「再会」は記憶の影に
保科早里
第1話
祖父と暮らしていた叔母さんから、やっとおじいちゃんが介護施設に入れたから、会いに来てと連絡がきたのはお正月の事だった。
認知症の症状と、足腰が弱くなり目が離せなくなってしまったので共働きの叔父夫婦はもちろん、同じく共働きのうちでも面倒みられないからと、父や叔父さんが施設を探し、やっと見つかった場所だった。祖父の好きな海が見える場所で、友達もできて随分とげんきになったらしい。
暖かくなるのを待って、両親と私でその場所にいったのは、私が進学のために東京へ行く一週間前の事だった。
「そうか日奈(ひな)ちゃん、もう大学生かぁ」
車いすに乗ったおじいちゃんは意外と元気そうで、家族みんなの事もちゃんと覚えていた。
「勉強がんばれよ。おじいちゃん、あんまりおこずかいあげられないけど」
「いいよ、そんなの。おじいちゃん元気そうでよかったよ」
そんな他愛ないことを話していると、ふと視線を感じた。
ふりかえると、祖父と同じく車いすに乗ったおばあさんが私をみていた。白髪まじりの髪に、ピンクのガウンを着た上品そうなおばあさん。祖父より少し年上だろうか?それでも、若いころはきっと美人だったに違いないと思うほど整った顔立ちをしている。
なんだろう、胸がざわざわする。 あの人をずっと前からしっていたような…どこかで会ったことがあるのだろうか?
そのおばあさんは私と目が合うとニッコリ笑って手招きした。
「え?」
突然のことで私はどうしていいかわからず戸惑っていた。親は気が付いていない。
「少しでいいので、お話し相手になっていただけませんか?」
声をかけてきたのはヘルパーさん。
「あの方、家族いらっしゃらないので、誰も面会にこないんです」
「でも、私何話していいのかわかりません」
ここで父と母も気が付いた。
「話さなくてもいいんです。ただ、話を聞いてうなずいてくれれば」
「話してきなさい。ここで待っているから」
促したのはお父さん、お母さんもうなずいている。おじいちゃんはといえば、最近できた友達のおじいさんと楽しそう会話して気づいていない。
「わかった。じゃあ、ちょっとだけ」
私もあのおばあさんは気になっていた。この胸のざわつきは何なのだろう。もしかしたら、あの人と何か話したらわかるのかもしれない。
私はゆっくり、おばあさんに近づいた。おばあさんはあいかわらず、ニコニコと笑っている。優しそうな笑顔。そして、なぜだか懐かしい。初めてあった人なのに何故なんだろう。
会いたかった…そんな思いが湧き上がってくる。不思議な感覚だった。
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