そこに居るのは誰?②


『ニクニク漫画に突如現れた漫画は全世界に影響を与えています。全世界で筋トレブームが流行し、筋肉に関する会社の株価がそれに応じて高騰しています。プロテインなどは店頭で購入することが出来ず、通常の五倍程の金額で転売などで行われています。筋肉ブームが長期に及んだ際には消費者物価指数が上がるなど考えられ、現在政府ではインフレに対しての緊急会議が行われております。続いてのニュースは自宅でも簡単に出来る筋ト……』


 筋トレと言わせて溜まるかと、俺は言われる前に電源を切った。

 テレビを付けたら「筋肉」「筋肉」「筋肉」。筋肉に関するものしかやってない。美女が汗を垂らしながら筋トレしている映像が流れてくるのは悪くなかったが、自分の影響だと思うと胃が痛くなる。



 俺はテレビから目を離して、床に垂れた血をタオルで拭きとっている巨乳の女性に尋ねた。


「……それで、あなたはどうしてこの家に居たんですか?」


 女性が血を拭きとるのを止めて、こちらに向く。体が動くのにつれて大きな果実がたゆんと揺れた。


「私がから戻されたからです」

 

 という単語も気になったが、それよりも気になったのはおじいちゃんという言葉だ。


「おじいちゃん?」

「年寄りで細いんですけど、高身長でクールの男の人です。最近出会いました。ハグをしてくれたり、胸を揉んでくれたりしたいい人です」


 それはいい人じゃなくて変態だと思ったが、訂正するのは止めた。


 年寄りで細い男。その情報で今のところ思い浮かぶのはあの爺さんしかいない。

 でも、あの爺さんがクールか?

 人の部屋に勝手に侵入して来ては窓ガラスに頭をカッコウのように叩きつけ、帰るとカエルを掛けて面白くもない冗談を言う。……どう考えてもクールではないよな。そうすると、この人の言うおじいちゃんというのは別人になる。それとも、漫画で頭がおかしくなっていただけで本当はクールだったりするのか?

 

 クールな爺さんなんて信じられなかったが、一応念の為聞くことにした。


「そのおじいちゃんっていう人は、もしかして転神とかを名乗ってたりした?」

「えーっと、ちょっと待ってくださいね。今思い出します。ぐぬぬぬぬぬ。――思い出しました!! 一番最初に会った時にそんなことを言っていた気がします」

「……あの爺さんまた俺にちゃんと教えなかった」


 巨乳の女性の言うおじいちゃんという人はあの爺さんだ。

 ここで問題となるのは、爺さんが戻したということはこの女性について爺さんは知っていたということだ。

 男女比についてしっかり教えなかったのに加えて、爺さんが俺に教えなかったのはこれで二回目だ。ほうれんそうが大事ということをあの爺さんは知らないのだろうか。今度会ったら絶対に嫌味を言おう。


 ……にしても、あの見た目で胸を揉むなんてやるな爺さん。地球でやったら確実に捕まる。Gはありそうだし、大層よかったことだろう。羨ましい。

 クールっていうのも、女性の前だからクールの振りをしただけだろう。よくよく考えたら胸揉んでる時点でクールとかありえない。あの爺さん女が大好きとか言ってたし、女性の前ではカッコイイ振りをしたのだ。俺は男だから、素のままだった。そう考えると、あの爺さん滅茶苦茶キモイな。


「ところで、戻されたってどういうことですか?」

「私はこの家に住んでいるものです。自殺をしようとしましたけど、おじいちゃんに止められて自殺を止めました。おじいちゃんの所ではあなたの補佐をするために色々と教えられました」


 死んだと思っていたけど、生きていたのか。

 気にしていたから、生きていてよかった。



 それにしても、あの爺さん本当に説明不足が酷いな。


 確かに自殺をして死んでしまったとは言ってなかったけど、伝えておかないといけない情報ってあるだろ。幽霊が出てくるんじゃないかとか、結構気にしていたんだぞ。


 この家の家主だとすると、俺は思い当たる名前があった。

 

「もしかして、あなたの名前は伊藤雅さんであってますか?」

「おおっ!? よく分かりましたね。もしかして、私の名前が書いてある書類とか見ました? 私もあなたの名前はおじいちゃんから教えて貰って既に知っていますよ。田中江馬さんですよね?」

「合ってます。……ところで、俺はこの家に住まわせて貰ってもいいでしょうか? 今のところここしか住むあてが無くて、出来ればここに住ませて欲しいです。勝手に部屋とか使ってしまってすみません」


 俺はその場で土下座する。

 この家の家主は雅さんだ。今までこの家で過ごせていたのは家主が居なかったからだ。家主がいるとなると、話が変わってくる。家主の雅さんに駄目と言われたら、俺はこの家から出ていかなければいけないだろう。そうしたら俺はどうなってしまうか分からない。ここはどうにかして雅さんの機嫌を取るべきだ。


 俺が土下座の体勢を維持していると、雅さんの笑い声が上から聞こえた。



「やめてください。江馬さんがこの家に住むのを嫌がる訳ないじゃないですか。そもそも私が自殺をしようとしたのって、男と会えなさすぎたからですよ? むしろ、この家から江馬さんに出ていかれたら自殺します。……強いてあげるとすれば、他人行儀なのをやめて欲しいですね」


 顔を上げると、そこには目を真っ黒にさせた雅さんがいた。

 どこか凜と同じような雰囲気を感じる。本当に俺がこの家から出て言ったら、自殺してしまう気がした。……この世界の女性って全員ホラー属性持っているのだろうか。優しさの詰まった見事な双丘があるというのに、身に纏っている雰囲気は恐ろしかった。この人は天然の人だと思っていたのに。


 言われた通り、土下座をやめてその場で立ち上がる。


「あ、ありがとう。それじゃあ、この家に続けて住ませてもらう」

「ぜひ、そうしてください!! 私と一緒に仲良く暮らしましょう。……ところで、お腹空いてないですか? ご飯を用意しているんですけど、よかったら一緒に食べません?」

「食べる」


 俺が即答すると、雅さんは笑いながらキッチンに向かって行った。俺が即答したのが余程面白かったらしい。受けると思わなかったので、俺は心の中でガッツポーズをした。


 それにしても雅さんの笑顔って綺麗でいいな。雅さんの笑顔をみてそう思った。凜の笑顔は可愛いくて元気が出るって感じだけど、雅さんの方は綺麗でいつまでも見ていられるっていう感じだ。

 ナニがとは言わないが、歩いてただけだったのに服の上からでも分かる程十分に揺れていた。爺さんが本当に羨ましい。



 その後、俺と雅さんは談笑をしながらご飯を食べた。

 雅さんのご飯についてだが、美女が作ったという補正が乗っているからかもしれないけど凄く美味しかった。天然系にたまにあるダークマターを作り上げるというのは無かった。匂い、味、見た目全て満点。毎日食べたいくらいだ。お願いすれば、ご飯を毎日作ってくれるだろうか。



 ご飯も食べ終わって続いていた話の種が尽きる。

 元々女子との会話が苦手な俺に談笑なんて無理だったのだ。むしろ、ここまで会話を続けたことの方が奇跡に近い。よく頑張った俺。

 

 何か話題を作ろうと思った俺は、テレビをつけた。


 テレビというのは非常に便利だ。話題が簡単に生まれる。ネットが普及してからはそんなに見てなかったけど、こうしてみると意外と便利だなと思った。


 テレビをつけると出てきたのは筋肉という文字。失敗したと思った。しかし、元々体を鍛えていた俺はそこそこ筋トレの知識があったし雅さんも俺の漫画を知ってから調べたようで思いの外盛り上がった。筋トレで女性と会話が盛り上がる日が来るとは思わなかった。



 雅さんの話を相槌を打ちながら、筋トレに関係するもので何か面白いものはないかと考えていると雅さんが爆弾を落とした。


「ところで、さっきから私の胸を見てますけどもしかして興味ありますか?」

「あるに決まってる。正直爺さんが滅茶苦茶羨ましい」

「へぇ~、そうなんですね」

「あ」


 ヤバい。バレてた。しかも流れで、ついつい正直に話してしまった。

 罠に引っかかったといいたげに、焦る俺を見て雅さんは目を三日月に形を変えてニヤニヤと笑う。綺麗な笑顔も素敵だが、小悪魔的な笑顔もよく似合っていた。美人ってずるい。


 こういう時は誤魔化した方がいいよな? 凜の時は凜から襲われたから好き放題に出来たけど、今回は相手から何もされてないし。嫌われたら最悪だ。でも、どうやって誤魔化そう。


 考えるのに必死で黙ってしまった江馬に、雅は服を脱ぎ捨てて近付いた。


「おじいちゃんが言う補佐の内容にはも含まれていましたよ?」


 大きくて柔らかなものが動揺して動けない江馬の体でぷにゅんと形を崩した。

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