9/10 加藤千恵『この場所であなたの名前を呼んだ』


 ある地方都市の大学病院の中にある新生児集中治療室(NICU)こと通称N。そこに我が子を託すことになった母親たちや、そこで働く看護師や医師や臨床心理士、清掃員、それぞれの半生や心の内を描いた連作短編集。

 高校生の時に歌人として二〇〇一年にデビューした加藤千恵さんによる、書き下ろし小説。発行は二〇二一年。


 結婚して、子供を授かり、無事に産む。それが当たり前のサイクルだと捉えれば、我が子が万全の状態で産まれずに、すぐに引き離されて、集中治療室に入れられる、そんな現状をなかなか受け入れらないのだろう。作中でも、我が子を積極的に愛せない母親が出てくる。

 自身と子どもとの問題に向き合えずに、目を逸らしたり、先延ばししようとしたりする姿は、正直読んでいてもやもやする部分もあったが、現代人の等身大の姿をそのまま描いたら、そうなるのだろう。NICUに我が子が入っていることを両親や職場の人にどう伝えればいいのかなどの悩みはとても切実だ。


 本作は、そんな親たちの姿とは別に、そこを職場をする人たちの姿も描かれる。命を救うために尽くしているが、当事者とは別の立場にいるため、一歩引いた目線に立っている。そこでの姿は、彼女たちに自分の人生を見つめ直させるきっかけとなる。

 そこが本作のミソなのだろう。社会性とか、使命とか、人間関係とかで、登場人物たちは雁字搦めとなり、優柔不断に陥ってしまっている。揺れる彼女、彼らとは別に、赤ちゃんたちは生きることが存在の全てだ。自分が過ごしてる同じ時間と並行して、赤ちゃんたちが生きるために戦っていると意識すると、これからの自分の道が照らされるのだろう。


 個人的に一番好きだった短編は、「願う場所」。三十代半ばで佳那が授かったのは、18トリソミーという、染色体異常によって数週間で亡くなってしまう女の子だった。これをきっかけに、夫婦仲が悪くなっていったり、自分を責めてしまったりと、佳那が苦しんでいく様子に胸が痛い。

 それでも、生まれてきた子供に名前を付けて、その生と宿命を受け入れた後の、ラストシーンが悲しくも美しく、心に響いた。こんなふうに、全ての命が祝福されてほしいと、願ってやまないお話だった。



























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