とある宅配員の親友
「なぁ、凜。これから一緒に居酒屋に行かないか? 実は気になった店をネットで見つけてさ」
「……うーん、ごめん。今日はどうしても行かない場所があって無理。多分明日の夜ならいけると思う」
「そうか。それじゃあ、明日また誘うな」
「ありがとう、誘ってくれて。じゃあね」
舞に少しの間手を振る凜。手を振り終えると小走りで会社に乗って来た黒色の軽自動車に向かう。軽自動車の鍵を遠隔操作で開けると、そのまま乗り込んだ。呆然としている舞に凜は車を動かす前に一度手を振ると、そのまま会社の駐車場を颯爽と去っていった。
舞は駐車場に設置された自販機で缶コーヒーを購入すると、コッ、といい音を立てて缶のタブを開けた。そのままコーヒーを顔の上方に持ち傾けると、口を豪快に開けて缶コーヒーに入っていた殆どを飲み干す。ポッ、と小さな息を吐く。シャボン玉のように弾けたそれはどこか溜息のようにも聞こえた。
近くにあった木製のベンチに座る。このベンチに座るときには凜がいる時が多かったが、隣を見ても凜は居なかった。体を預ける隣にいる筈の人物がいないことに違和感を持ちながら、疲れて少し曲がっていた背筋をピンと伸ばした。
「どうしちゃったんだろう凜。私変なことしたか?」
腕を大きく伸ばして凜の態度に何か自分に要因が無いか振り返る。しかし、特に何かした覚えもない。数日前凜と飲んだ時は凜を犬のような扱いをしたが、そんなことは日常的にするし私も凜に猫の扱いをたまにされる。泥酔して凜と一緒に寝た翌朝、凜にキスを何度も無自覚の私にされたと言われたが、起きた時私の体は凜が寝ている間に舐めたのかところどころ涎でべとべとしていたのでお互い様だ。
最近の凜はどこかおかしい。何か他のことを考えているのか話し掛けても気付かず何回か声を掛けて気付くことが多いし、独り言もぶつぶつとよく呟いているのを見る。イヤホンを親友ながら気持ち悪い顔をして付けているのも見たし、舌の筋トレでも急に始めたのか舌を出して上下左右に動かしているのも見た。よくよく思い返してみると変な宗教に捕まったのかそれとも何かの精神病に罹ったのか狂人と化している。
「……もしかして、男が出来たとか? 願い星に願いごとをしていたけど。でも、願い星にした願い事が叶うことなんてあるのか?」
ふと、ありそうもない答えが頭に浮上する。願い星にした願い事が本当に叶ったなんて聞いたことがない。それも偶然に起こりうることなんて無い極めて稀なこと。しかし、何故かそんな気がしてならなかった。
「……次またこういう時が来たら、凜の後をつけてみるか」
もし仮に男のことだったら、尋ねても情報を出してくれるとは思わないしむしろ警戒されて男について調べることが難しくなるだろう。酒でべろんべろんに酔わせた時に聞いてみてもいいが、凜はいくら酔わせても最低限の判断する能力を保持している。
缶の中に余ったコーヒーを全て口の中に放り込む。その時の舞の目からは肉親を殺されたかのような殺意に近い深海のごとく黒い感情を読み取れた。
転移先は美女を選び放題の世界だった。 狼狼3 @rowrow3
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