50話 世界統治
「なんか、この島でかくね?」
四人が頑張って落としてくれたというグラブスドレッド島を一通り見て回った感想がそれだった。
てっきり簡単に全体を見渡せる小島程度かと思っていたけれど、どうやら一つの区くらいの大きさがあるようで、確かにこれは防衛拠点にぴったりだと思えるちょうどのサイズ感である。
それに、ここに元居たダンジョンマスターが集めてくれた150年分のDPは相当の量で、これからはあの無表情なコアルームともお別れできると考えると、中々スッキリとした気分である。
あ、そうだ。
「あの奪ったDP好きにしていいぞ」
俺は皆にそう告げた……元々共有資産だったが、大規模なダンジョンの改装は今まで基本的に俺が行ってきた。ただ、今回のDPは彼女達が身体を張って取ってきたものだしな。
「本当でありますか!?」
クラリモンドがクリスマスプレゼントに欲しいゲームを買ってもらったかのように飛び跳ねてはしゃいだ。
「ただし、全員で分け合ってな」
「もちろんでありますよ!ね?ピル!」
「うん!本機達の夢がやーっと叶うんだね!ありがと!パパ」
さっきから彼女達の喜びようがあんまりにも激しい。ま、今までも彼女達は自分の部屋を持っていたけれど、これからは自分の家レベルの建築物を作れるわけだ。はしゃぎもするだろう。
「夢って?どうしたいとか予定があるのか?」
「うん!やっぱりパパの凄さを分からすために、ダンジョンは空中要塞にしたいと思うんだ!」
ピルリパートが目を虹色に輝かせながら言った。ただ、それはまずい。
「……やめといた方がいいかもしれないな」
「ど、どうしてでありますか!?」
「空中要塞は落ちるからだよ」
「「え!?」」
「ダンジョンという悪の組織が空中にいたら絶対に落とされるって決まってるんだって」
「閣下は悪ではないと思いますが……」
「いやーでもダンジョンはダンジョンだしなー。縁起が悪い」
俺がそういうと、二人は渋々頷いた。
「縁起……でありますか。了解であります」
目に見えて二人が凹んだ顔をするので、とりあえずフォローする。
「あーでも、要塞はいいな。なんせ守りが強い」
正直ダンジョン自体がかなり守りに強い設備だから、わざわざ要塞の外見にする必要もないとも思うけど、特に年下に見える二人のかわいそうオーラには、俺もフォローせざるを得ない。
俺の言葉を聞いた二人は、何か天啓を得たかのようにピンと気をつけをして、敬礼してから出ていった。
XXX
世界統治機関……ナナヤの巫女13人がウィトに世界を全て貰うために考えた機関であり、その行く末はナナヤの巫女達による会議で話し合われ、最終決定をウィトに委ねる形となっている。
薄暗い煉瓦造りの一室では、十三席の椅子が置かれた円卓を囲んで、現状参加できるナナヤの巫女全員が意見を酌み交わしていた。
「空中要塞は駄目とのことでありましたな。理由は縁起が悪いとのことです」
「そう。ならば案Aは却下ですね。では次善策として用意してあったのは……」
クラリモンドの報告を受け、マルガリータがまとめる。どうやら今回の議題は今後のダンジョン設営の方針のようだった。
「いや、パパが要塞なら守りが強いからいいって言ってたよ!」
「なら要塞ですね。案を一から練り直しましょうか。ヘーゼル、アニマ、リドヴィナ。建築をお願いできますか」
しかしどれだけ会議をしようとも、ウィトの決定に逆らおうとするものなど一人もいない。
ウィトが何気なくフォローに使った要塞というコンセプトが一瞬で可決となり、早速デザインすべくマルガリータが特に芸術に特化した三人へと呼びかけた。
「それはいいっスけど、要塞って無骨なもんっスよね?ボスの居住区がそんなんでいいんスか?」
「……そうですね。要塞の雰囲気を崩さないようにしつつ、旦那様に合った実用的かつ絢爛華麗なものを用意してください」
テキパキと話が決まっていく。移転間もないダンジョンは寝床もない。彼女達には今のうちにウィトが睡眠するに相応しい寝床を用意する必要があったのだ。
「実用性は考慮不要です!私が一生懸命ご奉仕いたしますから!」
リドヴィナが営業スマイルを浮かべながら言った……日中の彼女はメイドの役割を負っており、普段とは違う元気っ子キャラで行儀よく座っていた。
けれど実際のところ彼女がメイドとして優秀であることは確かで、彼女達は掃除の手間などを考えず部屋を広くするつもりだった。
「ま、何度でも作り変えられるのがダンジョンの長所なんだから、今日中に間に合わせのものを作成しておくわね」
アニマが澄ました顔で言った。
「任せたっスアニマちゃん」
「……ああ、それと。入り口から会議室までのルートを全て見栄えのするものにしておいてくださいね。いずれこの世の王族全員を招くことになるのですから、そいつらの王宮より廊下は倍広く、天上は倍高くね」
……世界統治機関の会議室ではゆくゆく世界中の王権の所持者を一箇所に集め、世界の行く末を決める会議をするつもりである。
そのためにはDPを過剰に割いてでも王宮以上に豪華な内装を用意する必要があった。マルガリータはセンスがあまりないためものすごく馬鹿っぽいアドバイスにはなったが。
「りょーかいっス」
「あー、それと女性に好まれるようなデザインの方がよろしいと思いますわ。招くのは姫のみになるのですから」
突然エグレンティーヌが会議に割って入るとうっとりとした顔でいった。
しかし、元々の予定では王も招く必要があるはずである
「どういうことです?……一応聞いておきましょうか」
マルガリータが溜息をつきながら目の前の一見まともに見える色ボケ女の言葉に答えた。
「我が君以外の男が王を僭称するなんて許せませんもの。男の王が継いでいる国家は姫を擁立してから世界統治機関の一員として認めることにいたしましょう」
エグレンティーヌは目を閉じ、胸の前で両手を合わせながら言った。彼女は「素敵……」と夢見る少女のような表情でとんでもないことを言ってのけた。
「国家転覆をそんな簡単に言わないでください……まずは世界征服して安全を確保することが必要です。……旦那様を喜ばせるための取り組みはその後にしてください」
マルガリータが目を閉じて言った。
「あー、それと、DPのあまりを割ったところ各自2万ほどありましたから、各自お好みで自身の階層をお作りになってください……ただ、旦那様がご覧になる箇所ではありませんから、美醜など気にせず徹底的に侵入者を殺すつもりでお作りくださいね」
その言葉を最後に、巫女達は笑みを浮かべながらそれぞれの持ち場へと散開していったのだった。
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皆様、いつもご愛顧ありがとうございます!
お陰様で五十話になりましたーパチパチパチ。本当に何から何まで皆様の応援のお陰です。
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