第5話
「武、どうした?珍しいこと言うもんだな」
ふと口にしたことが不自然なことに気がついた。慌てて続けた。
「…いや、昨日ネットで見たんだよ。霊についてのくだらないニュースがあってさ」
「ふーん。まー、いる気もするけどあんまり気にしたことないな。特に絶対にいる!とかって信じてないかもなぁ」
「まぁ、そんなもんだよな」
変なことを聞いたことにちょっと後悔した。本当のことを話したいが、ただでさえ少ない友達がいなくなってしまうのは誠に遺憾である。
教室に着き、いつもの机に椅子。窓から見える住宅街もいつもの景色。自分の座席に座ると目の前にはモンが机に腰掛け、ケンが頭の上を飛んでいる。異様だ。
「武。いきなり、霊の話するなんでどうかしてるとぼくは思うよ?」
「そうよね。あれはちょっと、私も驚いたわ」
「いや、なんで聞いたのか俺でもよくわからないんだよ。あ、モンさん黒板見えなくて邪魔なので避けてください」
いつもの小声で話しかける。モンはまた、しょぼくれて教室の端で体育座りをしている。ケンはモンの肩をポンポンと叩いて励ましている。モンには申し訳ないが、授業に集中したかったのでちょうどよかった。
今日は、顧問もいるので弓道場での部活だった。学校の周りの住宅街をゆったりと走りアップをして、弓道場で練習をする。暑すぎるので本気で走ったりは絶対にしない。矢を放つ練習でもあまり汗をかかないように気をつける。弓道場には、射場という矢を放つ場所、矢が通る矢道、的が埋め込まれている的場がある。射場から放つ矢は的に向かって一直線に飛んでいく、先輩や友達にまじって矢を放ち練習をする。部員は全部で9人とさほど多くなく、教えてくれる先輩と少し話す程度であまり会話もしない。祖父母の影響で中学頃から始めた弓道であったが、どれほど上達しているのかはよくわからない。モンもケンも、矢を引く素振りなどして真似をして楽しんでいるようだった。普段と違う2人がいる為なのか、終わる時間はいつも通りなのに自分の体感では練習がすぐ終わったように感じる。
日が沈み始め、空は綺麗なオレンジ色に包まれ、夏らしい夕焼けになってきた。遠くには雲が積乱雲をつくり、あまりの高さに地面に倒れてしまいそうである。帰り道、いつもの帰路を歩いているとおじいさんがゆっくりと杖をつきながら歩いてきた。もう少しですれ違うという時に、おじいさんはすれ違う俺に聞こえるか聞こえないかの声で呟いた。
「幽霊って信じるかい?」
思わず、俺は足を止めて振り返った。おじいさんは歩くのをやめて背中を向けたまま、さっきより少し大きな声で話した。
「君、見えるでしょ?」
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