第2話

「あの、こんにちは」

声をかけるとおばあさんは優しく私の手を握ってきた。

「やっときてくれたのね。ずっと待っていたのよ」

暖かなぬくもりが伝わってくる手。

「あの時はお母さんが悪かったわ。 ごめんなさいね、恵子」

お母さん? けいこ? 何を言われているのかわからず私は混乱した。

「あなたがいつか私のところに来てくれるって私はずっと信じていたの」

何を言われているかわからない。 でも、きっとこのおばあさんは、おじいちゃんみたいに認知症がある人なのだ。そういう人には話を合わせてあげた方がいいってお母さんがいっていたっけな。

だったら、そのけいこという人のふりをしてみよう。それが正しいのかわからないけど。

「本当に待っていてくれたの?」

 おばあさんは頷く。

「あの日、あなたを一人で行かせてしまってずっと後悔していた。いつか謝りたかった。本当にごめんなさい。恵子」

「お母さんは悪くないよ。わたし、お母さんの事恨んだりしていない」

とりあえずドラマなどでよくあるこういう場合のセリフを口にしてみた。

「あなたは優しい子だったもの、そういってくれるって思っていた。 あの日も本当は私と一緒に行きたかったのに貴子のために我慢してくれたのよね」

「たかこ?」

「覚えていないの?あなたの妹よ。50年も前の生まれ変わる前の事だものね。しかたないわ」

おばあさんは、私が「前世」で自分の娘の恵子だったと信じているらしい。このおばあさん、認知症などではなくて言っていることが本当なのだとしたら、私が最初、この人を見たときに感じた胸のざわつきはそのせいなのか?会いたかったと思ったことも?

いや、そんなことあるわけない。スピリチュアルな事まったく信じていないというわけじゃないけれど…。

そういえば、ヘルパーさんはおばあさんに家族はいないと言っていた。妹がいたのだとしたらその貴子はどこに行ったのか? 貴子の家族は?

私が戸惑っている様子を見たおばあさんは、私の頭をなでながらその50年前のことを話し始めた。

半世紀近くも後悔し続けているというその出来事を。


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