第6話

「電話があったのよ、この施設の職員さんからね」

「連絡先はどうやって知ったんですか?」

ずっと会っていなかったはずなのに、私は疑問に思った。

「ああ、母がこの施設に入るときにね、親戚が調べたの。それで保証人になれって」


貴子さんによると、その時、親戚には母親に会ってやれとしつこく言われたが、保証人になってお金も自分が全て負担するから、その代わりに母親には会わない。私のこともしらせるなと言ったそうだ。


親戚たちはおばあさんの旦那さんの残した遺産の分前が増えるならと承諾したんだそうだ。


お金が絡む話ってなんか嫌だなと思った。


「話聞いてびっくりした。母が姉の生まれ変わりの女の子に会ったって言い出してるって聞いて。きっと寂しくて幻覚を見るようになったんじゃないかって言われてね。だいぶ迷ったけど、ほんとに幻覚を見てるんなら、責任を感じてね」

「責任を感じたから、会いにきたんですか?」

ちょっと失礼な言い方だったかなと少し反省した。

「それもあるけど、それ以上に母に会いたかったから」

「ごめんなさい」

私は素直に謝った。

「謝らなくてもいいわ。 あなたも困ったでしょう?姉の生まれ変わりなんて言われて」

「あの、貴子さんはどう思ってますか?お母さんが言ってること本当だと思いますか?」

「あなたが姉の生まれ変わりって? 私はそういうのあまり信じてないから。やっぱり寂しかったんだと思う。私たちに会ってから、姉の事もあなたのことも言わなくなったから」

「そうなんですか?」

もう一度、おばあさんを見る。孫やひ孫となにか楽しそうに話している。

私を恵子と呼んだ時のちょっと寂しげな顔とは大違いだった。

私の方を見る事もない。

やっぱり、寂しさからくる思い込みみたいなものだったんだろうか?


でも、それが本当に寂しさからきた妄想だったとしたら、私がおばあさんを初めて見た時、感じたあの懐かしい気持ちはなんだったんだろう?


それを貴子さんに聞いてみると

「あなた、東京で1人暮らしを始める直前だったんでしょ?それで色々不安になっていて、その不安から母の話に流されてしまったんじゃない?」と言われた。


そうなのかなぁ。私は心理学とかスピリチュアルな事は全く分からなけど、そういえば今回、おばあさんを見た時、何も感じなかった。


新しい生活に慣れたからなんだろうか?


「あなた、今日も母を気にして会いにきてくれたのね。ありがとう」


「いえ、おばあさん楽しそうでよかったです」

「そうね。その前世の姉がキッカケで母に会う事ができた。ずっと心にあった影から解放された気分。 きっと母もそうだと思う」


貴子さんは私の手を握った。

「母の話に付き合ってくれてありがとう」


貴子さんは近いうちにおばあさんと一緒に暮らすつもりだと言った。


これからは1人で昔の事を思い出す事もないんだろう。

よかったねと私は思った。


私が恵子さんの生まれ変わりなのかも、あのザワザワした気持ちの本当の所はわからなかったけど、私が生まれ変わりだと信じる事で貴子さんの言っていた、その影から解放されるなら、それでいいかなと思った。


でも、本当に私は恵子さんの生まれ変わりじゃなかったんだろうか?


確かめる方法なんてない。

おばあさんの話にを聞いても、いわゆる「前世の記憶」なんて全く蘇ることはなかったから。


やっぱり貴子さんの言ったように、新しい生活に向けての不安な気持ちを勘違いしてしまったのかもしれない。


私はそう思う事にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

「再会」は記憶の影に 保科早里 @kuronekosakiri

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る