第11話

 奈良の攻略を始めて7週目。


季節は真夏になり、協会施設に換金に出向く車窓からは、時折、白いセーラー服姿の女子達が見える。


俺も高校に行っていれば、彼女達のような達と過ごす時間があったのかもしれない。


後悔は全くしていないが、そんな日々も偶になら良いよな。


ダンジョン攻略は、宇陀方面を終え、桜井方面に入っている。


今晩にでも、長谷寺辺りを攻略できるだろう。


ここは通常の世界においても是非訪れたい場所なので、奈良県を全制覇したら観光に行こうと考えている。


「今回は、合計1万1120個で、総額1億3670万4000円ですね。

こちらがその明細書になります。

これまでで1番の金額じゃないですか?」


受付嬢が、自分の事のように喜んでいる。


「サイクロプスやトロールが多かったせいですね。

ラッキーでした」


「それを倒せるのだから凄いですよ。

普通なら逃げますよ?」


「地道に能力値を上げているからかもしれません」


「頑張ってますものね。

お支払いはいつも通り、口座振り込みになります。

本日の14時以降には入金されておりますので」


「分りました。

有り難うございます」


色々使っても、普段使用している口座には、既に16億円を上回るお金が入っている。


この間、廃屋の床下で見つけた宝箱には、1キログラムの金塊が10本入っていた。


ダンジョン内の宝箱からは、時々金塊が出るが、通常の世界で使える紙幣や小判、金貨などは出てこない。


その金塊も、50本を超える数が、アイテムボックス内に入っている。


夕食までまだ時間があるし、東京の武器屋に行って、使わない物を売れるか聴いてみよう。


手近な場所からダンジョンに入り、転移した後、渋谷の近くで出た。



 「こんにちは。

今日はお尋ねしたい事があって来ました」


武器屋に着くと、女性店主にそう告げる。


「いらっしゃい。

何かな?」


「こちらでは、武器の買い取りも行ってますか?」


「ええ、やってるわよ。

仕入れはほぼ探索者さんからの買い付けに頼ってるから。

ただ、買い取れるのは、ダンジョン内で得た武器や防具だけね」


「では100点ほどお願いします」


「えっ、そんなにあるの!?

手ぶらに見えるけど。

それに、手持ちのお金が足りないかも・・」


考えたんだが、協会施設に魔宝石を売るのと違って、装備品は数箇所に分けて売る必要がない。


不特定多数の誰かに見られる訳ではないし、信用できる店の1つに絞って取引した方が、自分としても安心だ。


それに、ここの店主は俺に好意的でもある。


【真実の瞳】を使った俺の眼に、青い光が見えている。


『アイテムボックス』を、特殊能力としてではなく、固有能力として説明すれば、口外しないだろう。


今後の取引の面倒を省くためにも、彼女には教えておくか。


「支払いは口座振り込みで良いですよ?

別に急ぎませんから、資金ができた時で構いません。

年内までならお待ちします」


「それで良いの?

とりあえず品物を見せてくれる?」


「それなんですが、僕には少し秘密がありまして、買い取りは2人きりでお願いしたいんです。

他人に知られたくないことなので・・」


「秘密?

・・悪い事ではないわよね?」


「はい。

違法でも、不道徳でもありません」


「買い取りには身分証の呈示をして貰うし、君なら信用できるからそうしてあげる」


店主は席を立つと、入口に外出中の札を掛け、鍵を閉める。


それから俺を奥の倉庫へと案内し、作業台の上に品物を出すよう告げた。


「実は僕、固有能力持ちなんです」


何の能力かは口にせず、盾を含めて現在の所持数の約5分の1に相当する、100点の装備を並べる。


「!!!」


その言葉に店主は相当驚いたみたいだが、表情だけで、声には出さなかった。


「凄い数ね。

長剣が8本もある。

槍や斧は珍しいのよ?」


彼女は直ぐに表情を戻し、1つ1つを専用の鑑定機にかけ、装備に含まれる成分を確認していく。


ダンジョン内で出た装備は、その成分中に、通常の世界には無い物を含有している。


『精神力』が高い者なら触れただけで分るが、この店主は念のため、機械でも確かめているようだ。


「うん、全部ダンジョン産で間違いないね。

君を疑う訳ではないけど、お客さんにまがい物を売る訳にはいかないから、念のためにね」


そう言うと、今度は品を1つずつ手に取りながら、値付けしていく。


1時間半くらいして、査定が終わった彼女が、スマホでゲームをしていた俺に話しかける。


「全部で6760万円でどうかしら?

内訳はこんな感じね。

うちの利益を載せて売るとなると、このくらいにしかならないけれど・・」


金額をメモした紙を見せてくれながら、申し訳なさそうにそう言ってくる。


48個出した短剣は1本40万で、3本にプラス20万ずつの評価が付いている。


長剣8本はどれも250万円。


2本出した槍はどれも280万、同じく2つ出した斧が其々300万、40個出した盾は1つ当たり40万で、内2つに10万ずつ足してある。


Dランク以上の物は売りに出さなかったので、EとFランクの物しかないのにこの評価。


他の武器屋は知らないが、ネットで調べられる価格を見る限り、この店はかなり良心的だ。


ダンジョン産の装備は非常に数が少なく、探索者達の身を護る品でもあるから、店によってはFランクの短剣が、普通に100万円以上で売られている。


彼らにはランクの鑑定なんてできないから仕方がないのかもしれないが、商売とはいえ、自分達の利益を載せ過ぎなのだ。


買い取り金額の2倍以上を載せているのだろう。


その点この店は、陳列された商品を見る限り、利益を4割か5割くらいに抑えている。


「口止め料も兼ねて、6500万円で良いです。

その代わり、今後も買い取ってくれませんか?」


「本当!?

それで良いの!?

有り難う!」


凄く喜んでくれる。


「でも君凄いね。

始めてからまだ数か月なのに、一体どれだけ運が良いの?

普通は1つ出ても大喜びなのよ?」


まあ、そうだよね。


1日に2300体近い魔物を、ほぼ毎日狩り続けてるなんて、普通は思わないよね。



 宿での夕食を終えると、わくわくしながらダンジョンに入る。


前回の続きから始め、2時間くらい進んだ頃に、通常の世界では長谷寺がある辺りの場所に着く。


勘でしかないが、ここに何かある気がする。


【真実の瞳】をフル稼働し、近辺を隈なく探していく。


邪魔な魔物など、もう陸に意識せずとも剣が勝手に倒している。


勿論、魔宝石はきちんと拾うんだけどさ。


朽ちた建物や社が点在する中で、1つだけ傷んでいないほこらがあった。


その扉を開くと、中に男性と女性の像が1体ずつ配置されている。


少し考え、そっと2体の像の向きを変え、手と手が触れ合うように調節する。


すると、像の足下に、3つの植物の模様が浮き出てくる。


桜、紅葉、牡丹。


牡丹を選択し、そこに手を触れた。


祠の中が輝き、2体の像が消滅する。


その後には、小さな宝箱が置かれていた。


蓋を開けると、お守りのような物が入っている。


【真実の瞳】には、『SSSランク。縁結びのお守り。異界の扉を開く鍵の1つ』と表示された。


「よし!」


勘が正しかった事を喜び、同時に疑問がく。


異界?


ここの事じゃないのか?


1つと言うからには複数あるはずで、探求心も生じる。


お守りを大事にアイテムボックス内に終い、更なる探索に励んだ。



 明日香村の辺りでは、埴輪はにわに似た魔物と戦うことが多かった。


古墳のような場所では、そこを守護する一際大きな埴輪形の???と戦い、20センチくらいの魔宝石と、特殊能力ではなく、魔法を貰った。


『土魔法』で、簡単な土操作ができるものである。


試したら、今の段階では、土塀どべいを作ったり、穴を掘るくらいしかできなかった。


天理市では、これまで奈良県で戦ってきた魔物よりも、より強い魔物が多かった。


その分、良い魔宝石を沢山得られたが、やはり通常の世界における信仰心が、ダンジョン内の魔物に影響を及ばしているのだろうか。


天理と言えば、この地には素晴らしいブラスバンド部がある。


よくパレードなどで見かけるが、京都のとある高校のものと共に、その名は全国に知られている。


8週目、予定より数日遅れて奈良市に入る。


春日大社がある辺りでは、その影響か、動物の魔物が多かった。


ただ、奈良公園の愛らしい鹿のようなものではなく、鋭く尖った刃物のような角を持ち、それで突き刺そうとしてきたり、剣を挟んでまるで十手じってのように絡め捕ろうとしてくる。


剣を持った鬼なんかも出て来て、アイテム的には美味しかった。

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