3話 多須奈
男は話を続けた。
「あいつは、私が弱っている時に出てきます」
「あいつ……」
「その間の私の記憶はありません」
「……」
「あいつは、あなたに、何か言いましたか」
「
「あぁ、また、そういう、うまいことを」
男は心の底から、ため息をついたようだ。
「……」
それを見た男はあわてた。
「お、覚えていないからといって、私に責がないとは言いません。責任はとります」
「せきにん?」
「み、
「みさお」
その様子に、男は、いよいようろたえた。
「本当に、あいつときたら、手の早い。すいませんすいません。あなたの
「み、
ずっとずっと遠いところにあると聞く。
「
「
「都のトヨミケ
「知りません」
まず、気にかけたことがない。
「
(さんぽ)
とりあえず、
「そのために、私は、この
「大変でしたね」
この時代の山では、そういうことが起こるのである。
「えぇ、もう。一度出直してこなければ無理ですね」
「行ってしまうのですか」
また、それを男は誤解する。
「せ、責任は取ります。戻ってきますから」
「……はい」
この
(逃しちゃいかん)
一月後、
「もしかしたらですけど、日の光で、かぶれているのではないかと
「お日さんで」
「強い日差しに当たると、
「そういえば」
秋になってから、少し楽な気がする。
「食べ物も、ソバとか香りの強い野菜は、いかんらしいです」
「なるほど」
「これを使ってみてください」
そして、
その薬を、できものに塗ると、少しずつ、少しずつ
「あなたは不細工でも何でもない」
そう、
「おそらくは、あなたの祖先も遠い地から来たのであろう。この辺りの
そう言う
「――ブナ、ミズナラ、サワグルミ。シラビソ、オオシラビソ、コメツガ。何とも、ヒダの山の木は多種で、それぞれが美しい」
木のことを語るとき、
「今度は、山の木は切れそうですか」
「はい。ウマヤドノ
「仏像のご
「ウマヤドノ
そのうち、
「辛かったり辛かったり、もうないだろう?」
座った
腕の内側を、すっと男の指がなぞったから、「あ」と、
「あ」
今度は、
「?」
「……ごめんな。あいつ、ヘタレで」
「
「んー」
「……オレは
「どっちもオレだよ。なぁ、もう、つらかったり痛かったりはないだろう?」
「ない」
「そぃじゃあさぁ。今度はオレを慰めてくれない?」
「なんか、つらいところがあるのか?」
「うん」
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