秘密のともだち
雪待ハル
秘密のともだち
ある時代、とある場所に、小さな王国がありました。
王様はこの国を大きな国にしたいと考えていて、自分の一人娘を隣の大きな力を持った王国の王子と結婚させる事で、自分の国に力を貸してもらえるようにしようとしました。
これを一人娘のオルガ王女は良く思いませんでした。
「国の都合で結婚相手を勝手に決められるなんていや。私は心から好きになった人と結婚したいわ。」
そう王様に言いましたが、聞き入れてはもらえませんでした。
「オルガ、これはこの国の為なのだ。お前が結婚する事で、この国の民は幸せになれる。」
でも、じゃあ、私の幸せはどこにあるの?
そう言いたかったけれど、王様の真剣な顔を見て言葉を飲み込みました。
その夜、気持ちが落ち込んでいた王女はこっそり城を抜け出して、外へ出かけました。
向かった先は森の中。月明かりに照らされて、木々が静かに佇んでいます。王女は木にもたれかかるようにして座り込むと、しくしく泣き出してしまいました。
「王女様。何故泣いているのですか?」
突然声をかけられた王女は驚いて顔を上げると、目の前に一羽の烏がいて、こちらをじっと見つめていました。
「まあ。貴方は話せるの?」
「はい。僕は話せる烏なんです。もし辛いのなら、僕に話を聞かせて頂けませんか?」
烏が口をきいた事に対する驚きはありましたが、丁寧な話し方と優しげな態度に王女は恐怖を感じませんでした。
突然できた話し相手に自分の今の気持ちを聞いてもらおうと、勢い込んで話し出したのです。
王女が濁流のような勢いで話している間、烏は礼儀正しく、時に「うん、うん。」と相槌を打ちながら聴いていました。
話を聞き終えた烏は「それはひどいですね。」と言いました。
「でしょう!?」王女は涙ぐみながら、すがるように言いました。話している内に、だんだんと悲しみが込み上げてきたのです。
「貴女は王女だ。立場的に仕方のない事なのかもしれないが・・・それでも、民の幸せの為に貴女一人が自分の人生を犠牲にしなければならないというのは、私もおかしいと思います。」
烏の言葉を聞いて、王女は嬉しくなりました。この理不尽を、悲しみを、解ってくれる相手がいた事がとても嬉しかったのです。
すると、ふいに烏が翼を広げて宙に飛び上がりました。
「そろそろ時間だ。私はもう行かなければ。」
「行ってしまうの?」
「大丈夫。明日もこの時間、この場所でまた会えます。それでは王女、おやすみなさい。」
そう言って烏は、森の向こうへと飛び立ってゆきました。
それからというもの、王女は毎晩城を抜け出して森へ向かい、烏とおしゃべりをするのが日課になりました。
烏はいつでも、王女の話に真剣に耳を傾けてくれ、時に的確なアドバイスをくれました。
この烏と話している時間は王女にとってとても心穏やかで楽しい気持ちでいられる、素晴らしい時間でした。
この優しく賢い友達を、王女は大切に思うようになりました。
「ねえ、烏さん。貴方は私の心の恩人よ。今まで本当にありがとう。」
結婚式の前日、王女は烏に笑顔でそう言いました。
「貴方のおかげで、私はこの日までに勇気をたくさんもらう事ができた。私はもうこの森へは来られないけれど・・・どうか、元気でね。」
さようなら。そう言って王女が背を向けた時、烏がぽつりと言いました。
「さようなら、王女。また明日会いましょう。」
え?と振り返った王女が見たのは、夜空の彼方へ飛び去ってゆく烏の後ろ姿でした。
実をいうとこの烏、魔法で姿を変えた隣の王国の王子だったのです。
王子も王女と同じように、国の都合で会った事もない相手と結婚する事に不安を感じていました。
そこで自分の部下であり友人でもある魔法使いに頼み込み、自分を烏にしてもらって、こっそり結婚相手に会いに来ていたのでした。
真実を知った王女は驚き、そしてたいそう呆れましたが、王子を許しました。
王子は正体を隠していた事を謝り、そして自分が王女を愛している事を告げました。
王女は幸せそうに微笑み、こう言いました。
「私もよ。ありがとう、私の大事な烏さん。」
おわり
秘密のともだち 雪待ハル @yukito_tatibana
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