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吹きすさぶ寒風の中、二人は二時間半かけて赤い駅舎に行くバスを見つけた。
このバスって、赤い駅舎に行きますか?
もはや惰性となりかけていた問いかけに、行きますよ、と応じられたとき、夕と陽子は、一拍置いて、手を取り合って飛び上がって喜んだ。まだ若いバスの運転手は、そんな二人を怪訝そうに見ていたが、そんな視線も気になりはしなかった。
「ついに発見ですね。」
玩具みたいに小さなバスの、一番後ろの席に乗り込みながら、陽子が声を弾ませる。
「そうだな。」
陽子の隣に腰を下ろしながら、夕も表情を緩ませた。
「寒かったですねー!」
「ごめんな。付き合わせて。」
「いいんですよ。ここまで来たら、もう来るなって言われてもついていきます。」
白く色をなくした指先に息を吹きかけながら、陽子が笑う。
同じく冷えきった手をコートのポケットにねじ込みながら、夕も笑った。
乗客は、夕と陽子以外誰もいない、レトロと言うよりは端的にオンボロのバスだったが、二人にとっては王様の馬車みたいなものだ。ようやく見つけた、赤い駅舎行きバス。
狭いシートで肩を寄せ合うようにして、二人は車窓からの景色を眺める。
陽子はうきうきと表情を明るくしていたが、夕の表情は微妙だった。
早く赤い駅舎にたどり着きたいような、着きたくないような。
「本当に、この先に藤がいるとは限らないんだよな。」
自分に言い聞かせるように口にした言葉。陽子は夕を、横目でちらりと睨んだ。睨みはしたが、そこに怒りの感情は乗せられておらず、じゃれつくような雰囲気すらあった。
「まだそんなこと言うんですか? 確かにいるとは限らないかも知れないけど、信じて下さい。そうじゃないと、こんなに寒い思いしたのが無駄になっちゃいます。」
そうだな、ごめん、と、夕は返した。それでも内心ではまだ、この先に藤がいるとは信じきれていない自分がいる。
会いに来てくれますか、と、藤はたしかに言った。それは、夕の訪れを歓迎する言葉のはずだ。
でも、その言葉はもう、遠すぎる。あの頃夕は子供だったし、藤だって、大人とはいいかねた。
人の気持ちはいくらでも変わるものだ。それが、子供から大人へと成長する過程では、特に。
「……人の気持ちは、いくらでも変わるよ。」
ぽつん、と、言葉を漏らす。すると陽子は夕の顔を見上げ、嘘、と返した。
「嘘ですよ。だって、夕さまの気持ちはずっと変わってないじゃないですか。」
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