3/2 大島真寿美『モモコとうさぎ』
もうすぐ大学卒業が迫っているのに、就職活動に失敗して、働き口を無くし、実家の自室でひたすらに縫物をして現実逃避をしているモモコ。ある日、母の三人目の再婚相手である父親からの一言をきっかけに、家出をしてしまう。リュックにたくさんの荷物と、不思議な力を持つと言われたうさぎのぬいぐるみを詰め込んで……。
主体性の乏しいモモコが、放浪の日々の中で自身のルーツと自らを見つめ直す長編小説。二〇一八年発行。『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』で直木賞を受賞した大島さんの、その直前に発表された一冊。
冒頭の方から滅茶苦茶ドキドキしたのは、私も就職活動の仕方がよく分からずに、アルバイトからスタートしていたから。そのため、モモコの立場とか、周りから言われている言葉とか、どうしても他人事とは思えずにいた。
だから、モモコが家出をして、同居家族と距離を置いてから、どこに辿り着くのかも、我がことのようにハラハラしながら見守っていた。人に聞こえない言葉でおしゃべりしている、うさぎと共に……。
ただ、共感してしまうモモコの境遇だが、ちょっとどうかなと思ってしまう部分は少々ある。いくら何でも主体性が無さすぎる気がするし、周囲の人たちを見下している部分もあるし。そういう所だぞと言いたくなってしまうのだが、それをぐっとこらえないといけないのは、今の私はモモコと違って安定しているからだ。
作中、モモコは友人や家族やバイト先などから、非常に酷いことを言われる。本人たちとしては、モモコを思うが故の説教なのかもしれないが、「いや、それってマウント取って、気持ちよくなりたいだけじゃあ?」といいたくなってしまう。自分より下と判断した相手には、人はどこまでも残忍になれるし、そんな部分は自分にもあるのだと自覚する。
そんな風に、「正しく」社会に属することが出来ないモモコからすると、現代社会は中々変だ。会社に忠誠を誓うこと、結婚すること、恋愛でも、当たり前と思っていたものは結構奇妙に映る。そして、自分の家族構成やルーツも、実はかなり奇妙だということに、彼女自身も意識していく。
じゃあ、そんなモモコは、どこへ漂着するのだろうか? その答えも、そしてうさぎの正体も、意外とふわっとした調子で物語は完結を迎える。でも、それでいいのかもしれない。人生や社会にとって、本当の正解はないのだから。ただ、モモコが生き生きとできる道を見いだせて良かった、そう思える読後感だった。
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