3/16 道尾秀介『カラスの親指』
武中竹夫は、相棒のテツさんと細々とした詐欺で身銭を稼ぐ中年の男。仕事の調子は良かったが、ここ最近、彼らの身の回りがきな臭くなってきた。それに加えて、竹夫と因縁浅からぬ十八歳の少女・まひろと出会い、彼らは過去の精算を迫られる。
雑誌「メフィスト」に二〇〇七年から連載開始し、二〇〇八年に単行本化。本作は直木賞候補になり、日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)を受賞し、二〇一二年には映画化もされた道尾さんの代表作のクライムサスペンス。
正直に言いましょう。ミステリー好きを自称していますが、道尾さんは今回が初読みでした。そして、本作を読んで、騙されました、腰が抜けました。なんで、今まで道尾さんの作品を読んでこなかったのだろうと、激しく後悔しています。
好きな所としては、まず、キャラクターの会話が軽やかでユーモラス。どんな台詞を発したかで、どんな性格なのかがはっきり伝わってくる。さらに、結構ハードな物語世界で、竹夫・テツさん・まひろの過去が中々に重たいけれど、ギャグが要所要所ちりばめられているので、結構スラスラ読めていく。まあ、衝撃的なシーンはずどんと腹に響くけれど……。
そしてやはり、気持ちよく、高らかに「騙された!」と天に向かって叫ぶかのようなどんでん返し。わたくし、結構ミステリー小説を読んできているという自覚があるのだけど、そう言う人ほど、「騙された!」となってしまいそう。
作者と読者の関係においては、どうしても作者の方が優位に立ってしまっている。なぜなら、最後の一文に「全部夢でした」と書いてしまっても、物語は成立してしまうから。もちろん、読者側からは、「そんなの卑怯じゃないか」と文句を言うことはできるけれど、飲み込むしかない。
それに対して、『カラスの親指』は非常にフェアだと感じた。登場人物の視点からしか分からない伏線があるけれど、実は、地の文にもトリックが隠されている。その違和感を辿れば、あのどんでん返しも見抜くことが出来るかもしれない。
でも、見抜けなかったからこその「騙された!」なのである。そして、心の中に爽やかな風が吹き込んでくるようなラストシーン。素晴らしい形で物語は閉じたのだけれど、聞けば続編があるという……こちらも、近いうちに読みたいと思う。
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