2/3 円城塔『道化師の蝶』
東京からシアトルに向かう飛行機の中、移動中の読書が苦手な「わたし」は、隣の座席の実業家にそのことを話す。この話からあるビジネスを思いついた彼は、とある本を出版した――「道化師の蝶」。一冊の英語の本が、自分の作品と似ていると気付いた「わたし」は、それを日本語に翻訳する。その翻訳本を、日本語を少し知っている元の作者が英語にして……という関係が続いた後、「私」はその作者に呼び出されてしまう――「松ノ枝の記」。
第146回芥川賞を受賞したSF短編「道化師の蝶」を収録。異なる言語、翻訳、書くこと、読むことというなどの不思議さと不可解さを描いた短編二作品。
正直、中々に難しかった。SFに慣れてきたぞ! と勝手に思っていたのだが、それでも読み解こうとするのが大変だった。だから、全部を理解したとは言い難い。
これを語っているのは誰なのか、今はいつなのか、それとも作中作なのか……。何もかも入り乱れてぐちゃぐちゃになっていく中で、「架空の蝶」と「正体不明の多言語作家」を中心に、話の本筋は何となく見えてくる。母国語を覚えるという行為は、もう私たちは昔にしてしまって、きっと再現することもできないだろうけれど、なんて大変なことをしていたんだろうと思えてくる。
「松ノ枝の記」も、無名の英語使用者の作家とその姉の本当の関係を通して、言葉とは何か、人間と言葉の相互作用とは、というのを描き出していく。言葉を通して、私たちが失ったものを言い表した時、はっとして怖くなった。
どちらも、「書くこと」「よむこと」を当たり前になっている我々にとって、「本当にそれって普通なの?」と言われているような気がした。数えられないほどの歴史と場所と人の試行錯誤をもってして、私たちは言葉を使っている。それが奇跡なのか、それとも恐ろしい事なのか、分からなくなってしまった。
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