6/13 万城目学『鹿男あをによし』
大学で研究職をしていた「おれ」は、教授から半ば強制的に奈良の私立女子高の理科教師を、二学期の間だけ担当することに。だが、担当する一年A組での最初のホームルームに遅刻してきた生徒・堀田から、変な言い訳をされた上に、それから生徒たちとぎくしゃくし始める。神経を磨り減らす中、十月最初の日に「おれ」は、春日大社で鹿に話しかけられた。
二〇〇七年に発行された万城目さんの二作目の小説。その年の直木賞候補、翌年には本屋大賞の候補に選ばれた。また、翌年にはフジテレビでドラマ化もされた。
作中では名前が不明の主人公だが、同僚とのいざこざで研究所に居づらくなり、いやいやながら奈良に赴任する。だが、堀田を中心とした生徒たちとも上手くいかずにもともと弱かった胃腸を痛めている。
そんな同情すべき人物なのだが、物の見方はかなりのリアリスト。鹿が喋るという出来事も、自分の方に異常があると思い、中々信じない。理系の学者だから仕方ないが、ただ、喋ってくる鹿に対しては遠慮なくいくので、その奇妙さも可笑しい。
自分の将来も不安定なのに、「おれ」は鹿から日本の命運まで担われてしまう。その上、彼の使命を邪魔するような動きも裏側にあり、余計大変なことになっていく。本当に、不憫でしょうがない。
だが、後半からそれを裏返すようなカタルシスが、何度も訪れる。特に、前半の描写の伏線回収は圧巻。人の欲深さや愚かさも感じつつ、何かを一生懸命に挑むこと、他人への慈しみ、そして、恋など、世界を支えているのはそんな単純なものかもしれないと、何か信じたくなる爽やかで、ちょっと切ない読後感だった。
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