第20話

 「お待たせしました。

うちの浴室は広いので、お二人で湯に浸かっても、まだ十分な余裕があります。

バスタオルはお好きな物をご自由に。

洗濯機を回しておけば、乾燥には30分も掛からないです。

僕は自室に居ますから、済んだら声をかけてください」


三重から帰宅して、激戦で汗をかいた2人に風呂を勧める。


俺が全て倒すのではなく、彼女達でも大丈夫そうな魔物は、2人で戦って貰った。


その際、2人に武器を見せて貰い、南さんの長剣がランクEで、百合さんの槍がランクFだと教えると、彼女達は怒っていた。


『あの武器屋・・。

掘り出し物だと言っていたのに・・』


『一体幾らで買ったのですか?』


『・・500万円』


『・・随分ぼられましたね。

宜しければ僕の戦利品を差し上げますよ?

どちらもランクCの物がありますから』


『さすがに只で貰うのは悪いわ。

2つで1000万でどう?』


『お金は要りませんよ。

装備は毎月売りに行くほど持ってますから。

お二人なら、ランクCでも使いこなせるでしょう』


『借りができてばかりね。

後で必ず、何か別の形で返すわね』


より良い武器と、彼女達のやる気のお陰で、4000円ランクの魔物なら、2人でも余裕で倒せるまでになった。


俺の役目は、魔物の攻撃が彼女達に当たりそうになった時、それを逸らしてやることくらいだ。


魔宝石が5000円以上する魔物はまだほとんど涌いていなかったし、転移で魔物の居る場所に移動しつつ戦っても、彼女達だけの戦闘には時間が掛かるせいもあり、3時間での成果は54体、金額にすると20万円くらいだった。


それでも、『私の月給の3分の1より多いです』と、百合さんは満足そうだった。


彼女もキャリア組なので、まだ20代半ばでしかないのに、それなりの額を貰っている。


「それは悪いわ。

あなたの家なんだし、和馬が先に入って」


いつの間にか、この2人からも名前(百合は君付け)で呼ばれるようになっていた。


「僕はほとんど何もしなかったので、そんなに汗をかいていませんから」


「それでもよ。

私達は後で頂くわ」


南さんにそう言われて、ならさっさとシャワーだけ浴びようと、浴室に入る。


頭を洗い始めた時、背後で音がしたので振り向くと、南さんと百合さんが、美しい身体を隠すことなく入って来た。


「え?」


「あら、本当に広い浴室ね」


「お邪魔します」


「・・あの、どうして?」


初めて見る、成熟した女性の裸身。


色白で均整の取れた肢体に、胸だけが大きく自己主張している。


自分にはない部分に、勝手に視線が集中してしまう。


「あなたに今日のお礼をしようと思って。

・・身体を洗ってあげる」


「いえ、自分でできますから!

それに、せめてタオルで隠してください!」


「あなたには、もう隠し事をしないと言ったでしょ?

男に見せるのは初めてなのよ?

光栄に思ってね」


「・・本当に肌が奇麗ね。

男性の肌とは思えないくらい・・」


百合さんが、固まって身動きできない俺の背中に回り、そっと手を当ててくる。


「私が洗ってあげる」


南さんが俺の前に来て、シャンプーの泡が顔に流れ落ちそうだった俺の頭に手を伸ばす。


俺の両手は、勿論自分の股間を懸命に隠している。


今の状態を2人に見られるのは不味い。


「そんなに固くならなくても大丈夫よ。

心配しないで。

身体を洗うだけだから。

・・初めては、好きになったとしたいでしょ?」


目の前で重たげに揺れる彼女の胸を見つめながら、俺はそっと全身の力を抜いた。



 「・・何だか夢に出て来そうです」


風呂から出て、冷たいジュースを飲みながら、南さんと百合さんの2人に愚痴をこぼす。


「御免なさい。

ああいう方が、男の子は喜ぶと思ったの」


百合さんが苦笑しながら謝ってくれる。


「でも役得だったでしょ?

普通はできないわよ、あんな経験。

こんな美女2人から、全身を隈なく洗って貰えたんだから」


「・・まあ、それについては認めます」


「一緒にダンジョンに入ってくれた日は、毎回してあげる。

3人で入るのも、中々楽しかったわ」


身体を洗って貰いながら、気をまぎらわせるために、色々な事を話した。


浴槽に浸かって、2人が身体を洗う姿を目にしながら、様々な昔話を聴いた。


それだけで、この2人とはもう古い付き合いのような気がしてくる。


「でも、高校にも訓練学校にも行かないで、出会いはどうするつもりだったの?

後見人の女性にもパートナーがいるんでしょ?」


百合さんが、アイスティーを飲みながら、そう尋ねてくる。


お互いに全てをさらけ出したからか、最初の頃より随分気さくに話しかけてくれる。


「・・そこまで考えていませんでした。

探索者になることだけに思考を傾けていたので」


あせらなくても、和馬なら何時でも作れるわよ。

寧ろ変に急がない方が良いわ。

その内、向こうから幾らでも寄って来るから」


冷やした白ワインを飲みながら、南さんが俺の頭を撫でる。


「それより、これからはきちんとスマホの電源を入れておいてね?

折角私達専用のラインを開いたのだし、緊急時はそこに連絡を入れるから」


「分りました。

ただ、僕は用事がなければ1日15時間はダンジョンに入っているので、その時は済みませんが返事が遅れます。

朝の8時くらいから夕方4時くらいまでは、出されたごみを避けるため、家にいる可能性が高いですが」


「・・あれはねえ。

本来なら焼却すべき物まで捨ててるみたいだし。

私も庁の責任者として、何度か国や自治体に基準を設けるようには言ったのだけど、何の不利益もなく捨てられるから一向に改善しないの。

そのせいで、いつまで経っても探索者の地位が向上しないわ」


「原発使い放題で電気代が安く済むから、国民もそれには無関心ですしね」


百合さんも思う所があるようだ。


「さて、服も乾いたようだし、そろそろお暇するわ」


乾燥機から下着と服を取り出し、素肌の上に着ていたバスローブを脱ぎ捨てると、わざわざ俺の目の前で着替え始める2人。


「サービスよ。

しっかり目に焼き付けて、今晩のおかずにしなさい」


「余計なお世話です」


「フフフッ、また来週ね」


彼女達が帰った後の室内に、何だか甘い香りが残っている。


偶にはこんな時間も悪くない。


今日の探索は深夜からにして、俺はソファーに寝転びながら、暫くの間、目を閉じた。



 4週間後、兵庫の完全攻略を終える。


弱い魔物達は残したとはいえ、31日で約11万体の魔物を狩り、手に入れた宝箱は42個、アイテムドロップ数は681だった。


兵庫を探索しながら、美保さんや南さんのお手伝いをし、京都や奈良にも時々入って、強い魔物の打ち漏らしがないか再度確かめていたので、予定より随分とゆっくりになってしまった。


浄土寺、伊勢久留麻神社、柿本神社、西宮神社では特別な宝箱が手に入り、生命力を上げるアイテムを複数得て、西宮神社においてはユニークとも戦う。


何処かで見たような姿をしたそのユニークからは、20センチの魔宝石と、『金運』の特殊能力を得た。


これは『お金を稼ぐチャンスに恵まれる』というもので、例えば、ある場所を歩いていて、ふと宝くじ売り場に目が留まり、頭に浮かんだ宝くじを、思い付いた買い方で買うと、必ず高額当選するというとんでもない能力だ。


株にも応用できて、ネットで自分のチェックリストを眺めていると、近い内に暴騰ぼうとうする銘柄に、自然に目が留まるのだ。


一度株でそれを試して、僅か数日で50億円稼いでからは、できるだけ毎日、日本とアメリカ、ロンドン、香港の株式市場に目を通している。


ただ、この能力は、あくまでお金儲けに使えるだけで、損をするような物には作用しない。


例を挙げるなら、株で大暴落するような銘柄を見つける事まではできないのだ。


つまり、事前にそういう銘柄を見つけて、空売りまですることはできない。


同じお金儲けなのに、何だか釈然としない。


『幸運』の一種らしく、その表示は、『幸運・改』となった特殊能力の中に隠れている。


あれから、美保さんとは計4回、東京のダンジョンに一緒に入って、南さん達とは土日祝日をフルに活用して、計9回、1日5時間程、三重のダンジョンを探索した。


現在の俺の能力値は以下の通り。


県2つを完全攻略した割に、奈良や京都ほど魔物が強くなかったせいもあり、上昇値は然程でもなかった。


______________________________________


氏名:久遠寺 和馬


生命力:112080


筋力:10190


肉体強度:10670


精神力:14730


素早さ:9850


固有能力:【真実の瞳】


特殊能力:『自己回復(S)』『地図作成・改』『毒耐性(S)』 

     『アイテムボックス・改』『魔法耐性(S)』『ダンジョン内転移・改』

     『解毒(S)』『生命力増加』『加速』『隠密』『状態異常無効』

     『可能性の芽・改』『結界・改』『人材育成』『幸運・改』


魔法:『光魔法』『土魔法』『風魔法』『火魔法』


______________________________________



 『探索者チャット・日本語版』


______________________________________


470:リーマン


 今日は仲間と久し振りにダンジョンに行きました。


兼業探索者ですが、ストレス発散には最適なので、月に一度はゴブリン狩ってます。


1524:俺様


 社畜は大変ですな。


470:リーマン


 ほんと嫌になりますよ。


仕事以外に、気を遣う事が多過ぎます。


1524:俺様


 上司へのゴマすりかな?


470:リーマン


 それならまだ良いんですけどね。


最近は部下にも気を遣わないとならないんですよ。


陸に仕事もできないくせに、口だけは一人前で困ります。


怒り方や注意の仕方に気を付けないと、直ぐNPOや労組に泣きついて、会社に来なくなるんです。


1524:俺様


 そういう奴らはさ、会社の研修とか何とか言って、ダンジョンに入れちまえば良いんじゃねえの?


470:リーマン


 それができれば苦労しないんですけどね~。


この国では、個人を強制的にダンジョンに入れることはできないんです。


非常に残念ですよ。


1524:俺様


 因みに、何処のダンジョンに入ってるの?


470:リーマン


 兵庫県です。


1604:私


 魔物がちゃんと居るのね?


470:リーマン


 そう言えば、強い魔物は全然見かけませんでしたね。


いつもなら、見かければ一目散に逃げるんですが、今回はゴブリンやオーク、グリーンワームくらいしか居ませんでした。


お陰で、十分にストレスを発散できましたよ。


8972:女子高生


 兵庫もそうなんですか?


島根もそんな感じなんです。


もう少し強い魔物が出ないと、武道の練習にならなくて・・。


お小遣いも稼げないし。


1524:俺様


 おお、女子高生!


今度俺と一緒に、ダンジョンデートしない?


8972:女子高生


 お断りします。


私、ダンジョンに出会いを求めていないので・・。


______________________________________

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る