ダンジョンマスターに転生したので引きこもってモンスターを溺愛してたらいつの間にか最強になってました~美少女になったモンスター達が勝手に世界を侵略し始めたんですが~
15話 復讐計画と鎖国解除 (マルガリータ視点)
15話 復讐計画と鎖国解除 (マルガリータ視点)
言語スキルを習得したことで、もう一つ大きな進展を迎えようとしているものがあった。それは対外関係の改善である。
事の発端は、妖精族のマルガリータに話があると告げられたことにあった。
「旦那様、私、森を友とする妖精族に産まれた恩恵か、獣語と植物語も繰ることができるようなのです」
マルガリータは手を腰のあたりで絡めて、もじもじとしながら言った。自慢のようになって恥ずかしかったのだろうか。
マルガリータはレーシーというDランクのユニークモンスターで、豊満な体型をしている美しい女性のモンスターである……といっても、そのロシア妖精の名に縛られているのか、身体は樹皮で覆われており、背中には大きな穴が空いていた。
彼女は独特の服を着る人の多い『ラグネルの迷宮』メンバーのなかで、唯一、一般的に売られている服が好きなようで、その日はパインブラックのニット地で編まれた服を着ていた。
そんな彼女のカミングアウトに俺は、当然「すごいじゃないか」と、手放しの称賛を送った。
実際、3つの言語を使えるということは通訳なども可能であるということだ。それに、将来的に彼女が女神になったときに、3種族の生物を導けるなんて素晴らしいことである。
と、俺はそのとき遠い未来のことばかり考えていたのだが、彼女は違った。
「それで……森のモンスター達ともコミュニケーションを取ってみたいと思うのですが……よろしいでしょうか?」
「!!??」
その言葉は正に晴天の霹靂だった。まさか、うちのモンスター達が外のモンスターとの交流を考えることがあったとは……。
詳しく話を聞いてみると、どうやら俺達がエティナ語しか理解できないから知らなかっただけで、森のモンスター達はモンスター達で、地獄語なり獣語なりで会話していることが判明したらしいのだ。
……積極的に殺さなくてよかった。と思う俺は、動物を侮っているのだろうか。しかし、どうしても言語を解する生物の方が怨みを強く抱いていそうという印象があるんだよな。
「マルガリータなら外のモンスター達とも問題ないコミュニケーションを取れると思うぞ。今後、もしかしたら死体漁りももっと安全に出来るようになるかもしれないしな」
マルガリータは元から理知的な女性だった。彼女は人間の心理や交渉術に強い興味を持っており、恋愛を学ぶついでに心理学をある程度修めていた俺の話に強い興味を示してくれていた。
彼女が上手く森のモンスター達に取り入ってくれれば、もしかしたらDPを安全に得ることができるようになるかもしれない。
俺がそう考えを告げると、マルガリータは嬉しそうに身体をグイッと突き出した。
「そこで旦那様、「森での安全を目標とした交友関係の拡大」については、私にお任せいただけないでしょうか?少々、考えがございまして」
マルガリータはいつも大人びている彼女らしからぬ自信ありげな表情をして、そう豪語した。
これが、『ラグネルの迷宮』鎖国解除の幕開けだった。
XXX
「それじゃ、任せるな」といって、去った旦那様の背中を見送る。重要な役目を与えてくださった光栄と、しばらく旦那様と離れることになる苦しさで、私の心は千々に乱れた。
せめて、疑いもせずに私の計画に一任してくださった旦那様の寛大さに報いるよう、その背が見えなくなろうとも私は忠誠を誓い続けた。
「それで、どうするんですか?」
跪いた私に、背後から声がかかった。
気づけば、後ろの壁にサリュちゃんがもたれかかっていた。人間であれば格好いいポーズかもしれないが、ちっちゃくて可愛らしいアナグマ型モンスターのサリュちゃんは、背伸びしている子供のようにしか見えなかった。
旦那様から言語スキルを賜る前から真面目な子だと思っていたけれど、実際に話してみると同僚の私にまで敬語なものだから驚いたことを憶えている。
「外部との交流について旦那様に相談なさっていたようですが。他の仲間にすら告げずに……何か企みでも?」
はぁ。サリュちゃんは堅物のくせして、妙に勘がするどいから困る。
「何って、声をかけて森のモンスター達と仲良くするだけよ」
私は背後の彼女を一瞥もせずに言った。
「そういって、戦闘可能な状況を意図的に作るつもりなのではないですか?」
そらきた。ここまで読まれれば、言い訳は通用しないだろう。変な告げ口を旦那様にされても困る。
「……旦那様は私達の心の弱さと浅学を嘆いておられるの。これ以上心配をかけるわけにはいかないわ。DPを安全かつ、正々堂々と手に入れないと……」
私がそういうと、サリュちゃんは背を壁から離して、私の前に立った。
「戦闘許可条件、第三条……味方を攻撃する悪人であれば、殺して構わない。」
そして、丸暗記でもしているのか、旦那様がお決めになったルールを復唱した。
……『ラグネルの迷宮』において、旦那様が決定された禁忌、殺傷。それが許される場合を、旦那様は4つ設定なさった。ダンジョンを攻略しようとする者、我々を捕獲しようとする者、決闘に合意したもの、そして……味方を襲うもの。
抜け道として、ダンジョンに人を招く宝箱を配置したり、わざと弱いふりをして決闘を受けさせるなんてことも考えられるかもしれないけれど、そういった行為も旦那様は禁止なさっている。優良誤認による煽動は間接的な殺人である。とウィト様は仰っておられた。
そこまで厳重になさった理由は、旦那様は誰かの目を欺きたくてこのルールを敷いたわけではないからだ。偉大なるウィト様は、畏れ多くも私たちの健全な精神を維持するために、こういったルールを作ってくださったのだ。
「マルガリータ。あなたは今、外部のモンスターを殺そうとする意図を示されました。それを偽れば主を
主を謀る……ねぇ。私が旦那様から自身のメンタルをコントロールする心理学の教えを賜っていなければ、この場でサリュちゃんを怒鳴りつけていたことでしょう。
私の忠誠心を疑うということは、私の存在を否定するなのよ!と。元々、旦那様に全てを捧げる以外に私の価値なんてないもの。
「私が旦那様に翻意を抱いているとでも?」
言ってみろと、彼女に挑発的な目線を送る。もし、彼女が本気で私の翻意を主張するのであれば、それはここにいる二人で済む問題ではない。確実に旦那様の手を煩わせることになる。
それはしたくないのでしょう?という意図を込めて笑顔を作る私を、サリュちゃんが睨みつける。
……この子の短慮にも困りものね。
「いえ。マルガリータさんの忠誠は疑っていませんが。けれど、その忠誠が師の教えにまで及んでいるかは分かりません。師は、師のみが偉大なのではなく、その御言葉、聖句も全てが偉大なのです」
旦那様のことを考えるとすぐ感情的になってしまう『ラグネルの迷宮』のモンスターが多いなか、サリュちゃんだけは淡々と旦那様への想いを説いた。
武術を旦那様から教わっている彼女は、その修行のおかげか滅多なことで精神を乱さない。
「あら?旦那様は、自分も間違うことがあるといつもおっしゃられているわよ?」
私は、自分だけが旦那様の素晴らしさを理解しているとでも言いたげなサリュちゃんの態度がムカついたので、彼女の言葉を否定することにした。
「師を訂正をする権利は師にのみ存在し、師の言葉が間違いかどうか決める権利はあなたにはありません!」
すると、私が言い終わるより前に、サリュちゃんは歯を剥き出しにして身体の毛を逆立てた。前言撤回。彼女は旦那様が否定されない限り、滅多なことで精神を乱さない。
…………やめた。別に彼女を怒らせたいわけではない。
「……はぁ。うそうそ。からかっただけよ。旦那様の言葉をその所有物である私が否定するはずないじゃない」
たしかに、間接的に殺すことも許されないというのは難しい。やはり一流のダンジョンマスターである旦那様は、要求される命令も難易度が高い。
しかし旦那様のお気持ちを考えれば、可能な手段もある。
「旦那様は、私達に幾つかの願いを託されたけれど、その中心は「女神のように育て」というものでしょう?他の命令はいわば、その願いを叶えやすくするためのお導きなの。であれば、女神に近づく殺し方であれば、旦那様を裏切ったことにはならないわ」
全ては旦那様のため。
けれど、旦那様は、私達が修羅になることを恐れておられる。DPのために生物を殺し、自らを強化し、再び生物を殺す。そんな生き方が貧しいことは私にも分かっている。
「だから、
これさえ守っていれば、私達はただの戦闘狂に身を落とすことなく、名誉ある存在として喜びに満ちた戦闘をすることができる。嗚呼……旦那様のおっしゃられることはいつも正しく、美しい……。
しかし、旦那様の素晴らしさを噛み締めている私に、空気の読めないサリュちゃんが淡々と反対意見を述べる。
「一理ありますが、師はこうも仰っておられました。戦闘許可の条件を満たすために、嘘をついて敵を誘導する行為も禁止事項であると」
本当に、サリュちゃんって旦那様が語っておられたプログラムという概念のようね。旦那様の命令を矛盾しないよう自分の中で処理するのに、精一杯なんじゃないかしら。
しかし、そんな機械的反論に負けてしまえば、私は旦那様の所有物失格である。
サリュちゃんが旦那様に戦闘を教わり、クラリモンドちゃんが旦那様に軍事を教わったように、私は交渉を、心の機微を教わったの。
……私はこれを活かして、必ず旦那様のご恩に報いなければならない。
目の前で仁王立ちしているサリュちゃんを、私はゆっくりと歩み寄って抱きしめた。敵じゃないと、示すように。
「サリュちゃん?私達に友達が必要なのは本当よ?私は
旦那様の言葉を最優先としているサリュちゃんは、私が任務を受けていると知れば、それを否定することは絶対にできない。
私のその言葉を聞くと、サリュちゃんは少しの間あごに手を当てて考えたのち、「そうですね。いいでしょう」と呟いた。全く憲兵隊にでもなったつもりなのかしら。いや、それとも風紀委員かな。
去っていくサリュちゃんに笑顔を作って手を振る。
そしてしばらく後、自分が今からやろうと考えていることを思い出して、吐き気を覚えた。
ああ。確かに、サリュちゃんの言う通りね。これからすることは、ともすれば旦那様のお気持ちを卑しくも操作する行いにもなりかねない。その自分の
けれど……。
「心配しなくていいぞ。これが皆を育てるマスターである俺の役目だからな」
そういって、殺され、ダンジョンコアから這い出る……愛しのウィト様。そのおいたわしい姿を思い出すとキリリ……と拳に力が入る。
気づくと、床にポタ……ポタ……と力んだ拳から血が滴っていた。
敵に殺されようとも、私達の前で微笑みをお作りになったウィト様のお顔を思い出すたび、視界が明滅して、身体中の血液が抜けたような感覚に陥る。
ああ、旦那様。旦那様。
私は旦那様が無抵抗で森の矮小な獣共に攻撃される姿を見るたびに、自身の五体が引き裂かれるより辛い責め苦を味わっているのですよ。
旦那様に守られ、愛されているという歓びと、旦那様の御身を私のために危険に晒してしまうという苦しみ。
そういった感情は数多くあるけれど………………。
「愛する人を殺したものに復讐さえできないなんて、あんまりじゃあないですか」
旦那様はおっしゃった。私達の知力がCランクに及べば、全ての規則を撤収なさると。といっても大抵のルールに関して、私にあるものは愛する旦那様によって縛られているという喜悦のみであり、そこに窮屈さはない。
けれど、旦那様の優しさにつけいる恥知らず共は、駆逐しなければいけない。知力を早くCランクにして、復讐だけは旦那様に許可していただくの。旦那様に敵対する大罪人共への、復讐だけは。
ということで、私は計画の第一段階として、森にいる生物を、無抵抗の旦那様を襲った万死がふさわしいクズと、旦那様にその血肉を奉じていない鈍重なクズの2種類に仕分けていった。
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