電話


 雅と何度か励んだ後シャワーを浴びて色々と付着したものを流し落とした。

 凜と違って雅には主導権を握られてこれでもかと絞られた。雅の技術は凄まじくずっとハツラツしたままだったが、終わると朝だというのに寝てしまいたいほどの疲労があった。徹夜一日目くらい眠い。


 まだ少し濡れている髪を無視して、ベッドに倒れ込む。汚れたシーツなどは洗濯のところに片付けたが、特徴的な匂いはまだ残っていた。慣れない匂いが気になるけど、疲労感が寝るのにはちょうどよくて目を瞑ればいつでも寝られそうだ。

 気持ちよさそうにベッドの上で腕を伸ばす江馬に雅は微笑むと、先程から振動を続けているスマホを江馬に渡した。


「江馬さん、スマホが振動してます」

「スマホ?」


 雅から自身のスマホを受け取ると、江馬は表情を歪めた。


「何だこれ。通知二百件? 誰からだ? ……凜は今日仕事って言っていた筈だけど、こんなに連絡して来て大丈夫なのか?」

 

 通知を二百近く送ってきていた相手は凜だった。気付かなかったが、朝の六時くらいから滝のように送ってきていた。今日凜は仕事と聞いていたんだけどな。『無視反対!!』『は や く し ろ』『いつまで寝てるの!!』etc……早く返信を返した方がよさそうだ。


 昨日凜に入れさせられたビンビンという連絡アプリを開いた。


―――――――――



…………

………

……


凛: 起きて!! 10:21


凛: (=`.´=) 10:23


凛: 起きろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! 10:26


凛: 何回も 起きてと言って いるのにさ 起きないのはさ 酷すぎるぅぅ (;Д;)  10:28


凛: ...ρ(。 。、 ) 10:30


凛: (<I>ω<I>) (<I>ω<I>) (<I>ω<I>) (<I>ω<I>) (<I>ω<I>) (<I>ω<I>) (<I>ω<I>) 10:31


凛: (<I>ω<I>) (<I>ω<I>) (<I>ω<I>) (<I>ω<I>) (<I>ω<I>) (<I>ω<I>) (<I>ω<I>)  10:34


江馬: 起きたけど、眠いからまた寝るね。お仕事頑張って。 10:36


江馬: ☆⌒(σ・ω・)σゴメンネ 10:36


―――――――――


 これから寝るけど一応は起きたし、謝っておいたので許してくれるだろう。

 俺はスマホをベッドの上に放り投げた。やることは終わったし、はやく寝よう。目を瞑って寝ようとしたその直後、スマホの振動が始まった。ピコんピコんという音が途切れることなく連鎖的に始まる。

 耳に刺激的な機械音に、俺は仕方なくスマホを手に戻した。


―――――――――


…………

………

……


江馬: ☆⌒(σ・ω・)σゴメンネ 10:36


凛: ふ ざ け る な 10:37


凛: 起きろぉぉぉぉぉぉぉ!! 10:37


凛: 寝るの駄目 これ、絶対!! 10:37


凛: 寝ちゃ嫌だよぉぉぉぉ!!(இдஇ; ) 10:37


凛: もしかして、本当に寝ちゃった? 10:37


凛: そんな……訳……ないよね? 10:37


凛: あ 10:37


凛: い 10:37


凛: し 10:37


凛: て 10:37


凛: る 10:37


凛: もし、ここが南極だったらどうするの? 寝てしまったら死んでしまうんだよ? 江馬が死んだら私は凄い悲しいし、私は凄く悲しいの。 だから、起きよう? 江馬がここで死んじゃうんなんて考えられないよ。私の為にお願いだから生きて 10:37


凛: うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!! 寝ちゃ嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 10:37


凛: 私は信じている。江馬なら絶対に起きてくれるって。江馬が死ぬわけないんだから。皆もそう思うよね。……あ。皆は私が殺しちゃったから居ないんだった。 10:38


凛: 私が起きているんだから、江馬も起きて当然だよね? 10:38


凛: 寝るの反対!! 10:38


凛: お願いだから起きようよぉぉぉ!! 江馬の声が聞きたいよぉぉぉぉ!! 。・゚・(ノД`)・゚・。 10:38


凛: 電話しよ? 10:38


―――――――――


 ネタだと信じたいホラーやポエムにも驚いたが、それよりも大量の文字を一分ちょっとの間で生み出したことを凄まじいと思った。俺だったら、これらの文章を作るのに十分は掛かる。ここまで速く文字を打てて話も考えられる凜にはもしかしたら小説家の才能があるのかもしれない。

 俺の既読が付いたことで、『電話しよ?』で言葉が止まる。

 眠いけど、俺は電話を凜に掛けた。

 すると、一秒もせずに凜は電話に出た。


「おはようございます、こちら江馬です」

『おはようございます、こちら凜です。……寝ないで電話を掛けてくれてありがとう。江馬の声が聞けて滅茶苦茶嬉しい』


 凜の言ったありがとうは、江馬に効いた。

 ありがとうと言われるのってこんなに嬉しいんだな。電話を掛けただけだからそんなに実感はないけど、胸の辺りが温かい気持ちで満たされる。今まで言われたありがとうで一番嬉しかった。

 江馬が凜の言葉に照れて黙っていると、凜が焦ったように江馬に尋ねる。


『も、もしかして寝ちゃった!? まだ休憩時間だから、お話したかったんですけど。おーい、起きてますか? おーい』

「起きてるよ。……眠かったけど、眠けが覚めたから凜が望むまで会話を続ける。止めたかったら、いつでも切っていいぞ」

『優しい、好き。……あ。い、今のはなし!! い、いつまでも会話しちゃうから覚悟して下さい。寝かせませんよ』

「やっぱり寝たらごめん」

『ちょっと待って!! 休憩時間後十分くらいだから、それまでは付き合って』


 はいはいと凛の反応に楽しそうに江馬は答えると、休憩時間が終わって凜が電話を切るまで会話に付きあった。

 会話を終えた江馬は気分がよさそうにベッドに横になる。

 寝る前に、遠くにいた雅に声を掛けた。


「おやすみ、雅」

「ヒ””ッグ ……おやすみなさい、江馬さん」


 江馬に言われたおやすみにその場で嬌声を上げて雅が跳ねた。効果抜群だったようで、立っていることも出来ずその場で脚を崩す。雅は鼻血ではなく、もう一方の体液の方がよく出る。凛とは逆の体質の持ち主だ。

 江馬は眠さで雅の様子に気が付かず、目を閉じて少しすると寝てしまった。

 


 しばらく余韻に浸った雅は江馬が寝ていることを確認すると、江馬のスマホを手に取った。


「……さっき江馬様と話していた雌はこの人ですか」


 アマンソと描かれたTシャツを着る女性のアイコンを見る雅の目は、嫉妬で燃えていた。

 

――――――――


今回使用した顔文字は顔文字屋というサイト様の物を使わせて貰いました。



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