第19話 再び「粋」へ
今日は、また、あの居酒屋「粋」に行って見よう。
でも美和子がいないと意味はないし、電話で確認してから
今日は行こうと決めた。
昭は、食べログで「粋」を探し出し電話番号をメモした。
夕方になり「粋」に電話をした。
プルル、プルルとコールがなって大事なことを思い出した
「何て聞けばいいんだ」「美和子さんいますか」そんなの変だよな
どうすれば美和子がいることを・・・頭で一瞬考えて切ろうと思っていたら
「お電話ありがとうございます。粋でございます」と美和子の声が聞こえた。
思わずびっくりして電話を切ってしまった。
相変わらずの自分にあきれてしまう
「美和ちゃん、俺、今日今から行くね」
そんなこともいえない自分に本当に腹が立つ。
洗面所の鏡で容姿を確認して浮き浮きした気持ちで「粋」に向かった
外はどんよりと厚い雲に覆われて雪がちらついていた
今日は、大雪になるとそういえば天気予報で言っていたな。
地下鉄を降りて「粋」に向かう頃には、大きく破いた紙切れのような
雪が目の前の視界をさえぎる位激しく降ってきていた。
「粋」の前に着くとうっすらと雪が積もってました。
うっすらとではありましたが、これからもっと積もるぞ
みたいな雪の存在感がありました。
ドアを開けると「いらっしゃいませ」と女将のいつもの声に
美和子ちゃんの「いら・・ハハハハ 雪だるまみたい」と
屈託の無い顔で私を見て笑いました。
美和子は、急いで調理場に戻ると、自分を手招きをし
パウダールームに連れて行きました。
鏡に映った自分は、頭、ダウンジャケットの上に雪が積もり
メタボの体系が雪だるまみたいでした。
美和子は笑いながら調理場から持ってきた、綺麗なタオルで私の
雪を丁寧にふき取ってくれました。
「ハイ。これでOK」
「ありがとう」
カウンターに着くとお絞りを女将に出してもらい
「寒かったでしょう」と言葉をかけてくれました。
「最初はビールでいいの?」
「ハイ」
ビールを飲みながら適当なおつまみを頼むと、美和子が
「今日ね、これあたしが作ったの」と言って
お通しを持って来た。
それは、秋刀魚のマリネで、レモン味のするさっぱりとした一品でしたが
これは、母が良く作っていたマリネでもありました
それは、片栗粉であげた秋刀魚にキャベツの千切りを上にの乗せ
レモン汁で作ったドレッシングをかけて食べるのですが
そのレモンドレッシングが美味しくよく小さい頃はおねだりしていたのを
覚えています。
これが不思議なことに、そのレモンドレッシングが母の味と
似てることでした。
もちろん料理の雑誌などに掲載されているものなら、同じ味でもおかしくはありません。
思わず「美味しい!!これ好きなんだよね」
「ええ!!本当 うれしい!!」
と答えたものの、どうして初めて食べたのに「これ好きなんだよね」って言ったのか、美和子は違和感を感じたようだったが、表情からは直ぐ消えいつもの
愛くるしい笑顔に戻っていた。
「今日はお客さん来ないかもね」と
女将が窓を見ながらつぶやき、それにつられて窓を見ると
景色が白い斑点で覆われていて、景色自体が何かの病気のような
何とも言えない憂鬱感がありました
「じゃ俺で貸切ですね」
「そうかもね。今日は料金臨時値上げ(笑)」
といつもの様に邪魔にならない程度の上品な冗談を言った。
おかげで美和子とも女将を交えて沢山話が出来た。
女将が俺と美和子の話のフォローをしてくれるので
本当助かった。
美和子が東北大学の経済学部ということも分かった
自分は、東北大学の法学部を狙っていたので、
東北大学の経済学部、法学部は同じ川内キャンパスなので
もし母に不幸が無ければキャンパスで一緒だったかも知れない。
そう思うと自分の運命に不幸を感じた。
どっちにしろ年齢的には一緒になるはずがないが美和子のことを彼女扱いに心の中ではなっていた
また、美和子は株、FXなど投機マネーもしていることが分かった
これまた不思議なことに、想像もしていなかったが、女将も
投資をしていることが分かった。
もちろん小額の小遣い稼ぎだと言っていたが・・
でも、この仕事は自分ひとりで出来ること、誰とも話をせずに
出来ることに興味を持った。
美和子に教えてと言いたかったが、その勇気は無かった。
雪は激しさを増しもう降っているなどと言うような感じではなく
天から流れ落ちているような激しさだった。
窓から見ると一面真っ白でまるで水墨画を見ているようだった。
結構酔いが回っていた。
また例によって「乾坤一」を進められ、調子に乗って飲みすぎた。
本当にここは酒の肴が美味い。
美和子ともじっくり話が出来本当に楽しかった。
俺の名前も覚えてくれたし・・・
絶好のテンションだったが、女将が
「あらら雪凄いね。美和子ちゃん今日はもういいわよ。帰るの大変だから」
その言葉はまさに窓の外に見える景色のように頭が真っ白になった
このままもっと美和子と話をしていたかったのに・・・・
俺も帰るしかないよな・・・と昭は思った
「そうだな。俺ももう帰ろうかな。このままでは帰るの大変だから」
会計を済ませていると、ちょっと大き目のダッフルコートと着た美和子が
いた。
「お疲れさまでした」
「気をつけてね」
「は~~い」と聞こえるかいなや
「キャー」とドアの前で転んでいる美和子が眼に入った。
思わず駆け寄り「大丈夫」と声をかけると
「大丈夫です」と・・・
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