序章:避難所編

第2話 日常

「おーい、謙斗(あきと)、今日は定時退社設定日だろ、早く帰れよ。一分でも遅れると怒られるのは俺なんだからな。」

謙斗の上司であろう人物が早く帰る様促している。


「グループ長すみません、すぐ終わりますんで。しかし、残業規制やら定時退社日やら制約がつく割には業務量減らないですよね…。」

「ほんとだよなぁ。締め付けばかりで本当に嫌になっちまうよ…。まぁ、それとこれとは別で、早く帰れよ!」

グループ長に追い立てられる様に職場から送り出された私の足取りは軽やかであった。


「今日は待ちに待った、”left4zombie2”の発売日だ。Kさんと定時退社まで合わせて一緒にプレイする約束したからな、本当に楽しみだ。」

ワクワクが抑え切れず、ショットガンを構え、クリアリングする様なポーズをとりながら帰宅した。はたから見ると変人だ。


「ふっふっふ、事前にダウンロードしていたから早速プレイできるぞ。Kさんはソフトで買うと言ってたからまだプレイできていないだろう、少し先に進めといてマウント取ってやろう。」

浮き足だちながらデスクに向かいヘッドセットを装着し、いざ尋常にと意気込みゲームの電源を入れた。


「嘘だろ…」

真っ先に飛び込んできた情報に私は驚きを隠せなかった…。

「Kさん、オンラインじゃん…。」

オンラインのフレンドリストに出し抜こうとしていた本人がデカデカとオンラインと表示されていたのである。


私はKさんに向けてボイスチャットの申請を飛ばした。


「AKIくん、遅かったね、おっ先でーす!」

開口一番のKさんの言葉に私は何て大人気ない人なんだと思ってしまった。


「Kさん、なんでいるんですか!?早すぎでしょ。」

「ふっふっふ、管理職をなめるなよ。優秀な部下が育っているからね、1日くらい有給なんてわけないさ。」

Kさんはこの日のために有給をとったとのことだ。同じ穴の狢、相手を出し抜いてやろうと考えている事は一緒のようだ。まぁ、今回はKさんのほうが一歩上手だった様だが…。


「Kさん、どこまで進んだんですか?」

「んー、チャプター3だよ。」

この時点でKさんは朝からこの時間までかなりやり込んでいる事が分かった。


「えー、Kさん、ずるいっすよ…」

「AKIくん、ちゃんと姫プしてあげるから」

Kさんは笑を堪えながら発言している。その発言で私は火がついた。


「早くやりましょう、チュートリアルから付き合ってもらいますからね!」

「望むところだ。」

そう言うと二人でマルチプレイを始めた。


—— 二人でマルチプレイを始めて、3時間が経った頃


「AKIくん、少しいいかな…」

「どうしたんですか?Kさん」

「いやね…」

Kさんはなぜか口籠っている。


「なんかあったんですか?」

「目、肩、腰が固まった…」

Kさんの発言の意図が分からず、え?と聞き返してしまった。


「ほら、よくCMである、あの…。」

「あぁ…」

要するに長時間ゲームし過ぎて体にガタがきたと言う事だ。


「ちょっと休憩しましょうか」

「すまないね、まだチャプター2なのに…」

「Kさん、やり過ぎなんですよ…朝からぶっ通しでしょ」

そんな、他愛もないやり取りを続けていくうちにKさんからいつも来る質問が飛んできた。


「AKIくん、もしこんなゲームの様な世界に日本がなったらどうする?」

いつものお決まりの質問だ。


「私はね、生き抜く自信があるよ。なんてたってそのために物資の備えもあるからね。」

Kさんはすこし終末論者な気質はあるものの、会社では至って普通である。


「わかってますよ、Kさんは大丈夫でしょう。まぁ、私も蓄えや物資は無いですがそれなりに生き抜けるとおもいますね。」

「じゃあさ、もしこんな世界になったら二人でこのゲームみたいに根源を倒しに行こう。」

大の大人二人がそんな妄想話をして盛り上がっている。はたから見ると変人である事は間違いないだろう。


「でも、日本だと銃火器もないからなぁ…どうやって戦う?」

「日本だとホームセンターに籠るしかないですよね。私ならゾンビライジングのゲームみたいにダクトテープ使ってコンボ武器つくりますかね。」

「それくらいしかないよね。」

ゲームの知識でどうやって戦い抜くかなど更に妄想を膨らませた。コンボ武器ではKさんはぬいぐるみとマシンガンを組み合わせたタレットが好きだと言う話であったが、結局銃火器じゃんと笑あった。


私はそんなKさんとのやりとりが楽しくて仕方がなかった。


「AKIくん、じゃあどんなゾンビが一番出会いたくない?」

「難しい質問ですね…、一番嫌なのは人の感情と心を持っているゾンビですかね…。」

「それはどうして?」

どうしてと聞かれるは思っておらず、少し困惑した。一息置いて私は答えた。


「殺す時に躊躇してしまいそうだからです…。」

私がそう答えるとKさんはこう尋ねてきた。


「じゃあさ、私がゾンビになりかけて、AKIくんに介錯をお願いしたらどうする?」

「はっきり言って嫌です。でも、その場になってみないとなんとも言えないですね…。まぁ、そんな未来は来ないでしょうがね。」

そんな話やこんな話をしている内に夜も深まり、次のゲームの約束を取り付けて二人とも就寝する事となった。


「Kさん、おやすみなさい。勝手にチャプター進めないでくださいね!」

「AKIくん、おやすみ。じゃあ、ゾンビになった時は介錯頼んだよ!」

そんな雑談を軽くした後、ゲーム機の電源を切り、そのまま、ベットに飛び込み、横になった。

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