7/22 アガサ・クリスティー『そして誰もいなくなった』


 イギリスのとある孤島に集められたのは、殆ど面識のない十人の老若男女。彼らを集めたはずの豪邸のオーナー「U.N.オーエン」氏が姿を見せないまま迎えた晩餐後、この十人の知られざる殺人を告発する謎の声が響く。動揺する彼らの前で、一人が唐突に倒れ……。

 一九三九年に発表された、アガサ・クリスティーによる傑作クローズド・ミステリー。その完成された巧みなプロットは、イギリスだけでなくアメリカや日本でも人気となり、後世のミステリー作品にも多大な影響を与えた。


 とはいえ、まだ読んだことなかったし、弟が「すごく面白かった」と言っていたので、手に取ってみた。「昔の作品だけど、展開が古くない」と言っていたけれど、「そもそも、こっちが先なんだよねぇー」と言い返したのを覚えている。

 しかし、弟がそう話していたのも、読んでいたら分かってきた。絶海の孤島、助けを呼べない状況、マザーグースの歌詞に沿った殺人、疑心暗鬼に陥る登場人物たち、一体誰が犯人なのか、次はだれが殺されるのか、傍観者のつもりが、自分も巻き込まれているかのようにドキドキしながら読んでいた。この臨場感は、どんなに時代が進んで、科学が発達しようとも、損なわれないだろう。


 どのように彼らが集められたのから丁寧に描写して、それぞれの罪を通して、その心理状態に迫っていく。そして、最初の殺人は半信半疑だったのが、だんだんと確証を得て、どこかに第三者が隠れていないかを丁寧に調べ、その可能性を潰していく。犯人は、この中にいることが判明したにも拘らず、再び起こってしまった殺人――。

 もしかしたら、この人が犯人なのかなぁと予想していても、見事に裏切られる。そして、惨劇が閉じた後のエピローグで、全ての真相が判明し、度肝を抜かれた。すべてがすべて、犯人の計算尽くだったのだ。


 それを知ってから振り返ると、確かに最初から伏線が引かれている。人の動き、人間関係、台詞、心情語などなど、細かく見ていけば、誰が犯人なのかはっきりと解き明かせられる。

 読んでも面白いのはもちろん、犯人を探し出そうと思えばそれも可能であるというのが、この作品の名作たる所以だろう。『そして誰もいなくなった』から、きっとミステリーの潮目が変わったのだろうと思える一冊だった。





























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