36話 酒場 (ローザローザ視点)

  ナディナレズレは坂道と路地が多い。だからこそこの国は組織犯罪が多いんだ!なんて愚痴も溢れるけど、人間だれしも太陽に照らされたくない日はあるよねー。


 仲間を見捨てざるを得なかったり、命のかかった依頼書を金の都合で無視した日なんかは、特に。


 ま、ロザロザちゃんの場合は相変わらず、戦闘依頼や死体漁りはほとんどビオンデッタちゃんに任せっきりで、そんなハンターの悩みとは無縁なんだけどね。


 相変わらずといっていいのか、ロザロザちゃんは森にいた頃みたく、毎日井戸に毒を撒いたり、酒場に誘ったハンターに毒を盛ったりしていた。そろそろ、ハンターズギルドを機能停止にするくらいは可能なんじゃないかなぁ。


 あれ?一番陽に照らされちゃいけないの、ロザロザちゃん?


 ま、ともかくここはそんな荒くれどもが集う酒場で、ロザロザちゃん達は人間への擬態が八割、この国の料理への興味が二割くらいの割合で仕事終わりはここに通っているのだった。


「席は三席とってちょうだい」


 ビオンデッタちゃんが場末の酒場だというのに、気取ったスマートな入店をする。


 ……いつも三席のテーブルを取るのはお兄ちゃんのためらしい。常に一緒なんだっていう心持ちを忘れないためと、もしいつ来ても自然なエスコートが出来るようにするためとか言ってた気がする。


 (ま、絶対に店に迷惑をかけてるだけだと思うんだけどね)


 店を歩くと、皆がこちらをチラチラと見ながら声を潜めた。ま、それも仕方ない。


 我ながら可愛すぎる容姿に、八面六臂の大活躍。今やロザロザちゃん達は、この国のハンターの話題の中心なのだ!


 最近はあまりに依頼をこなす数が多いものだから、ハンター以外にも名前は知られ始めているらしいしね。


 ちなみにロザロザちゃんの容姿が15歳くらいなのに酒場にいることに対してのツッコミはない。昔の地球と同じく、よっぽど綺麗な水じゃない限りお酒の方が安全な時代だからだ。この世界に子供は酒に飲むななんて言う奴はいない。


 ロザロザちゃん達は案内された店の中心近くにあるテーブルに着く。そこには、注文通り三人分の椅子があった。


「……ねえ。ビオンデッタちゃんが毎回三人分席を予約してるのに誰も来ないせいでロザロザちゃん達、仲間を失ったせいで狂ったパーティだと思われてるみたいなんだけど」


 ロザロザちゃんはまだしも、ビオンデッタちゃんは一日行動を共にしたら思考回路が人間じゃないことが伝わるタイプだ。


 だからこそそんな狂人がこれほど美しいわけがないんだ!と頭が麻痺するのかな?過去何か辛いことがあったのはずだと補完して、そういう結論を下す人が多いのだった。


 ま、仲間の死くらいハンターには珍しい話でもないし、そういうジンクスを大事にするハンターも多いから、酒場の人も何も言ってこない。


「あら。都合がいいわね」


 当の本人であるビオンデッタちゃんも、そういって嬉しそうに笑った。……そっちがよくてもこっちは毒を盛るのがやり辛くて仕方ないんですけどね!


 ともかく、ロザロザちゃんはいつも通りその日のビオンデッタちゃんの稼ぎを分けて貰う作業に入った。


 ジャラジャラと、机に硬貨を広げる。


 普通のパーティならクズの所業もいいところだけど、ビオンデッタちゃんは単独行動大好きちゃんだから、喜んでこのシステムに賛同している。


 どうせビオンデッタちゃんの狩りについていってもロザロザちゃんが役に立つところもないしね。それならロザロザちゃんもこっそり毒を撒いていた方がいい。


「いやー。稼いだね。あ、ビールと赤ワインくださーい」


 一日中お酒を飲んでいただけなのにお金がたくさん貰えたロザロザちゃんはホクホクである。お金を貰った立場として、せめて注文係は受け持つロザロザちゃんなのだった。


 しかし、こんなに上手にDランクハンターまで昇ってこられたというのに、ビオンデッタちゃんは浮かない顔をしていた。


「どーしたの?ビオンデッタちゃん」


 彼女は高そうな……というより女子同士の集まりで取り出せば間違いなく顰蹙を買いそうな手鏡を取り出して、色んな角度から自分の顔を見始めた。


「この鼻が流行りのはずなんだけど……なんだかしっくりこないのよね。一から作り直すべきかしら」


 この発言中も自分の鼻をずっといじっており、ロザロザちゃんの顔を見ていない。彼女は人間社会に入ってから毎日、こんな風に自分の顔をいじっているのだ。


「……今さらかもだけど。お兄ちゃんは流行りとか気にしないと思うよ?」


「ウィト様の愛の永遠性を疑ったことはないわ。でも、こんな容姿で愛されたい、では駄目なの。私という女をアクセサリーとして連れ歩いていただく際に、流行りの顔の方が周囲にウィト様の優位性がより伝わるでしょう」


「……歪んでるねぇ」


 ま、ロザロザちゃんは整形なんて個人の勝手だと思うし、ナナヤちゃんのイメージ通りに顔を変える加護パワーを使って、こっちのがカワイイかな?って鏡を見て多少いじることもある。


 けど、ビオンデッタちゃんは「世間の流行りは常に変わるのよ」といって、毎日顔を変えているのだ。彼女の好みなのか、大人びた白緑色の長髪を携えた眼鏡美女というところは変わることはなさそうだけど……。よくもまぁ、自我が崩壊しないものだと思う。


 彼女のこのイカれた考え方には理由がある。


 …………ロザロザちゃん達は生まれながらにして愛されていた。世界で最も愛が深いお兄ちゃんにね。


 モンスターなのにとっても幸福だとは思うけど、姿


 ……蔦そのものでお兄ちゃんを毎日毒殺していた頃のロザロザちゃんと、今の人間状態のロザロザちゃんとの扱いの差は、全くないのだ

 

 そんなことってある?って思うけど、それが私達の恋したお兄ちゃんなのだから、仕方がない。


 今のロザロザちゃん達が美女揃いなのは、モンスター時代に無限の愛に晒されて、自己肯定感がありえないくらい高められたことが理由なんだろうと思うし、きっとそれは間違いじゃない。


 けど、容姿の美しさなんてはなから好きな人にこっちを向いてもらうためのものなのに、肝心のお兄ちゃんが容姿を気にしないものだから、ナナヤの巫女達は自分のために容姿を着飾るしかないのだ。贅沢な悩みなんだけどね。


 となれば容姿は自由なんだからと、ロザロザちゃんは自分が一番カワイイと思えて、毒を飲ませる仕事をこなしやすい姿を取っている。


 ……けど、ビオンデッタちゃんはそう思わないらしいのだ。


「そこのあなた、私の顔どう思う?何か直すべきところはあるかしら?」


 ビオンデッタちゃんは、店にやってきたばかりの女の子にそんな問い掛けをした。いやアンタ、都市伝説かよ。


 彼女の場合、お兄ちゃんの世間体のため……絶世の美女を連れていて只者じゃない!とお兄ちゃんが思われて欲しいがために、全国民が美しいと思うような美女を目指しているのだ。


 お兄ちゃんは当然そんなこと毛程も望んでないんだけど……ま、それ含めてビオンデッタちゃんの性癖の一部なんだろう。


「え?なんですか?自慢ですか」


 声をかけられた女の子がそんな返事をする。


 ごもっとものお返事である。跡も残らない完璧な整形を毎日しているビオンデッタちゃんがそんなことを聞いても、嫌味にしかならないのだ。というか、欠点なんてもうねーよお前の顔!と思う。


「自慢?なにそれ違うわよ。さもしいやつね」


 しかし、流石のビオンデッタちゃんは、悪ぶれもせずに相手を責める。ここ毎日、酒場でやってきた喧嘩の定番のパターンだ。


「は?ちょっとあんたら調子乗ってるらしいじゃん。聞いたよ、そこのちっこい女、カイン君とこの前遊んで……」


 切れた女の子の矛先が何故かこっちに向く。ほんとなんでロザロザちゃんなのさ!絶対元からロザロザちゃんのこと嫌いだったじゃんコイツ!


 ……毒を盛るのは男女平等にやってきたつもりだけど、複数人の飲み会に参加しないクールな男の子には個人的にご飯に行く必要がある。だから、こういう色恋沙汰の恨みを買うことも多いのだ。


 でも、今はそんな喧嘩するつもりもないし、そのカイン君とやらと二度と話すつもりはなかった。


「ちょーっと待った。ごめんね!一杯奢るから!お姉さん、この子にビール一杯」


「……チッ」


 女の子のハンターが舌打ちをして帰っていった。あー人間社会ってフクザツ。


 あ!そうだ!あの子にも毒を盛らないといけないから、そのカイン君とやらとの飲み会をセットしてあげることにしよう。恋のキューピット、やってみたかったんだよね!


「………………それで、そろそろこの国で得られる情報も全部ね」


 自分で売った喧嘩の癖に、「ようやく終わったのかしら」とばかりに、ビオンデッタちゃんが気だるげに言った。


 そんな彼女の変わり身の速さに、いちいち突っ込んではいられない。


「結局ほぼ黒幕で確定なのは、新しく変わったギルド長三人なんだよね?」


 ロザロザちゃん達の現在の目的はジャクリーンちゃんを助けるための『ナディナレズレの巨塔』攻略だけど、お兄ちゃんの平穏に直結する使命は、ナナヤちゃんが言ってた「ダンジョンマスターでありながら人間社会に溶け込んで、社会を牛耳っているやつを倒すこと」だ。


 ということでロザロザちゃん達は、あらかじめ身分の高い人達に目星をつけて、身辺調査を行っていた。


 『ナディナレズレの巨塔』は三百年続いているダンジョンだから絶対にロザロザちゃん達の敵じゃない。つまり、巨塔は本当にジャクリーンちゃんに負けて契約を結ばれてしまったから以外に攻める理由のない場所なのである。


 ま、ジャクリーンちゃんはお兄ちゃんの恩人で第ニの家族みたいなものだし、契約なんてなくとも助けてあげるつもりなんだけどね!


「その三人のギルドマスターは不敬にもウィト様と同じ十年前くらいに台頭してきて、無闇やたらと強くて、音が遮断された部屋にいるのよ。どう考えてもそいつらが犯人じゃない」


 ……聴覚強化の魔法を使える人間の対策でもあるんだろうけど、国の要人ならともかく、ギルド長がこぞって防音設備をわざわざ整えるなんて怪しすぎる。


 こいつらを叩けば埃が出てくることは間違いないとだろうね。


「問題は、三人とも同じ派閥のダンジョンマスターなのか、うち二人は私達のように人間の姿になったモンスターなのか、一人のダンジョンマスターが人間の二人を口説いたか、ね」


 ビオンデッタちゃんが毎日本気で、。それで分からないってことは、十中八九その防音室内でしか重要な会話はしていないんだろうな。


 「人間の姿になるモンスターの線は薄そうだけどねぇ。ロザロザちゃん達みたいに、ナナヤちゃんの加護できちんと姿を変えてるわけじゃないだろうし。この国のギルド長なんて重要なポストにいて、ただの変装でごまかしきれるわけないと思うな」


 人間の姿をしているモンスターは特に不死族や魔人族に多いが、そんな彼らが人里に侵入しないための対策は、当然どの土地もしているものだ。


 「防音室に私の子供を送り込んでもいいけど、リスクが高いわね」


 彼女が堂々とそんなことを言う。ちなみに、ロザロザちゃん達が酒場でこんな極秘の話をしている理由は、どうせそんな高性能な感覚強化スキル持ちの敵がいたらこっちの正体はバレるからだ。


 ナナヤちゃんの加護の力でロザロザちゃん達の身体は頭からつま先まで器官含め人間のそれだけど、ビオンデッタちゃんの身体には蜂が寄生しているし、ロザロザちゃんは毎日井戸に毒を撒いていた。


 そんなやつ怪しすぎて、どんだけ会話を取り繕っても無駄でしょ。せめてしょうもないスパイ対策として、声は潜めてるけどね。


 ま、ビオンデッタちゃんくらいの聴覚強化スキルを極めている子はいないだろうと思う。


 そもそもナナヤの巫女以外に、スキルを鍛えているモンスターなんて少ないのだ。普通は敵を殺してDPで新スキルを獲得する方が速いからね。


 簡単に身につく優位性は、また簡単に覆される。そんなことすらお兄ちゃんに教われなかった他ダンジョンのモンスター達ってば、かわいそー。


「うーん、侵入は絶対バレるからやらなくていいかなぁ。最後に一回ナディナレズレの巨塔に潜って帰ろうよ」


 ……人間の国で使える金も十分稼いだし、情報収集も毒の仕込みもある程度済んだ。最後に『ナディナレズレの巨塔』の様子を見ればロザロザちゃん達の任務は完了でいいんじゃないかな。


 そんな時だった。ガランガランという音と、「何名様ですか?」なんて声が、酒場の人々の猥雑な会話に混ざって聞こえてきた。


 いちいち顔なんて確認しないけど、入ってきた男の子はあろうことか、ビオンデッタちゃんが予約したお兄ちゃん用の席に座ってきたのだ。


 それは、以前ハンターの依頼で一緒になったアラン君だった。知り合いの私達を見つけたのが嬉しかったのか、にこにこしながら空いている席についたのだろう。


 ……でも、その席だけは絶対に座っちゃ駄目だったかな。


「ヒギャ!!!い、いったいなぁ!な、何するんだよ」


 アラン君がお尻をつけた瞬間に、ビオンデッタちゃんが顔面に蹴りを入れた。喉じゃないだけ成長したかな。だいぶ手加減してるし。


 アラン君……悪い男の子じゃないのは分かってるんだけど、ビオンデッタちゃんは人を「善人or悪人」じゃなくて「役に立つor役に立たない」で分けるきらいがあるからなぁ。


 そういう考えの彼女にとっては、同じDランクハンターとはいえ「帰還する者アラン」とかいうコモンカードに書いてありそうな二つ名を持つ彼は、徹底的に反りが合わないのだった。


 でもよかった。アラン君は蹴られたのに怒ってなさそうだった。てゆーか笑ってるし。……変態なのかな?


「その席は大切な人の予約があるの。座りたいんだったら、その辺から椅子を持ってきてちょうだい」


 ビオンデッタちゃんが先程蹴りを入れた人物とは思えないくらいキリッとして言った。アラン君はアラン君で、それ聞いて申し訳なさそうにしてるし。


「それは失礼。命の恩人の大切な人に……」


 そういって彼は素直に椅子を運んできて座った。どうやら、会話に混ざるのを諦めるつもりはさらさらないらしい。


「命の恩人なんてさ、仲間なんだから当たり前ジャーン!それで、何の用さ」


 このままじゃ二人の会話が始まらないので、ロザロザちゃんがフォローを入れる。


 アラン君がこんな暴力を振るわれてもロザロザちゃん達に懐いている理由は、五日前の依頼で一緒になったとき、ビオンデッタちゃんが彼の担当の敵を倒してしまったからだ。


 当然、ビオンデッタちゃんは彼を救いたかったわけじゃなくって、依頼完了時間を縮めるために自分で倒したんだけどね。


 そんなことも知らず、アラン君は目を輝かせてこちらを見ている。


「何の用ってそんな他人行儀な……でも今回はきちんと、手土産に情報を持ってきたよ。知ってる?もうすぐ巨塔のダンジョン攻略アタックが始まるらしいよ」


 アラン君はとっておきの情報とばかりに、ひそひそ声で言ってきた。


「知ってるわよ」


 でも当然、アラン君に手に入る程度の情報はビオンデッタちゃんの耳にも届いている。彼女の情報収集能力は本物なのだ。


 ダンジョン攻略アタック……ギルドが本気でダンジョンを攻略する際、他国からもハンターを招集して1階ずつ虱潰しに制圧していく行為。


 ……モンスターのポップは全てコアから行われる。だからこそ、ダンジョンの全階層をじっくり集団で攻め込めば、時間はかかるけど攻略が可能になるというわけだ。


 でも……。


「『ナディナレズレの巨塔』のダンジョン攻略アタックは、一年がかりなんだっけ」


 ロザロザちゃんは純朴に見えるよう、首をかしげて言った。


「そうらしいね!ひどいダンジョンもあったもんだよ、そりゃ無視されるよね」


 アラン君がうんうん。と頷いている。


 ダンジョン攻略アタックは確かに、有意義なダンジョン攻略法だ。けれど物凄く時間がかかる。なんせ、敵地であるダンジョン内にキャンプを開いてそこに非戦闘員を呼ぶことまであるんだから。


 加えて、『ナディナレズレの巨塔』とダンジョン攻略アタックはとっても相性が悪い。


 というのも、『ナディナレズレの巨塔』はBランクダンジョンでも珍しい、150階層もあるダンジョンだからだ。巨塔という名前の由来はそれである。


 …………ジャクリーンちゃんから、ダンジョンマスター、リュウジョウさんだっけ?の性格をそのまま反映したようなダンジョンだと聞いている。


 「目的のために最も効率のいいことをひたすらやり続ける」……そんな性格を持つリュウジョウさんのダンジョンは、ひたすら似たような階層が、罠とモンスターの配置だけを変えて150層連なっているらしいのだ。


 つまらないダンジョンだとは思うけど、だからこそ生きてこられたんだろう。……それに、その娘であるジャクリーンちゃんも、ちょっと似たような傾向があると思うしね。


 ロザロザちゃん達は、手続きとか前夜祭とかが面倒くさいダンジョン攻略アタックが始まる前に一度ダンジョンに潜るつもりだったんだけど……。


 ロザロザちゃんは彼の顔を見て大体何を言いたいのかを察してしまった。


 次の言葉を待っていると、アラン君が決心したような面持ちで静寂を切り裂いた。

 

「その、僕にもダンジョン攻略アタックの話が来てるんだけど……。この話に乗れば、僕はCランクに上がれそうなんだ。でも不安なんだよ。命を救ってくれた君達と一緒なら、安心できるかなって。ぼ、僕ももちろん、頑張るし」


 彼は女の子を頼りにするのが嫌なのか、あるいは単純に力不足を知られることが恥ずかしいのか、顔を赤くして俯きながら言った。


 ……彼のそんな情けない顔を見て思う。でもそうだ。この話は悪くないかもしれない。


 思わず、ニッと笑みが漏れそうになった。


「よーし!分かったよ。一緒に参加しよう!あ、でも命の恩人とかそういうことはもう、いいっこなしね?」


 ロザロザちゃんがウインクしてそういうと、アラン君が感激して頭を下げた。ま、ロザロザちゃんは五日前もほとんど戦ってないんだけど。


「ありがとう!でも、命の恩人は命の恩人だから!せめてこの席は僕が持つよ!」


「えー!すごーい!ありがとー」


 アラン君はロザロザちゃん達より稼ぎが少ないのに、財布を持って立ち上がった。一応、この国でのコミュニケーション役であるロザロザちゃんは、心底嬉しそうに拍手をしてあげたのだった。


 ロザロザちゃんの褒め言葉を聞いて、彼が抑えきれずニヤけてしまっているのを、ロザロザちゃんは見逃さなかった。


 ……彼は五日前の打ち上げで既にロザロザちゃんに毒を盛られてる。だというのにこんなに感謝されていると思うと、なんだか面白くなってきてしまう。


 いけない。顔は笑わないようにしているのに、腹から出てきた笑いが止まらない。結果としてロザロザちゃんは、「ヒック」と、肺が引きつったような笑いを漏らしてしまった。けど、よかった!アラン君にはバレてなかったみたい。

 

 そして、そんな素直な彼を見ていると、少し面白いこと思いついてしまった。


 「そうだ!トット君も誘ったらちょうど四人パーティも組めるよね。一回誘ってみようよ!」


 ロザロザちゃんがそういうと、アラン君が嫌そうな顔をした。


 女二人とのハーレムだとでも思っていたのだろうか。鼻つまみもののメルキセデス・トットを誘うというと、彼の瞳から目に見えて生気が失われたのだった。


 (アハ!嫌われ者と、役立たずのダンジョン攻略アタック!なんだか楽しいことになりそう!)


 ロザロザちゃんはビールを流し込むと、アラン君にカッコつけさせてあげるため、高いお酒を二人分、頼んだのだった。

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