6/14 恩田陸『ブラザー・サン シスター・ムーン』


 同じ片田舎の高校出身で、大学も同じ場所の別の学部にそれぞれ入学した楡崎綾音、戸崎まもる、箱崎はじめの男女三人。社会人になった現在から、それぞれの大学時代と自身のサークル活動を振り返る、三部構成。

 三人の大学時代は、大体八十年代らしい。それなのに、書籍の紹介文に大々的に謳われているように、私もこの一冊を「新しい青春小説」のように感じた。それは、大学時代のあの頃を、大人になった視点から振り返ることで、当時と距離を取ろうとしているからだと思われる。


 第一部で語るのは、文学部に所属していた綾音。ちょうど女子大生ブームが巻き起こっている時に大学生だった彼女だが、「この時代に戻りたくない」とはっきりと言い切っているのが特徴的。

 友達に語り掛けるかのような軽やかな一人称で、彼女の将来を決定づけたターニングポイントを遠回りしながらも振り返る。個人的には、彼女の章が一番共感できた。


 第二部では、衞が主人公。有名なジャズサークルに入り、ベーシストとして、そこで出会ったメンバーとバンドを組み、サークルの顔であるレギュラーバンドを目指す。そう書くと熱い日々のようだが、衞の性格上、それはちょっと引いた目線で眺めている。

 三人称語りで、時系列に沿って彼の大学時代がじっくり描かれる。なので、前の話では語られなかった事実が急浮上して、度肝を抜かれた。また、二人と違って、彼だけ普通の会社員になっているので、この一瞬だけの日々がとても眩しく切なく映る。


 第三部は、ある賞を採ってマスコミに引っ張りだこになった一が主人公。インタビューを受けながら、心の中では大学時代のことを考えている。

 インタビューの同行者の目線と、一の心内語が交互に現れるという、本作で一番癖のある構成になっている。何度もインタビューを受けてきたので、相手の一言一言の意味を深く考えて混んでしまう一は、表面上と内面のギャップが一番激しい癖のある人物のように感じられた。


 三者三様の青春時代を振り返ることで、あの頃の自分や周囲を皮肉りながら、あえて創作や表現に夢中になっていた自分を距離を取っているという印象がある。それでも、何かを作ること、自分を表現することは、彼らを捉えて離さず、ゆえに現在ものめり込んでいっているのかもしれない。

 長くて短かった四年間を通して、人との繋がりの儚さや、何かを生み出すことの眩しさと魅力とを、じっくり描いた一冊だった。




































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