最終話:不登校の僕と君

「..........っえ」



李乃さんの部屋には何度も行ってたから、ドアを開けてどこに何があるか覚えてる。

ドアを開けて左側にベッドがある。僕は左の方に目線を向けるが、ベッドにはいなかった。


しかし僕は信じられない光景を目の当たりにする。



「え.....李乃さ.....えっ....何をしてっ......」



僕は衝撃の余りその場にへたり込んだ。

李乃さんは天井からなる紐を首にかけ吊るされていた。



「え...ど....どういう.....何...これ......李乃さっ.....え.......」



ふと李乃さんの顔を見て僕は察した。

下を向き目を閉じた李乃さんの顔.....白くなった肌.......



「あぁ...あっ....うぁぁ....どうしてこんなことを.....」



首を吊って死んでいた。

腕からは切り傷による出血で血が床に滴っていた。

僕は放心状態でただただ涙を流し、李乃さんの名前をうわ言の様に呼んだ。



「李乃さん.....李乃さん....李乃さん.......」



ふと周りを見ると、ベッドの上に紙が置いてあるのを見つけた。

それには何か書いてあり、少しインクが滲んでいたがこう書かれていた。



『『かおるだいすき

でももうつかれた

さよなら』』



1番最初の行に、ちっちゃくそう書かれていた。

その文字のインクは滲んでたけど、僕は読んだ後それが涙によるものだったと気が付いた......だって今も涙でインクが滲むんだ.......



「うぁぁぁああ.....うっ....ひぐっ.....」



僕は泣いた。ただただ泣いた。

最愛の彼女と親友を同時に亡くした気持ちだった。

部屋はカーテンが閉まって暗く、最悪の空気が部屋中に漂っていた。


どうしたらいいかもわからず泣いていると、家のドアが開く音がする。



李乃母 《ただいまー》


「っ!?誰か帰ってきた...!?どっ...どうしよ...!勝手に入ったことがばれる...!」



更に階段を上がる足音が、ドンドン近づいてくる。

そして部屋の前で足音が止まる。

李乃さんのお母さんは部屋で寝てると思っている李乃さんに言う。



《李乃ー?起きてるのー?ご飯、買ってきたわよー?》


「ハァ......ハァ......ハァ......」


《李乃ー?開けるわよー?》



ドアノブが捻られドアが開いた。

すると僕の存在に気付いたのかこう言った。



《李乃起きてるの........え......貴方....何してるの....?》


「ハァ.....ハァ.....ハァ.....」



李乃さんのお母さんは目を大きく見開き、僕の方を見てそう問いかける。

さらに続けてこう言う。



《ねぇ......何をしたの......李乃....どうして貴方が目を閉じた李乃を抱いてるの...?

貴方李乃に何をしたの.....》


「っ......ち...違う.....僕じゃない.....僕は何もしてない......僕はただ心配で.....李乃さんが心配で........」



震える声でそう言うと、お母さんが怒鳴る。



《私の娘にに何をしたのよ!!どうして私と李乃の家に入ってるのよ!!ふざけないで!!

心配とか嘘に決まって———》


「嘘じゃない!.....学校から帰ってこの家の向かって....インターホン鳴らしても反応が無くて....ドアが開いてることに気づいて....不法侵入になるのは分かってたけど.....心配だったから.....それで部屋に入ったら......入ったら......うぅ.....李乃さんは....李乃さんはぁ.......」



そう話してくう内に涙が溢れてきた。あの情景を思い出すだけで声もより一層震えだして止まらない。

するとお母さんは僕の言う事を察したのか、こう言った。



《嘘.....嘘に決まってる.....あの子が......まさかあの子がそんな事.....そんな事をあの子がっ......あぁそんな.....》



お母さんはその場で僕と同じようにその場にへたり込む。

顔を手で覆い、我が子を失ったショックなのかひどく泣いた。

僕もそれを見て、改めて悲しくなり涙が止まらなかった。


それからはあっという間。

葬式は僕とお母さんも呼ばれ参列した。

最後に李乃さんの棺に入った姿を見た時は、ホントに信じがたかった。


僕の事を気にかけてくれた恩人でもある李乃さんが、死んでしまった。

僕の目の前で今永遠の眠りについている。

こんな事実、嘘であってほしかった。


葬式が終われば次は学校。


李乃さんが亡くなったことを知り学校は、いじめ防止のポスターを学校の掲示板すべてに貼り、授業でもそれ関連の事を高頻度でやるようになった。

そういう授業をし続け次第に罪悪感を感じたのか、今まで僕をいじめてきた人が僕に謝ってきた。


僕はもういじめの事なんかどうでもよかった。

昔に逆戻りだ。李乃さんと出会う前に戻ってしまった。


意味がなくなってしまった。前にお母さんから言われた


〘学校に行く理由を作ってみな〙


僕は密かに理由を作っていた。

李乃さんと一緒に居る為っていう理由を。

でももう意味もなくなってしまった。僕が学校へ行く理由なんかが。


この先の高校とか....全てがどうでもよかった。

授業の内容だって、李乃さんが生きていたのなら普通に聞けていたのに......亡くなってからじゃ、ずっと李乃さんの空いた席を見ながらボーっと李乃さんと過ごした時間の事だけを考えてしまう。


そして案の定また不登校となった。


初めてあそこまで深い関係になった人を亡くしたショックを、ぬぐい切れなかった。

そのまま李乃さんを思い続け高校生の年になった。


なんとか高校には入れたけど中学と生活は何も変わらず、すぐにまた行かなくなった。


そんなある日、僕の元になにやら手紙が届いた。

差出人は李乃さんのお母さん。


すぐに中を開けると、一枚の紙が置いてあった。

手紙と言うより遺書なんだと思う。

李乃さんのお母さんが言うには《部屋整理の時に見つかった》との事。



『『郁へ。これを郁に見られるのはちょっぴり恥ずかしいけど、書いていきます。



私ね、ホントは郁ともっと一緒に居たかったの。でも気持ちがそれについてこなかった。体がそうしようとしても、それと心が合わない。郁ならその気持ちわかってくれると思うんだけどね...笑


私部活でバスケやってるって話したことあったでしょ?

そこでいじめにあったってのも話したと思う。

郁は「辞めたらいいのに......」っていつだか言ってた.....私もそうしたかったけど、私の夢はバスケ選手で、その為には部活で多少なりとも経験しておかなくちゃって思って.....だから辞めずに頑張って耐えてたの.......


まぁ.....もう分かってるかもしれないけど私はもう我慢の限界だった。

執拗な嫌がらせに続いて部活の疲労.....色々な事が続いて私の体は精神共にボロボロになった。


郁に相談してもう少し我慢しようって思うようになったけどそれも続かなくて.....郁に相談しようにも....私の心の中で....相談しても根本的な解決にならないのなら死んでしまおう.....そう思ってしまったの。


私の精神はもうボロボロ。正常な判断なんて出来やしない。

今書いてる現段階ではそう思ってるけど、きっと書き終わったら気持ちは変わってるんだと思う。気持ちとは逆に書いてる個所もあるしよくわからない...笑


でも郁と会えて良かった.....いっぱい遊べてよかった。

郁と遊んだ日々....あの夜の思い出.....全部幸せだったよ!


.......ところで、私が死んじゃったら.....また学校行かない気じゃないいでしょうね~?笑

いや、さてはもう行ってないなぁ~?だめだよ?ちゃんと行ってね?

私の最後の命令、私の言葉に従って。学校にきちんと行って、立派な男になるんだよ?もう根暗でど陰キャは卒業だよー?笑


それじゃ、言いたいことは言ったし、最後に二言。



さようなら。そして、郁大好きだよ!』』



「うぅぅぅ....ひぐっ.....李乃さん......うっうぅぅ....」



読み終えたころには僕の目を涙でずぶぬれだった。

同時に後悔もした。

辞めたらいいのにではなく、辞めさせていたらよかったのに.......

彼女の夢をぶち壊すことになるので結果的に叶わぬことだったかもしれないが、心にそう強く後悔した。


———————


~《数年後/李乃の墓前》~



「あの手紙を見てから以降、僕は君の命令通り学校に毎日行ったよ。

命令とは言うけど全く苦じゃなかった。むしろ楽しかった。

友達も出来たし、前とは比べ物にならないほどに自信が付いた気がするよ。


でもいつもいつも思うんだ......君と今も同じ時間を過ごしていたらなって.....

そう思うと悲しくなるけど、昔の僕はもういない。

泣きべそをかく僕はもういないんだ。


李乃さんどう...?

僕は立派な男になれたかな?李乃さんに相応しい男に.....なれたのかな......

そう語りかけても君は応えられないだろうけど、感じるんだ.....君はきっと笑って僕を茶化してくるんだろうって...笑


そうだろう...?


                         ————————李乃。」



僕はあの時、「どうして変わろうと思ったんだろう」って思ってた。

今なら自分なりだけどわかる気がする。


変わろうと思った理由は—————



”自分が変わるキッカケを作る為”



不登校の僕と君が過去の自分から成長する為のキッカケ。

人生に完成は無い。成功と失敗を繰り返して歩き続けるもの。


李乃は僕にもたらしてくれたんだ.....僕に希望をくれたんだ......

変われたのも全て李乃のおかげ。



ありがとう。そして、李乃大好きだよ。

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