第3話:横浜備忘録

学校を飛び出し向かった先は李乃さんの家の前。

李乃さんの家はモデルハウスにあるような綺麗な二階建ての家だった。


家の前に連れてこられると、『ちょっと待ってて!』と言われ家の前で待たされる。李乃さんは家の中へ入り、数分後手に何か持ちながら戻ってきた。



『やーやーお待たせ!んじゃ次、郁の家行こ?』


「そ...それなんですか...?手に持ってるの.....」



そう言って李乃さんの右手に握られてるものを指さした。



『え?あぁこれ財布だよ財布。GUCCIって知ってる~?いいでしょ~』


「グッチ...?.....って僕の家って....行って何するんですか...?何もないですよ...?」



そう言うと李乃さんは、僕の背中を押して強引に僕の家に向かわす。

その最中李乃さんが言った。



『まーまーまー!笑 取り敢えず郁の家行こ?笑』


「っ........」



〜《家の前》〜



『おーこれが郁君の家かぁ~笑 立派な一軒家ですねー!笑 んじゃ、持ってきて?』


「な...何を...ですか?」



そう聞くと李乃さんがキョトンとした顔で言う。



『え?何って財布だけど?』


「さ...財布....ですか...?」


『財布がなきゃ遊べないでしょー?今から行くとこが特にそうなんだから~』



仕方なく渋々家に入り財布を持ち李乃さんの元へ戻る。



「も...持ってきました....」


『持ってきたぁ?よし、なら行くよー!笑 』


「行くって....どこ行くんですか...?」



するとまたもやサラッと言った。



『みなとみらいだよ。』



そっから僕は李乃さんに犬のように連れられ、気付けば既にみなとみらい駅に着いていた。



〜《みなとみらい駅》〜



駅に着くと、意外も僕達の様な学生達がいっぱいいた。

でも僕みたいな人間がこんな場所に来る事に少々アウェイを感じていた。



「こ...こんなとこ来て....何をするんですか...?」



そう聞くと、李乃さんの顔が険しくなる。



『ん〜.......決まってない!笑 まぁみなとみらいなんだからさ〜歩いてりゃ思いつくし、歩いてるだけでも楽しいし良いじゃーん笑 ささっ、行くよ行くよ〜?』



僕の背中を押して横浜の街へと繰り出す。



〜《赤レンガ倉庫》〜



道中おなかがすいたと言い出した李乃さんは『赤レンガ行こ!』と言い出し、来たはいいものの席が空いていなかった。

そんで空いたかと思えばそこにここぞとばかりに座られる。



『いやー人多いですなぁ〜席も殆ど空いてないし、こりゃここで食べるの無理そうかな〜?』


「(うぅ....帰りたいなぁ.....)」


『.......あっ!郁こっちこっち!席空いたよ!早く早くぅ!』



突然嬉々とした声でそう言い、腕を掴み引きづられていく。どうやら席が空いた様だ。



『いや〜やっと座れたね〜』


「よかったですね....」



すると李乃さんが何を食べようか聞いてくる。



『何食べるー?ちなみに私はここに来る時からもう決めてあるんだ〜!笑』


「僕は.....どうしようかな.....」



そうやって悩んでいると、李乃さんが言った。



『じゃあ私と同じのにする?あれ美味しいよー?笑

是非とも食べて欲しいくらいだよ笑』


「じ....じゃあ僕も...李...李乃さんと同じものを......」


『おっけー!んじゃ買ってくるから、席見といてねー?』



李乃さんにお金を渡し李乃さんは店の列に並んだ。

数分後李乃さんはブザーを持って帰ってきた。



『しばらく待ちでーす笑』


「わ...分かりました」



そしてそのまま数分待っていると李乃さんが僕に何かを見せてきた。



『ねー郁見てよこれー!』


「え...な...なんですか...?」



突然スマホの画面を向けられ、その画面を見ると———



『この子私の友達なんだけどさ~今日で彼氏と付き合って1年なんだって~!』


「は...はぁ......」


『羨ましいなぁ.....私も———』



李乃さんが何か言いかけた時、ブザーが鳴った。



『おっ?もう出来たみたい。私取りに行って来る———』


「李乃さん...!ぼ...僕が....取...取に行くから.....待ってて....」



男なのに女の子にされっぱなしは申し訳ないと思い、自分が持ってくると李乃さんに言った。



『.......ありがとう!優しい男はモテるゾ~笑』


「なっ...何言ってっ...!.....待っててください...!」



デカい御盆を持ちテーブルに置く。

二つのオムライスを見てシンプルに美味しそうと思う反面、李乃さんと同じ物を食べる事に謎の嬉しさが湧き出てきた。


一口スプーンに掬って食べてみた。



「っ.......お...美味しいです.....」


『えー反応薄ー笑 まぁいいや!笑 私もいただきまーす!』



僕とは対称的に李乃は見た目以上に食べるスピードが早く、あっという間に食べ終わってしまっていた。

僕はまだようやく半分なのに。


すると食べ終わった李乃さんが僕のオムライスをチラチラと見る。

僕はそれに気づき言った。



「た...食べます...?オムライス.....」



そう言うと李乃さんは嬉しそうな顔で返事をする。



『え!?いいのー!?やったーありがとぉー!』



皿を李乃さんの方にやろうとした時、李乃さんが言った。



『じゃあ、あーんしてよ笑 あーんって笑』


「えっ...!?どどどどういうこと...ですか...?」



そう聞くと、ニヤけた顔でこう言った。



『どういう事ってあーんだよ~?まさか恥ずかしいんですか~?笑

かわいいなぁ郁は~笑 ほらスプーンに一杯掬って、ほらスプーン持って?』



僕の手にスプーンを握らせ李乃さんは僕の前で口を開いて待っている。

謎にドキドキして手を震わせながらも李乃さんの口に近づける。


もう口に入る瞬間李乃さんが僕の腕を両手で優しく掴み、スプーンにあるオムライスの一欠けらを頬張った。



「っ!?」


『っ...っ.....ん~美味すぎ~♡この店のオムライスは世界一だわ~♡』



李乃さんの顔が幸せそうな表情をしているのを見て、心がドキドキした。

急に腕をつかまれたことにもドキドキしたけど、なんとか抑えて何か言う。



「こ...これ...美味しい...ですね...!」


『でしょでしょー?やっぱ分かっちゃいますぅ?笑

郁さんはいいセンス持ってますねぇ〜笑』



何とか絞り出した言葉に上機嫌の様子。

そうちょける李乃さんの姿を見て、やっぱ僕よりコミュ力あるなぁ....と再度実感した。


時間はもう18時。最後に観覧車に乗るという話になった。



〜《観覧車内》〜



『わぁ〜!綺麗だねー笑』


「は...はい...そうですね.......」



景色を眺めていた李乃さんが僕に向かって言った。



『ねー郁...?ごめんね今日は急にみなとみらいなんかに連れ出しちゃってさ.....嫌じゃなかった?』



突然謝られ、少々気まづさがあったが思い切ってこう言った。



「い...いえ...!そそ...そんな事無い...ですよ...!

た.....楽しかったです.....誰かとこうやって観覧車に乗ったり......ご飯食べたり.....人生で一回もした事ないので凄く新鮮で......それに初めてが李乃さんで僕..........

凄く楽しかったです...!また一緒に遊びたい....です」



その言葉を聞いた李乃さんは最初はポカンとした表情をしていたけど、徐々に徐々にニヤニヤとし出し、こう言った。



『じゃあ〜私の勝ちだねぇ〜?笑 この勝負は私の勝ちだねぇ〜笑 また一緒に.....なんか言っちゃってさ〜』



すると李乃さんは僕の隣に座り、耳打ちでこう言った。



『明日も.....よろしくね...?フフッ....』


「っ〜.......!」



恥ずかし過ぎるので顔を顰めた。

李乃さんは離れて、上を見てこう言った。



『んじゃ早速私の言う事、聞いてもらおーかなー笑

そうだなぁ......んー......まだ決めませーん!笑

もう頂上だし夜景でも見よっか!笑』



なんだか夢心地のよう。今までこんな経験無かったのに。ましてや僕とは正反対の人間が、わざわざこんな僕に気をかけて遊びにまで連れ出してくれて......正直まだ状況が飲み込みきれていない。


あの時もし、もし僕が連絡を無視あるいはあまり相手にしていなかった場合...どうなっていたんだろう.......

きっと学校に行かずに今ぐらいの時間も部屋に閉じこもってるんだろうな.....李乃さんはどうして僕なんかを心配して───



『郁?郁ってばー!なーにぼーっとしてんのよー!

今の聞こえたー?』


「うぇ...?す...すみません少し考え事を.....なななんて言ったんですか...?」



すると僕の両頬を掴み、顔を近づけて言った。



『今思いついた!私の言うことを聞く権利の内容!

言う事を聞かせる権利を3つにする!これがまず1つ目の命令!

そして2つ目の命令は........私に今日から敬語禁止!もちろん李乃さんもダメ。李乃りのりいだけ。分かった?返事は?』


「へ?敬語禁止...?......そそそそんなこと、ダメじゃない....ですか....!だってまだ僕達仲良く───」



すると僕の言葉を遮りこう言う。



『えぇ?なにぃ?聞こえないなぁ?勝ったのは私なんだから言う事聞きなさいー!わかったー?』


「は...はい......わかりまし.....分かった...よ......」



すると丁度観覧車が終わり、係員がドアを開け、そして観覧車から降りる。


そろそろ遅くなってきているので、僕達は帰ることにした。

電車の中で、疲れてしまったのか僕達2人は仲良く眠ってしまった。

そんな中なんとかギリギリ大口駅で降りることが出来た。



〜《自宅前》〜



『んじゃまたねー明日しっかり来るんだよー?笑』


「う...うん...!気...気をつけて...ね....!」



そして家に帰り、今日は夜ご飯を食べずそのまますぐに眠りについた。

次の日起きても昨日の余韻が抜けなかった。

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