の時間を過ごすために帰宅した。
1月10日、午前。
俺は成田空港からモスクワ行きの飛行機に乗り、約10時間かけてシェレメーチエヴォ国際空港に降り立つ。
使用したパスポートは、さる筋から高値で手に入れた偽造品だ。
最近死亡した人の物に手を加え、写真を俺の物に貼り直して作成してある。
一度使用したら処分する物だからこれで良い。
税関では、笑顔で係官達に1万ドルずつのチップを渡したら、素通りだった。
空港から外に出ると、直ぐに最寄りのダンジョン入り口を探して中に入る。
時速400キロで5分走り、進路上に居た魔物を狩るとそれで帰宅した。
「遅い。
ご飯冷めちゃうよ?」
21時頃、いつもより約1時間遅れて、夕食の席に着く。
「遅くなるとメールしてあるじゃないですか。
先に食べていてくれれば良かったのに・・」
「嫌よ。
夕食はなるべく君と一緒に取りたいもの」
「まるで小さなお子さんですね」
「むっ、
「いえいえ、そんな子供ではありませんよ」
フッと笑ってやる。
「むむむっ、かわいくない」
「『かわいい』は、男性に対して使う誉め言葉ではないと、僕は思いますよ?
女性に『カッコ良い』と言うのとは、微妙に意味合いが異なります」
「もう、そんな事どうでも良いから、早くご飯食べましょ!
今日の豚の角煮と茹で牛タンは自信作なの!」
「確かに美味しそうですね。
いただきます」
「いただきます」
角煮を頬張ると、口に入れた途端にふわっと
牛タンに山葵醬油を付けて口に運ぶ。
ほろっと解けて、山葵のアクセントと共に胃の中に落ちて行く。
う~ん、美味い。
ご飯が進む。
ふと美冬の方に目を遣ると、彼女が幸せそうに俺を見ていた。
「どうしたのですか?」
「ううん。
・・今日はさ、学校でね・・・」
彼女も食事を再開しながら、その合間に今日の出来事を語ってくれる。
遅れた分、ゆっくりと時間を割いて、美冬と食事の時間を過ごした。
午前0時。
今朝の続きの石川ではなく、今夜は大阪府のダンジョンを探索する。
奈良県の生駒市まで転移して、そこから東大阪市に入った。
朝の7時までの7時間で、目標とする計13箇所を全て回るつもりでいる。
大阪城、姫嶋神社、住吉大社、叡福寺、百舌鳥八幡宮、天野山金剛寺、弘川寺、大鳥大社、道明寺、成田山不動尊、四天王寺、露天神社、サムハラ神社。
魔物の討伐は進路上の物だけにして、リニアも真っ青な速度でひた走る。
今回は、『異界の扉を開く鍵の1つ』が何処にも見当たらなかったが、13箇所の全てで何らかの収穫があった。
ユニークが居たのは叡福寺辺りのみ。
古代人の恰好をした魔物から、戦わずして15センチの魔宝石と、『規律』の特殊能力を覚えられるアイテムを得た。
この能力は、『組織内においての階級を明確にし、構成員に規則順守と自覚ある行動を促す』というもの。
戦闘に直接関係するものではないが、軍隊や指令部内なんかでは、そのトップに持たせたい能力ではある。
何故戦わずに消滅したのかは分らないが、友好的ではあったのだろうと推察して、ユニークが消えた場所に頭を下げておく。
サムハラ神社辺りでは、金色の宝箱から『魔除けの指輪』が出た。
『Sランク。指輪。
一般人には極めて有意義なアイテムかもしれない。
ダンジョン内にごみを捨てに来る作業員辺りには、きっと重宝されるだろう。
尤も、自分達の棲み
姫嶋神社辺りでは、金色の宝箱から『人除けのお守り』が手に入る。
『Aランク。お守り。所持者が会いたくないと願う者の視界から外れる』
これも、特定の悩みを抱えた一般人には需要がありそうだ。
他の10箇所では、其々の金色の宝箱から、能力値の何れかを僅かに上げる品が1つ出た。
残った約3時間で、大阪府にある宝箱、計34個を回収し終え、魔宝石価格30万円以上の魔物を狩り終えた。
この日倒した魔物の数は、進路上に居た物を含めて約5000。
石川県と大阪府の単独攻略は、これで御仕舞だ。
大阪に至ってはたったの1日しか探索していないが、もうこれで良い。
残りの魔物は、南さん達との探索で狩る。
彼女達も結構強くなったし、俺には他にもっとやる事ができた。
今後国内のダンジョンは、主に1日か2日で重要と思われる場所のみを巡り、ユニーク討伐と宝箱の回収だけをメインに行う。
あと3、4年の間に、できる限り先へ進まねば。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます