野営





   * * *





 機属の残骸に囲まれながら、ナイトたちは火をおこし、ターフを張って野営した。赤橙色の炎で湯を沸かし、〈ミソパエス〉に格納していた簡易糧食──即席スープで心身を温める。

 昼間はゆだるような暑さだったが、砂漠という土地柄、夜は極寒にまで気温は低下する。夜間でも戦装保有者であるカナイとカアスは問題なく動けるが、機属との戦闘に不慣れな少年ナイトがいることを考慮されたのである。当のナイトは、「自分はジズに乗ってるだけだけど」と言い張ったが、カナイが承服しなかった。


「それにしても。派手に壊したもんだ」


 カナイは黄金の瞳を機属の残骸の山に向けた。

 壊した張本人であるナイトは頭をかいて照れ笑う他にない。


「すいません、派手にやっちゃって」

「いや、いい。むしろ食いやすくて助かる」

「……食いやすい?」


 ナイトが疑問符を浮かべる端で、カナイの抱える十字架が“口を開けた”。

 獣のような牙の列──というよりも、何かの炉心が渦を巻いているような。

 途端、始まったのは〈ミソパエス〉による食事であった。機械の十字架が機械の残骸を吸い込み、炉心の奥に引き込む様を、ナイトは驚愕の瞳で見届ける。

 煙草を吸うカナイは事も無げに告げる。


「私らの戦装は、機属を現動力として運用されてるんだ。だから、定期的にこうやって機属の鋼材や燃料を補充させるってわけ」


 なるほど、などと手を打って感心することもできない。

 彼女たちの保有する兵器の意外な事実に直面し、「ならば自分の機神ジズは?」という問いを浮かべかけた時だった。


「カナイ先輩」

「カアス、そっちは済んだ?」

「周辺探査は一通り。機属の反応は皆無でした」


 これで安心して夜を越せますと微笑む銀髪紅眼の修道女──あらため修道士。


「どうかなされましたか、ナイト様?」

「いや、その、カアスの恰好、というか、修道服は……その……」


 これはセクハラ発言に該当するのではという思いと、男性が平然と女性の恰好をしている事実に、頭が混乱を余儀なくされる。

 ナイトのしどろもどろな質問に対し、カアスは平静な声で応える。


「ご安心ください、ナイトさま。この服装は、私の趣味です」

「趣味なのっ?!」

「冗談です♪」

「冗談なの!?」


 その場で二回はすっ転びそうになる少年の様子に、含み笑いを大きくするカアス。

 見かねたカナイが軽く釘を刺した。


「こら。あんまりナイトをからかうんじゃないよ、カアス」

「すいませーん、ナイト様の反応が、おもしろくって……それに」


 カアスは笑顔のうちに冷たいものを含ませて言う。


「私の恰好に疑念を持っても、それを揶揄したり忌避したりする殿方は初ですからね♪」


 彼は真実満足そうに頷きつつ、ナイトと握手を交わす。

 そんなカアスの言を補足するように、敵い馳せt名してくれた。


「ったく。──カアスや私の修道服は、高位戦装保持者の証として授与されるものだ。自分の意思でどうこうできるもんじゃない。詳細が知りたけりゃ〈ミソパエス〉と〈レリウーリア〉に直接聞くしかない」


 聞けたらの話だが、と言って、カナイは〈ミソパエス〉の食事を切り上げる。残りは〈レリーウーリア〉──カアスの分に取っておくらしい。


「で。カアスよ。何があって〈カヴォート〉に追いかけられてたんだ、おまえ」

「それがですね──」


 二人が話し込んでる隙に、ナイトはナイトで調べたいことに奔走する。

 ナイトは視界端にあるステータスウィンドウを手早く開き、「道具アイテム項目」を選択。


「──これは」


 ナイトは〈カヴォート〉の残骸を手に取ると、アイコンが浮かび上がることに気づく。

 その内容はこうだ。

『機神ジズの格納スペースに、指定のアイテムを収納しますか?』

「Yes」か「No」の選択肢が出て来て、ナイトは数秒迷った末、「Yes」のアイコンをクリックしてみる。

 すると、手中にあった鋼材──〈カヴォート〉の残骸が消え失せ、「道具アイテム項目」の中に移ったことを確認した。


(ドロップアイテムは自分で確保する、って感じなのかな?)


 驚きとも畏れとも形容しがたい気持ちで事象の整理をし終えると、ナイトは意識を二人の方に戻した。

 どうやら残った機属の残骸について意見を交わしているらしい。


「残った〈カヴォート〉の残骸は、ユダ地区に搬送しよう。きっと役に立つだろ」

「けれど、この質量ですよ? 先輩とボクで牽引しても、一体分が限界かと」

「あー、だよなー。もったいねえよなあー」

「……あのー」


 遠慮気味に手をあげるナイトに、二人の視線が向けられる。


「どうした?」

「なんとかなるかもしれないです、よ?」






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