第2章 お互いの気持ちと、絆の高まり

第27話

 クリスマスの夜、美冬に『予約』をされた後、自室で今後についての思考を巡らす。


ダンジョン探索のグループが3つになったからだ。


主に学校が休みの間に入る美冬。


平日の何れか1日、夕方から4時間くらいで探索する美保さん。


土日祝日のお昼頃から、1回に5時間弱で探索する南さん達。


更に俺は、これらの時間を除いて1日15時間くらい、1人で探索する。


夕食は毎日20時に固定して貰い、美冬と一緒に食べ、朝は7時に戻って来て、学校の支度をする彼女の様子を見ながら珈琲を飲む。


16時に帰宅する美冬を迎えた後でまたダンジョンに入っては、20時に一旦戻って夕食の繰り返し。


休日や、美冬が長期休暇の間は、もう少しだけ時間が自由になる。


土日の夕食は、美冬を休ませるため、外食にしている。


我ながら結構忙しい。


身体能力が化け物染みてきたお陰で、家からダンジョンの入り口までの往復は、走って1分しか掛からないから良いが、信号が赤の交差点では、そこを走る車ごと飛び越えて渡るので、それを目撃した人達がびっくりする。


なので、人通りの多い時はなるべく控えるようにしていた。


余談だが、今のこの世界では、スポーツは完全にショーと化している。


純粋な技の応酬おうしゅうではなく、パワーとスピードを競う見世物へと変化した。


野球で言えば、大リーグなどの試合は、200キロを超える球を投げるピッチャーと、鋼鉄のバットを振り回すバッターとの勝負と化し、140キロ程度の遅い変化球しか投げられない一般人の選手が出る幕ではなくなった。


サッカーでも、100メートルを5秒で走るような選手に、ピストルの弾丸並みの速度を持つシュートを打たれる時代になった。


バスケットでは、自分達のゴールから1歩も動かず相手ゴールにシュートをする選手や、4メートルもジャンプしてダンクを放つ選手が登場する。


アメフトは選手同士の吹っ飛ばし合いで決着がつき、ボクシングでは細かな階級分けが無くなって、たった1つの階級で、ほとんど殺し合いに近い試合が展開される。


ダンジョンで魔物と戦い、各能力値を常人の数倍から10倍程度にまで高めた者達が競い合う場では、それをしない一般人ではまるで相手にならない。


ボクシングならパンチ1発で首が飛ぶし、アメフトなら体当たりされた瞬間に身体がひしゃげる。


唯一ゴルフだけは、小さな穴に入れるために力加減が必要なので、現状の狭いコースで競う限り、一般人でも戦えた。


未だに差別意識が蔓延はびこるアメリカなどでは、それまでスポーツと言えば黒人選手のほぼ独壇場であったが故に、肉体強化された白人選手達の大活躍に沸き、こういった変化は寧ろ歓迎された。


現在の日本では、まともなスポーツと呼べる試合は、未だダンジョンには危なくて入れない、13、4くらいまでの子供達によるものだけになっている。


アメリカや中国、欧州の金持ちは、まだ12歳程度の自分の子供に有能な護衛と高価な武器を与え、早い内からダンジョンで鍛え上げる。


死亡率も決して低くはないが、ダンジョンが人口抑制に使えるので、好きなだけ子供を作り、その中から有能な子供だけを残せるのだから。


そういった考えにまだ否定的な日本のお陰で、俺は今、思う存分稼げる訳である。


明日はまだ美冬が冬休みなので、学校の休みが明ける来年の1月7日までは、彼女を中心に鍛え上げなければならない。


自分の攻略も進めねばならず、俺は今後10日間、一睡もせずに時間を活用することにした。


良い子の美冬が寝たのを見計らい、家を出てダンジョンに入る。


奈良県の十津川村の端まで転移し、そこから和歌山県の田辺市に入って探索を開始する。


和歌山県のダンジョン入り口数は全60箇所。


単に探索するだけなら2、3日も要らない。


先ずは本命の熊野本宮大社まで、進路上に居る魔物を片っ端から倒しつつ、ひた走る。


急いでいるので、強い弱いに関係なく倒してしまう。


幸いにも、和歌山の魔物はかなり強かった。


奈良や京都に匹敵する。


まあ、強いとは言っても、もう俺が気にするようなレベルではないので、サイクロプスだろうがレッドオーガだろうがゴブリンエンペラーだろうがお構いなしだ。


それらが落とす、ドロップ品や魔宝石の金額にしか興味が無い。


辿り着いた熊野本宮大社辺りで、隠し扉を見つける。


大当たりだ。


『異界の扉を開く鍵の1つ』がまた出てきた。


これで6個目になる。


気分が良いのでどんどん別の場所を回る。


金剛三昧院辺りで、仏神姿のユニークと戦う。


戦利品は、30センチ程の魔宝石と、『愛欲のしもべ』というとんでもない特殊能力だった。


この能力は、情を通じた相手をパーティーに登録した際、その相手が得られる経験値が2倍になるというもの。


『人材育成』が『人材育成・改』に変化し、その中に加わった。


これは暫く、皆には内緒にしておかねばならない。


南さん辺りは、確実に俺との関係を急ごうとするだろう。


身の危険を感じる。


淡嶋神社の辺りでは、古代人のようなユニークと戦い、15センチ程の魔宝石と、『治療』の特殊能力を得る。


これは他言できない。


口にしたら俺の人生がんでしまう。


なぜならこの『治療』は、魔法ではなく特殊能力だからだ。


つまり、ダンジョンの外でも使用可能なのである。


『解毒(S)』が変化して入手できたこの能力は、『病を治す』というもの。


説明を読むと幾つかの条件がある。


①治療は女性限定である。


②あくまで体内の病を治すためのもので、外傷を負った相手には効果がない。


③治療には、自己の手を、直接相手の患部と思われる肌に触れねばならない。


先ず、何故女性限定なのか?


そして、相手の肌に直接触れる。


もうこれだけでもアウトだ。


もしこの特殊能力がばれれば、俺は一生病院代わりを期待されるだろう。


何せ、病院と違って確実に治せるのだから。


俺の大事な人以外には使わないと決めた。


刺田比古神社辺りでは、隠し扉を見つけた際、その扉が輝いて、ひとりでに開いた。


ステータス画面を見ると、『幸運』の場所が光っている。


中に在った宝箱を開けると、俺の中に何かが入り込んで来た。


『幸運』の文字をタップすると、その中に『開運』が増えている。


説明には、『運気を必要とする場面に直面した際、その運を2倍に高める』とあった。


ギャンブルにでも強くなるのだろうか?


熊野那智大社辺りでは、隠し扉の先に仕掛けがあった。


鳥、兎、鮪の、小さな3体の置物がある。


鳥に触れると残りが消え、1、3、5の、3つの数字が浮かび上がる。


3に触れると、今度は太陽と月のマークが浮かび上がる。


太陽を選択すると光が溢れて、それが消えた後に特別な宝箱が現れた。


蓋を開けると、暗闇に文字が浮かんでいる。


『知恵と幸運、武力を備えた汝に、更なる力を授ける』


文字が消えると同時に、俺の中に何かが入り込んでくる。


ステータス画面で確認すると、特殊能力の欄に『未来視』が増えていた。


説明を読む。


『自己またはその関係者に危機が及ぼうとしている時、その数日前に、予めその映像の一部が脳内に映し出される。

危険度が高いほど、その描写が長い。

夢ではないので、睡眠中である必要はない。

なお、ここで言う関係者とは、自己が大切な存在として認識している者である』


「・・・」


何と言えば良いのだろう。


この能力を、もっと早くに手に入れていたら、俺の両親は・・。


無い物ねだりなのは理解しているが、それでも遣る瀬無い思いに満たされる。


暫く目を閉じた後、隠し扉の前で頭を下げて、感謝の意を表する。


少なくとも、今後の不幸は俺の力で回避できるかもしれないのだから。


そのためには、もっともっと強くならねばならない。


大屋都姫神社辺りでは、古代人の姿をした女性のユニークが居た。


その大人しそうな姿に、何となく戦うのを躊躇っていると、彼女は俺の中に何かを見たのか、微笑んだだけで消滅してしまった。


跡に15センチ程の魔宝石を残すと共に、何かが俺の中に流れ込んで来る。


ステータス画面で確認すると、『土魔法』の文字が点滅している。


そこをタップして中身を調べると、『樹木再生』という項目が追加されていた。


『既に朽ちた樹木、老木、害虫に侵されている樹木に活力を与え、若々しい樹木に蘇らせる』


説明にはそう表示されている。


正直、戦闘には関係ない魔法の気がするが、貰えるだけ有難いのだからと感謝する。


その後、根来寺、金剛峯寺、壇上伽藍、丹生都比売神社、日前宮、那智の滝の辺りで、其々『生命力を僅かに増加させる品』が入った特別な宝箱を入手した。


丹生都比売神社では、それに加え、『SSランク。楽器。邪気を払う鈴』も手に入れる。


俺は翌日の朝9時まで、新幹線並みの速度でダンジョン内を走り回りながら、和歌山県内の白地図を完全に塗り潰し、とりあえずそこに在る宝箱だけを全て回収した。


全部で108個もあり、さすが、京都や奈良に匹敵する場所だと喜んだ。


魔物の討伐数は約1万5000で、残りはまた明日以降にした。


家に帰ると、学校が冬休み中の美冬が、まだ寝ているようだった。


起こさないように静かに浴室に入ると、シャワーを浴び、珈琲を淹れて、その香りを楽しんだ。

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