5/30 夏目漱石『虞美人草』
美しくて学のある女性の藤尾には、亡き父の定めた結婚相手の宗近がいるが、詩の才能を持つ小野に強く惹かれていた。小野も、京都の恩師の娘の小夜子と結婚の約束をしていたが、藤尾に靡いている。一方、藤尾の異母兄の甲野は、宗近の妹・糸子に思いを寄せられていた。複雑に絡んだ六人の男女の恋の行方は。
朝日新聞にて一九〇七年に連載されていた、漱石の職業作家として初めて書いた小説であり、漱石のその後の作風を位置づけた一作。ちなみに、虞美人草とはポピーの一種で、タイトルに悩んでいた漱石が散歩中に見かけて購入した花が由来。
久しぶりな漱石だったけれど、読むのがなかなか大変だった。分からない語句はほとんどそのまま読んでいるので、例えとかは何となくわかったような気で読み進めている。中盤のイルミネーションを見に行くシーンで、やっとリズムを掴めたくらいだった。
最初は、自由に恋愛をしたい若者と老後の面倒を見てほしい親たちの対立みたいな話かと思っていたけれど、藤尾の本心が初めて垣間見えた場面で、ひえっとなった。これは中々の悪女である。
ただ、なんでこんなに藤尾の内面が歪んでいるのか、その原因は学があるからじゃないかと思わせるような描写がある。藤尾と糸子の違いとして、知らない景色を想像して楽しめるかどうかというシーンがあったのだが、「家庭的な女」である糸子は藤尾の想像を妨げるような発言をしている。
読み通してみて、藤尾と糸子、または小夜子の末路を思うと、「家庭的な女」が肯定されていたんじゃないかなと。ただ、性格の悪さ=学があるとは限らないけれど、そこがずる賢さとか繋がっているような気もして来る。
とはいえ、はっとさせられる描写も多い。イルミネーションを見に行くのは、文明人だからだとか、人の情も分からない者の怖さとか。ラストの悲劇についてと「ここでは喜劇ばかり流行る」という警句にははっとさせれた。
近代文学の教授が、「当時の小説は、最後に女性が発狂するか死ぬかになる」と言っていたのを思い出す。発狂するラストと言えば鷗外の『舞姫』だろう。ここから時代が昇って、芥川や太宰の頃だと、文学上の女性の扱われ方も変わってくるのかなとも思った。
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