9/22 宮部みゆき『我らが隣人の犯罪』
代わり映えのしない日常の中にも、目を凝らせばミステリーが隠れている。隣家のいつも吠えているスピッツ。一人で留守番中に訪問してきた母娘。サボテンを育てる小学生たち。結婚式での素人司会の奇妙な動き。公園のベンチにいつも座っているおじさん。その謎を解いた先にあるのは――。
国民的作家の宮部みゆきさんが一九八七年にオール讀物推理小説新人賞を採ってデビューした表題作を含む五作品の短編推理小説集。今回読んだのは、文庫本バージョンの単行本化。
それぞれの短編が発表されたのが、昭和の終わりから平成の最初の方なので、時代を感じさせる描写がある。表題作のように、ご近所さんと親しみを込めて言える関係は少なくなり、隣人は何をしている人なのか? それ以前に、自分の家族のことをどれくらい知っているのか? 教え子のことをどこまで信用できるのか? という境目に来ていた時代だと感じる。
そんな中でも、相手のことを信じて良かったと思える真相の話もあって、その鮮やかさと心温まる読後感が印象深い。ただ、ほっこりするだけでなく、登場人物の本心に心底ぞわっとするラストもあり、この時点で宮部さんの作風の幅の広さが窺える。
また、その当時の社会背景も踏まえた話もあるのだけど、そこらへんはちゃんと細かく解説しているので、現代の人が読んでも理解できて面白いと思う。ここはリブートの良さだろう。
あと、ミステリーのトリックに触れるからあまり細かく書けないのだけど、バラバラ殺人事件の真相で、どうしてバラバラにしたのかの理由付けは、多分一番最初に書かれたトリックなんじゃないかな。ちゃんと調べていないから分からないけれど、今ではもはやベタになってしまっているからなぁ。
他にも印象的だったのは、謎を解くのではなく、事件を起こすというか、謎を作るという展開のある話もあったということ。こんな困りごとがある。じゃあ、どう解決する? という逆算から描いていくというのは、現在でも目新しく、それでいて小市民の出来る範囲から外れていなくて、また興味深かった。
派手な殺人事件だけではなく、手の届く範囲内で起こる、等身大のミステリーという新しい地平を開拓していった短編集だった。きっとこの一作が、今後の日本のミステリー界に影響を与えたのだろう。
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