防衛





   * * *




 高空からの強襲に成功したジズの超重量級の鉄拳。

 それを受けた柱の機属〈スィムハー〉の装甲は──


「無傷!」


 完全に防がれた。

 否。防がれたというには手ごたえがしっくりこないナイト。

 まるで見えない壁に阻まれたような感触があったような……

 そんな彼の逡巡しゅんじゅんを無視して、機属は単眼モノアイをジズに向ける。


『避けろ、ナイト!』


 単眼から発射される光線を、ジズは片腕を払って防ぐ。


『無事か、ナイト!』

「な、……なんとか」


 地上に降り立ち、とにかく柱の機属たちの侵攻を止める位置取りで殴るけるを繰り返すナイト。

 だが、その一発一発が不発に終わってしまう。

 これまでは相手を一撃で粉砕してきた機体とは思えない戦果であった。


「シスター。あいつら、なんというか透明な膜というか、そういう感じのがあるっぽいんですが?」

『ああ、防御障壁だ。三等以上の機属全機が搭載している、厄介な防御機構だが──それが?』

「防御障壁」


 道理でこちらの拳も蹴りも通じないわけだ。がむしゃらにタックルしに行っても、弾かれて終わってしまうのはそのためか。

 ナイトはカナイとの通信を切って機神を呼び出す。


「ジズ」

『はい。なんでしょう、ナイト様』

「防御機構とやらを突破する方法は?」

『解析──“魔力充填による攻撃によって突破可能”です』

「ま、魔力だと?」


 ナイトは瞬時に思い出す。

 ステータスウィンドウを発見した夜のこと。

 ゲームの設定画面よろしく、パラメータ一覧に体力や魔力・・の存在も表記されていた。

 しかし、


「ここへ来て、魔力なんてものが必要な相手が現れるなんて!」


 毒づくナイト。

 彼はこの世界に渡り来てから、魔力という単語とは縁遠い生活を送ってきた。

 そもそも機械を操縦し、機械の怪獣を相手に戦う世界で、魔力なんてものが必要な道理があるのだろうか。


「ジズ! どうやったら魔力とやらを使える!?」


 戦いながら問いを投げるナイトに、ジズは即座に応じた。


『結論──該当する称号ノーブルランクを未所持のため、現段階では生成不可能』

「はあっ?!」


 ナイトは本気で頭をかかえたくなった。


「該当する称号って、いったい何だよ!」

『一例──“魔法使い”“魔法使いの弟子”“魔術士”“聖者”“救世主”“救済』

「ああ、もういい!」


 ないものねだりをしても始まらない。

 ナイトはジズを駆って、できるだけ街から離れるように──それでいて〈スィムハー〉たちの気を引けるように、機体を駆動させ続ける。砂漠が砂煙と塵旋風をあげて、ジズの足跡をかきけしていく。


「くそ、どうにかしないと!」


 敵は十三基もいる。

 二十メートルの柱状の巨体は、〈ミソパエス〉や〈レリウーリア〉の攻撃を、うるさい羽虫を追い散らすようにケーブルを伸ばして鞭のようにしならせる。

 その様子をつぶさに観察して、ナイトは密かに驚嘆する。


「……二人の攻撃は、通じてる?」




   * * *




『まずいです、先輩』

「泣き言なんて聞きたくないけど、一応きいておいてやる。なに?」


 漆黒のパワードスーツが展開したビームソードで〈スィムハー〉のケーブル攻撃を列断している最中、二人は背中合わせで通信を交わす。


『ナイトさまが苦戦しておられます』

「見ればわかる」


 カナイも、戦況が非常に苦しいものであることは見て取れた。

 ナイトの機神ジズは有効打となる攻撃を示せず、十三基からなる機属の群れを街から遠ざけるので手一杯といった有様だ。

 このままではジリ貧もいいところ。いつ、この均衡状態が崩れるか、分かったものじゃない。


『いざとなれば、我々の最終奥義もありますが』

「それは本当の最終手段だ。この場面で使うのは得策ではない」


 何より、“あれ”に少年ナイトを巻き込むのはしのびない──が場合によっては、そうも言ってられないのが現状であった。

 そんなときだった。


『二人とも!』

「ナイト、無事か?」


 通信回線を開いたナイトが慌ただし気に言葉を紡ぐ。


『思いついたことがあるんです!』






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