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電車はどこまでも走り続けた。それは、不安になるくらいに。
夕と藤は、じっと窓の外を眺めていた。
ある長いトンネルを抜けると、一面が唐突に雪景色になった。
驚いた二人は、顔を見合わせた。
「……雪なんて、何年ぶりに見るんだろう。」
夕が呟くと、藤は薄っすらと自嘲気味に笑った。
「私は、生まれて始めて見ますよ。こんな、雪景色は。」
窓の外に広がるのは田んぼや畑ばかり。そこを降り積もる雪が真っ白に染めていた。一気に日も暮れて、窓ガラスには二人の顔がよく映った。
二人は窓ガラスの中で目を合わせ、そっと手を握り合わせた。
ずいぶん遠くまで来てしまった、と思った。握り合わせた手の熱ばかりが確かなもののようだった。それ以外の記憶は、しんしんと降り積もる雪に包まれて白く白く消えてしまったみたいに。
「……そろそろ降りようか。」
そう言ったのは夕の方で、藤は従順に頷いた。電車がちょうどよく停まり、繋いだ手を解かないまま、二人は電車を降りる。
駅には分厚いコートの駅員が一人いて切符を切っており、泊まるところが近くにないか、尋ねると、駅を降りてすぐのところに、一軒だけ小さな宿屋があると言う。
駅員は、夕の父親とそう変わらないような年格好をしていたが、男同士で手を握り合う夕と藤を見ても、全く表情を動かすことはなく、機械的な動作で二人の切符を回収すると、お気をつけて、と、これまた機械的に口にした。
ありがとうございます、と、深々と頭を下げた夕と藤は、駅を降りてすぐ目の前にある、ごく小さな民宿に入った。それは、普通の民家と変わらないようなごく控えめな佇まいで、民宿、と看板を出していなければ、そのまま見過ごしてしまうことは確実だった。
その看板もペンキがすっかり剥げ落ちていて、もうすぐ文字が読めなくなる直前、といった様子だった。
奥から出てきたのはひどく痩せた老婆が一人。玄関とはいえ石油ストーブがたかれていて温かいのに、彼女は随分と厚着をして着膨れていた。
「今晩、部屋は空いていますか?」
夕がぎこちなく問えば、老婆もぎこちなく頷いた。それは到底客商売をしているとは思えないような、ごく控えめな動作だったけれど、今は大きな音一つで怯えるような夕と藤にとっては、その静かさはありがたかった。
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