4/3 J・D・サリンジャー『ライ麦畑でつかまえて』
ペンシー校の寮生である少年・ホールディンは、成績が悪いせいで退学が決まる。学校を出るのは水曜日だったが、金曜日の夜にルームメイトと大喧嘩してしまい、勝手に寮を飛び出した。家族はまだ彼の退学を知らないので、届けが家に来るはずの水曜日まで、ホールディンはクリスマスが近づくニューヨークの町を放浪する。
一九五一年に発表されたアメリカの作家のJ・D・サリンジャーの代表作。本国アメリカで発禁処分になったこともあったが、世界中で読み継がれている青春文学の金字塔である。
これを読んでいる時に、NHKの番組で、「過激な表現が多い危険な本だと発禁処分にされた」という風に紹介されているのを見て驚いた。確かに、ホールディンの語りは大分砕けていて、スラングとか現在の放送禁止用語とか言っているけれど、発禁されるほどではないような気がした。
「衝撃的なラスト!」と銘打ってあるのもどっかで見たけれど、正直私にはそこまで……。一九五一年の人からすると、という意味だったのか、暴力的な物語に私が慣れすぎたからなのか……。
ホールディンは、確かに口が悪くて、喧嘩するところもあるし、未成年なのに煙草や酒を嗜んでいる描写はあるけれど、私はそこまで悪い子のようには思えなかった。逆に、滅茶苦茶ピュアだから、世の中の矛盾とか嘘とか傲慢さとかに、腹が立つのかもしれない。
そもそも、彼がルームメイトと喧嘩した理由が、「密かに好きだった子が、彼とデートして、一線超えちゃったかもしれないから」で、怪しんでいるのに、直接問い質せず、なんだかいじらしい。その好きな子にも、電話してもなかなか話せないところもセットで。
大人の欺瞞と子供の背伸びの間を、ホールディンはさまよっているのかなとも感じる。ただ、そんな彼自身も背伸びしている子供で、年齢を偽って女の子たちと飲んだり、娼婦を買おうとしたりしている。
でも、全部上手くいかない。思いつきで旅の計画を立てて、誰かを巻き込んでここから逃げ出そうとするけれど、それも実行できない。家に寄ったり、尊敬している恩師の所に行ったり、通っていた学校に行ったりと、同じところをぐるぐる巡っているのも、彼の心の迷いを反映しているからかもしれない。
そんなホールディンは、幼い子供をとても愛している。仲の良い妹や亡くなった弟、道端で出会う子供たちに向ける視線はとても優しい。だからこそ、学校にある卑猥な落書きに怒りを覚えるのだろう。
このままでいてほしいという気持ちと、でも、彼もいずれ大人になっていくのだろうなと感じられるホールディンというキャラクターだった。そして、『ライ麦畑でつかまえて』は、大人と子供の間を放浪していたあの頃を思い出す、確かな名作でもあった。
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