第15話
「お誕生日おめでとう」
「有り難うございます」
「これであなたも16歳ね。
尤も、外見上は大学生くらいに見えるけど・・」
「色々経験を積んでますから」
「女性経験もかしら?」
「いや、それはまだ・・。
何分、ボッチですから」
「変な
お金目当ての娘には十分気をつけてね」
今日、10月5日は俺の誕生日。
いつものレストランの個室で、理沙さんと食事を取っている。
「あなたなら、1回くらいは教えてあげても良いけど、私も男性は知らないしね」
「浮気なんてしたら、美保さんに怒られますよ?」
「彼女はあなたなら構わないそうよ。
無害だし、童貞だから病気も持ってないし、色々お世話になってるからって・・」
美保さんは、理沙さんの弁護士事務所で受付を担当している女性だ。
税理士の資格も持っているので、事務所の経理も
2人は高校時代からの友人で、恋人同士でもある。
理沙さんがこうしてワインを飲めるのは、帰りに美保さんが車で迎えに来るからだ。
大学時代から、ずっと一緒に暮らしているそうだ。
「お二人の仲を邪魔するつもりはありませんよ。
僕は、恋愛にはロマンを求めたいですから」
「童貞の言いそうなことね。
いつまでも右手が恋人だと、いざ女性を相手にした時、ちゃんとできないわよ?」
「
性欲を処理するだけなら、心は必要ないですからね」
「その歳でそんな寂しい事を言っては駄目。
ちゃんと見つける努力はするのよ?」
「そういうのは、探すものではなく、出会うものだとも思ってますから」
「あなた、変な所で頑固よね。
・・今年のプレゼントだけど、何が
あなたには、お金で買える物をあげても意味ないしね」
去年は美保さんを紹介して貰った。
彼女は事務所を開いていないが、今は俺専属の税理士でもある。
一昨年は、後見人(法定代理人)として、俺が自分で株の売買をすることに許可を出して貰った。
「直ぐには思い付かないので、一旦保留にしておいてください。
それより・・例の件、どうなってますか?」
「あの依頼の事?」
「ええ」
「今の所、1つだけとても良い物件があったわ。
立地も申し分なくて、建物の床面積が70坪以上あるから、広さも十分にある。
築10年だけど、鉄筋コンクリートだから何の問題も無いし、3階建てで、近くには
けれど、さすがに予算が全然足りないの」
「場所は何処なんです?」
「神泉よ。
広い道路沿いだし、交通の便は良いし、渋谷駅にも歩いて行ける距離だから、お客もそれなりの層を見込めるわ」
「どんな商売に向いた建物だと思いますか?」
「そうねえ・・何にでも使えるとは思うけど、外観がシックだから、飲食店よりはお堅い事務所やエステサロン、美容院なんかの方が良いかもね。
習い事教室なんかも似合いそう」
「幾らくらいなんですか?」
「8億よ」
「一度見学に行きたいので、後で場所を教えて貰えますか?」
「・・良いけど、いきなり不動産になんか興味を持って、一体何の商売をするつもり?」
「それはまだ内緒です」
「後見人の立場としては、無駄遣いは一応戒めないといけないのよ?」
「大丈夫。
決して損はしません」
「もう、詐欺師みたいなことを言って・・。
実は、私もあなたに相談したい事があるの」
「珍しいですね。
一体何です?」
「美保がね、私達も探索者登録をした方が良いんじゃないかって言うの。
ほら、同性の事実婚には、色々と都合が良いでしょ。
だから、それでパーティーの正式登録もしないかって」
「ああ、
お二人共、今後財産が増えていくでしょうから、登録だけはしておいた方が良いんじゃないですか?」
「それでね、彼女、一度ダンジョンに入りたいって言うのよ。
登録だけじゃなく、実際に入って魔物を見たいって・・」
「へえ、美保さんの外見からは考えられないですね」
彼女はおっとりして、どちらかと言うとお嬢様のように見える。
「あの娘、あれで中々好奇心が強いのよ。
あなたが探索者になった話をしたら、一度でも良いから、一緒に連れて行って欲しいんだって」
「理沙さんはどうなんですか?」
「私は良いわ。
怪我なんてしたくないし、ごみが捨ててあったら嫌だもの。
変な人も多そうだし。
・・言っておくけど、あなたがそうだとは思ってないわよ?
変に大人びているくらいで、人としても男性としても、あなたは魅力的だもの。
そうでなければ、たとえ一度でも、女を教えてあげるなんて口にしないわ」
「分ってます。
世間における探索者のイメージは、未だにあまり良くないですからね」
「それでどうかしら?
美保を連れて行って貰える?」
「僕で良いんですか?
まだなったばかりのFランクですよ?」
「何言ってるのよ。
私の周りで、あなたほど強い人は居ないわ。
童貞だから、美保にも手を出さないでしょ?」
「グへへ、美味しく頂いちゃうかも」
「別にそれでも良いわよ?
彼女もあなたなら構わないって言っていたから。
私達の子供として育てるわ」
「怖い事を言わないでください」
結局、美保さんの都合がつき次第、一度東京の入り口付近を案内することにした。
11日後、既に島根県の攻略を粗方終えていた俺の下に、美保さんからのメールが届いた。
島根県にあるダンジョンの入り口は、全部で85箇所。
京都を僅か50日で完全攻略した俺は、それで得た自信を基に、真っ先に出雲大社のある場所を探索すべく、飛行機で縁結び空港に飛び、そこから最も近いダンジョンの入り口に入った。
今回は宿もホテルも取らず、ダンジョン内転移による日帰り探索を選ぶ。
美保さんからの連絡待ちだったからだ。
京都のユニークから、『戦利品の自動回収』、『宝箱の位置表示』、『魔物の位置表示』という破格の能力を得た俺は、1日で島根県の約10分の1程度を攻略できるまでになっていた。
出雲大社がある辺りでは狙い通りに『SSSランク。縁結びのお守り。異界の扉を開く鍵の1つ』を入手し、そこを守護していた古代人のようなユニークから、『地図作成・改』の3つ目の機能である、『人の位置が白く表示される』を得た。
今回から、きっちり探索場所を区切って、順序良く探索していくのではなく、地図上で宝箱の表示を見ながら、その周辺を染めあげていくやり方に変えた。
なので、美保さんからメールが届くまでの10日間に、島根県の宝箱がある場所は全て探索し終え、合計52個の宝箱を入手すると共に、毎日18時間の探索で、県全体の白地図を塗り終えた。
もう1日中、かなりのペースで走り回っても、息切れさえしない。
俺に倒された魔物達は、何が起きたのかすら理解できずに消滅しただろう。
彼らには、ダンジョン内を走る俺の姿がほとんど見えないはずだから。
なお、熊野大社辺りでは古代人風のユニークと戦い、『ダンジョン内転移』を改変させる能力を得て、その表示が『ダンジョン内転移・改』に変化した。
説明文を読むと、『一度に3人まで転移可能』とある。
つまり、パーティーを組んでも、そのメンバーを一緒に連れて行けるということだ。
物部神社辺りの古代人風ユニークからは、『幸運』の特殊能力を得る。
これは『魔物のアイテムドロップ率を2倍にする』というもので、感謝のあまり、通常の世界での神社にお参りに行き、匿名で1000万円の寄付をした。
黄泉比良坂の辺りにも、絶対にユニークが居ると思ったのに、宝箱が1つあっただけだった。
何かがおかしい。
島根県に存在したユニークはこの3体だけで、松江城、石見銀山、宍道湖、琴弾山神社、月照寺辺りでは、生命力を増加させるアイテムの入った特別な宝箱が出た。
島根県全体で倒した魔物の総数は、約4万体。
さすがに僅か10日間では、大魔法でも使わない限り、全ての魔物を倒し切れる訳ではない。
腕はたったの2本しかないのだ。
なので、魔宝石が高く売れそうな魔物を優先的に倒し、そうでない物は後回しにしたのだ。
地図さえ塗り終えれば、そこに居る魔物をいつでも把握でき、転移を用いてロスなく倒せる。
残り約10万体の魔物は、これから1か月くらいかけて倒し切るつもりでいた。
なお、今回手に入れた魔宝石は、現地で売る暇がなくて、未だにアイテムボックス内に入っている。
『連絡が遅くなって御免なさい。
仕事が一段落したので、できれば2、3日以内に案内してくれると嬉しいです』
『今日でも構いませんよ』
そう返事を送ると、直ぐにまたメールが届いた。
『では、18時で如何ですか?』
『分りました。
何処で落ち合いますか?』
『あなたの家で。
車で行くので、駐車させてください』
『了解しました』
約束の時間まで、あと5時間もある。
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