7/6 ※前作の話あり 吉田修一『続横道世之介』


 横道世之介、二十四歳。大学を留年したために、バブル最後の売り手市場にも乗り遅れ、フリーターになってしまった。人生のどん底にありながらも、友と語らい、大切な人が増え、少々の波乱含みの一年はのほほんと続く。

 二〇一六年から二〇一八年に、雑誌『小説BOC』で連載されていた、『横道世之介』の続編。一九九三年から一九九四年の世之介の日々と、二〇二〇年のオリンピックに沸く東京の風景が描かれる。


 早速、朝一番のパチンコ屋に向かう世之介のグダグダシーンからスタート。前作で流した涙を返せと言ってしまいたくなるほど、情けない世之介だが、変わらないというのがむしろ嬉しかったりもする。

 大学生一年生だった前作との大きな違いは、曲がりなりにも社会人になった世之介が、社会の悪意や暴力性にも触れていくところだろう。理不尽な理由でバイト先をクビになったり、怪しい自己啓発セミナーに出くわしたりなんて、序の口だ。


 それでも、世之介は優しい。掴み合いの喧嘩をするカップルを止めに入ったり、丸刈りにしたいという女性に立ち会ったりもする。世之介にできることは数少ないが、傍にいて話を聞いてくれるだけでも、とても有り難いことだとわかる。

 また、世之介の目線は皆に平等だ。ヤンキーに対する偏見はあっても、最終的には仲良くなる。コンビニのイートインにたむろする中南米出身の娼婦たちや、アパートの隣に住んでいる不法滞在の中国人たちにも、それは変わらない。


 現在のシーンでは、世之介のいない世界で、様々な出来事を経た彼の友人たちの姿が描かれる。世之介が繋げた彼らの緩い繋がりが、オリンピックをきっかけに集いつつある瞬間に、心が温かくなる。前作の登場人物は出てこないけれど、もしかしてこの人って……という匂わせもあった。

 そんな現在のシーンを見ていると、世之介が彼らに何を残したのかをしみじみ伝わってくる。遺伝子とか名作とか、大それたものではなくとも、思い出と一緒に心も覚えていてくれているのだと感じて、勇気が出た。


 また、もう一つのテーマは、許す事なのだと感じる。理不尽な扱いに対しても、相手の状況を慮って許す、取り返しのつかない過ちでも、真摯に向き合い続ける。そういうのが、本当の誠実さなんだろう。

 普通の人が、悪名以外を残すためには、この誠実さが大切なんだろう。それは、関わった人に伝わり、広がっていくものなのだから。


































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