第28話

 10時くらいに起き出してきた美冬と、12時から東京のダンジョンを探索する。


ゴブリンやオーク、グリーンワームには目もくれず、最低でもダークウルフクラスで狩りを始めた。


自治体が出したごみがまだ残っている時間帯なので、彼女を抱え、高速で移動しながら魔物を探す。


ユニークが居そうな場所は後で1人で回るので、その辺りだけを残して、白地図を塗っていく。


ダークウルフ2体くらいが相手なら、もう美冬だけでも戦えるくらいになってきた。


時々当たりそうになる魔物の攻撃を逸らしてやるだけで、素質が高い彼女はどんどん能力値を上げていく。


極偶に遭遇するオーガやオークキング、ゴブリンエンペラーにも、俺が奴らの両腕を切り落として生命力を削いだ後、頑張って戦って貰う。


魔宝石1500円相当のリザードマンも、1体なら彼女に全て任せた。


武芸には親しみがない彼女のために、適宜、剣の振り方や盾の扱い方を教えていく。


能力値が相当高ければ、精神力の低い魔物相手にはただ武器を振り回すだけでも良いが、人間や、知能の高い魔物と戦うことになれば、それなりの技が必要になる。


17時に、一旦彼女のトイレ休憩を兼ねて休止し、ダンジョンから出て、美冬だけがシャワーを浴びたら、夕食を取りに店に行く。


学校が長期休業の間は、美冬の能力値上げを優先するから、朝以外の食事は全て外食だ。


この日は彼女の希望で洋食屋に入って、2人とも、ハンバーグとグラタン、ビーフシチューにパンを食べた。


家に戻って30分ほど休憩したら、再度ダンジョンに入る。


もうごみは粗方消えているので、ずっと探索し易くなった場所を、彼女を抱えて走り回る。


府中の辺りでは、年に1勝もできずに馬刺しになった新馬の恨みが籠ってるのか、馬の魔物が多い。


馬と言っても魔物であるから、その体重は1トンを超えている。


高速で走り回るそれらの魔物に、美冬1人ではまだ太刀打ちできない。


俺が相手の脚を切断し、動けなくなったところに止めを刺して貰う。


高尾山近辺では、修行僧の恰好をした魔物によく襲われる。


鋼鉄の錫杖を振るってくる相手に、美冬が盾を構えながら慎重に対処する。


彼らは2000円クラスなので、今の彼女の良い練習相手となるのだ。


午前0時で切り上げて、2人で帰宅する。


脱衣所で共に衣服を脱ぎ、なみなみと張った湯を溢れさせながら、2人で浴槽に浸かる。


「ふう、疲れた~」


大きな胸を揺らしながら、湯の中で伸びをする美冬。


「移動は僕が担ってるんだし、それ程長時間やってないだろ」


「和馬の感覚は既におかしくなってるのよ。

たとえ探索者でも、1日9時間以上ダンジョンで戦ってれば、然う然う身体が持たないわ」


「美冬は普段、学校があるからさ。

休みの時に、重点的に鍛えておかないと」


「そうだけど・・。

せめて朝だけは、今日くらいまで寝かせてね」


「ああ、10時までは寝てて良いよ。

僕も9時くらいまではダンジョンに居るし」


「・・本当に好きね」


「もっともっと強くならないとね。

どんな相手からだろうと、大事な人達を、必ず護らないといけないから」


「・・・。

さ、背中洗ってあげるから、一旦出て。

その後は、私にもお願いね」


初めの頃は結構恥ずかしがっていた彼女も、今は自然に俺とスキンシップを図ってくる。


更に時間が経てば、やがては本当の家族のようになっていくのだろう。


風呂から出て、彼女が寝るために自室に籠ると、俺は1人で和歌山のダンジョンに入った。



 それから12日後の未明。


到頭和歌山の完全攻略を終える。


計2週間、約119時間で、合計で11万体近い魔物を倒し終えた。


ユニーク討伐や宝箱の回収は初日に済ませてあるから、時速300キロ以上で走り回りながら、両手でひたすら剣を振るうだけ。


約4秒に1体の割合で魔物を倒した計算になる。


急いでいたから、1200円クラスの魔物まで狩ってしまった。


元旦を除き、美冬と東京で毎日約8時間、その後1人で和歌山にて9時間から11時間くらい。


自分は元旦の夜すらダンジョンに入った。


12月29日と30日、1月2日と3日は南さん達ともダンジョンに入ったが、さすがの彼女達も、大晦日と元旦は終始自宅で過ごしていた。


美保さんは、年末から年始にかけて理沙さんと2人で温泉旅行に行っていて、この間のダンジョン探索はお休み。



 今日、1月7日は美冬の冬休み最終日。


日曜日でもあるので、彼女は丸1日お休みにして、昼頃から南さん達と奈良のダンジョンに入る。


「和馬のお陰で、私達も随分と強くなったわね」


5000円クラスの大熊の魔物を1人で倒した南さんが、近くで4000円クラスの大蛇を倒した百合さんに笑いかける。


「ええ。

元の4倍以上になっているわ」


「南さん達の探索者ランクは今幾つなんですか?」


「今はD。

和馬が協力してくれるお陰で、4月の更新ではBになるはずよ」


「南さん達でもDだったのですか。

・・結構上がらないものなんですね」


「そうね。

ゴブリンやオークばかり倒している人は、きっと死ぬまでFだと思うわ」


「日本人の最高ランク者は幾つなんですか?」


「本当は内緒なんだけど、Cね」


「低いですね」


「ええ。

この国の国民は、あまりリスクを冒さない人が多いみたい。

探索者にならずとも、ある程度の生活は国が保障してくれるし、本物の貧困層は陸な装備も能力も持たないから、ダンジョンに入っても直ぐに殺されてしまうの。

時々、勇敢と無謀を履き違えた馬鹿が無茶をして、魔物を強くしてるしね」


「見た目は同じダークウルフでも、強さが倍くらいの魔物が偶にいるのは、そういう理由もありそうですね」


「まあでも、ダンジョンができたお陰で、自殺者の後始末が減ったのは良かったみたい。

鉄道に飛び込んでた人達や、ビルの屋上から飛び降りていた人が、ダンジョンを死に場所にしたから、他人に迷惑が掛かる事が減ったのは大きいわ。

特に鉄道は、本当に悲惨だから。

後始末も、遺族に請求される賠償金なんかもね。

近年は、遺族の心情を察して、鉄道各社も実費しか請求しないようだけど、ちぎれた肢体を拾い集める作業員に、トラウマを与えかねないから」


「ダンジョンが原因と思われる行方不明者は、年間でどのくらいの数になるんですか?」


「平均で4万人くらいね。

アフリカ全体や中近東では年に60万人以上だし、東南アジアでも20万人はいるから、少ない方ではあるわね」


「日本の人口は現在、約9000万人で推移しています。

一昔前より1000万ほど減ったので、不動産の値も落ち着き、人口密度も適度に緩和されて、婚姻率が上昇し出しています。

その分、出生率も上がり、ダンジョンで減る分を補っていますね」


百合さんが情報を補足してくれる。


「ダンジョンが出現した最初の1、2年は、この国の人口減少率はかなり酷かったみたいですね」


「ええ。

若者や中高年がダンジョンに殺到して、年間400万人程が行方不明として処理されました。

その年は、世界中で人口の高齢化が真剣に議論されています。

探索者免許の取得可能時期を15歳以上(日本は中卒以上)にしなければ、以後も相当減っていたはずです」


「話を戻すけど、和馬は4月の更新で間違いなくSになるから、騒ぎが起きないように、ダンジョン庁の例の個室で更新作業をしてね」


「了解しました。

因みに、Sランクは世界中で何人くらい存在するんですか?」


「いないわよ。

ランク取得における基準は世界共通だから、自国だけ甘くするような真似はできないの。

だからまだ1人もいない。

よって当面は、あなたの情報も伏せておくしかないの。

要らぬ紛争を招くからね」


「どのくらいなら隠し通せそうですか?」


「う~ん、和馬次第ね。

あまり派手な行動をしないで貰えれば、4、5年なら何とか。

海外で呈示を求められたら、1発でアウトだけど」


これは急いだ方が良いかな。


まだ注目されない内に、なるべくなら海外にも足を運びたいしな。



______________________________________


 『探索者チャット・日本語版』


2819:女子大生


 冬休みに実家に帰省して、今日帰って来たら、ダンジョンに魔物がほとんど居ないの。


どうして?


誰か理由を知ってる?


お年玉を貰えなかったから、今月はピンチなのに・・。


1524:俺様


 情報が古いなあ~。


ここ数か月、噂になってるだろ?


1604:私


 場所は何処?


2819:女子大生


 和歌山。


ねえ何でなの?


1604:私


 始まりは三重だったんだけど、ここ数か月、幾つかの地域で同じ様な現象が起きてる。


ある時突然、その県内に魔物がほとんど居なくなるの。


2819:女子大生


 それって自然現象なの?


1604:私


 そこまでは分らない。


1524:俺様


 今度デートしてくれたら、有意義な情報を教えてやるぜ?


2819:女子大生


 嫌よ。


ネットの情報って、嘘がほとんどだもの。


この間も、アプリの出会い系で話が弾んだ人と実際に会ったら、イケメンの実業家って話だったのに、冴えないニートだったもの。


1524:俺様


 ・・付かぬ事をお尋ねしますが、あなたの実家は東京ですか?


2819:女子大生


 はあ?


違うけど・・。


1524:俺様


 セーフセーフ!


2082:ベテラン?


 やっぱりニートだったか。


1524:俺様


 ちげえよ!


そんなこと一言も言ってねえだろ?


2082:ベテラン?


 なら『冴えない』方か。


1524:俺様


 それも違う!


俺様は超イケメンだ。


2082:ベテラン?


 この間、リア充のことを羨んでいたじゃないか。


虚しい嘘を吐くなよ、冴えないニート。


1524:俺様


 てめえ、表に出ろ!


2082:ベテラン?


 お前が三重に来い。


電車賃も出せない貧民。


3120:主婦


 ・・熊本の事も尋ねようと思ったけれど、これじゃあ無理ね。


直ぐにでも炎上しそうだわ。


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