4/17 西加奈子『きいろいゾウ』


 海と山に囲まれた田舎の町の古民家で暮らしているのは、とある若い夫婦。生物の聞こえない声を聞いて、見えないものも見えるツマと、介護施設で事務のアルバイトをしながら小説を書いているムコは、仲睦まじく笑い合いながら、ご近所さんとも交流しながら毎日を楽しく過ごしていた。しかし、お互いの言えなかった過去が少しずつ、二人の生活に影を落とす。

 西さんのデビューから三作目の著作。二〇〇六年に発行。二〇一三年には、映画化もされた。


 こちらの一作、章の中でも「1」「2」とナンバリングしているのだが、その中にもリズムがある。前半はツマの目線で、生き物との遭遇から始まるとある一日の様子、後半は、同じ日のムコの日記となっている。

 移り変わる季節はずっと眩しく、関わる人たちはとても優しく、夫婦は深く互いを愛し合っている。ほのぼのとした気持ちで、この夫婦の生活をずっと見ていたいと思うほど、幸福感に満ち溢れていた。


 だが、季節が冬へと近づいてくる中、とある出来事によって、このリズムがズレ始める。ツマの「少し辛い時期が、長く続いた」という言葉の通りに、過去の後ろめたさや相手への疑心が、二人の関係に溝を作っていく。

 そんな二人が最後にどうなっていくのかに注目してしまうけれど、この小説内には、色々な形の夫婦や恋愛が描かれている。お隣さん(と言っても、距離的には少し遠い)のおじいさんのアレチさんと認知症のセイカさん夫婦、ムコのよく遅刻してくる同僚の平木直子さんとその夫、そして、ムコの過去に深く関わっているとある夫婦。また、一時的に近所で住んでいる不登校の少年・大地君と、彼に一目惚れしちゃった洋子ちゃんに、ツマが接したこの土地の過去に眠っていた恋……。


 夫婦は一番近い他人だという言葉を思い出す。二人の間にある繋がりは、頼りなく、すぐに切れてしまいそうに見えるかもしれない。だけど、それはとんでもなく強いのだと言ってくれる。そして、どんな形の夫婦やどんな恋でも、丸ごと肯定してくれる、そんな一冊だ。

 タイトルの『きいろいゾウ』とは、作中作の絵本のことである。だが、時々その一部が本編に挟まっている。時々ツマとムコの物語から離れて、こちらを読んでから戻ることを繰り返すうちに、二つの物語のリンクが見えてきて、それをしみじみと噛み締めるのも、とても良い構成だった。





















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