9/11 ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』
庭で読書をしている姉の隣でうとうとしていた少女・アリスは、服を着た白い兎が懐中時計片手に駆けていくのを見かけて、思わず追いかける。兎に続いて飛び込んだ穴の中は、不思議の国だった。
イギリスの数学者だったルイス・キャロルが初めて記した児童文学。その人気は国と時代を越えて、様々なフィクションのモチーフになるほど。私が今回読んだのは、和田誠さんが表紙と挿絵を担当していたバーション。
ディズニーアニメと絵本で、元々の話は知っていたけれど、原作をちゃんと読んだのは初めて。思った以上に、ナンセンスで、無茶苦茶な話だった。
まず、アリスが最初の方で、自分が何者だったのかを忘れかけている。魔法的なものなのか、自問自答しすぎてどうにかなっちゃったのかは分からないけれど、その状態がほぼ最後まで通される。ウサギ穴で長く長く落ちている時に、自分と自分とで会話をする癖が昔からあったと書かれていたので、多分後者だ。
天丼の表現がいくつも出てくるのも印象的。小さなドアをくぐる為に、薬を飲んで小さくなりすぎてしまって、ケーキを食べたら大きくなりすぎて、というようなことを繰り返すのは有名だけど、アリスが愛猫の話をしたら、猫が苦手な小動物たちが逃げ出してしまう、というくだりも三回くらいあった。
英語のダジャレになっている、海の学校の教科の翻訳の所も、あまりはっきり絵本とかでは書かれていなかったと思う。明らかに無茶苦茶な強化になってしまっているところが面白く、ダジャレを面白がるのは世界共通だと感じた。
それから、印象の薄かったキャラたちも結構いたのも。白兎、赤の女王、帽子屋、三月兎、ねむりねずみ、チェシャ猫、いもむし等など、アリスの有名キャラは色々いるけれど、王様とか、亀もどきとか、侯爵夫人とその赤ん坊とか、グリフォンとか、覚えている以上のキャラクターがいた。王様とか、だいぶひどい言動をしていたので、印象に残っていても可笑しくないのに。
そんな個性豊かなキャラクターたちが、次々に登場して、知っちゃかめちゃ化、色々言い合い、物語を無茶苦茶にしていくのも、この物語が、元々ルイスが子供に話した即興の作り話だったからなのかもしれない。同じことを繰り返したり、奇妙な替え歌が出てきたり、ダジャレを並べたり、キャラの再登場が起きたりしたのは、聞き手である子どもたちの反応を見ながら語っていたからかも。
ところで、この一九七六年の翻訳版には、今現在だと放送禁止用語扱いされている単語が当然のように使われている。だから、今は多分、流通していないのだろう。
翻訳者のあとがきによると、子どもたちが読みやすいようにと、今の言葉で改札が無くても通じるようにと意識して、翻訳されたらしい。そう思うと、世間の流れの残酷さをはかなみ、ちょっと悲しい一冊になってしまったかのようにも感じられる。
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