6/2 川上弘美『ぼくの死体をよろしくたのむ』


 2017年に発売された15編の短編集。年の差恋愛あり、現代ファンタジーあり、SFあり、人間ではない存在の生活ありと、これまでの川上弘美さんが発表してきた小説のエッセンスが散りばめられた集大成的作品。入門編としても読めるかもしれない。

 時代も場所もバラバラな設定で、登場人物は小学生から六十代まで、男性も女性も関係ないけれど、唯一共通点がある。それは、家族と上手くいっていなかったり、心通わす友人や恋人がいなかったりと、それぞれ孤独を抱えているという点だ。


 どの短編も素晴らしいけれど、個人的に好きな話をピックアップしたい。


 「ルル秋桜」

 小学生の女の子のひとみは、雑誌や新聞の目を閉じた人物の写真を切り取って集めるという変わった趣味がある。そんな彼女を両親は理解してくれず、姉はいじめてくるのだが、通い始めた絵画教室の先生は彼女を受け入れてくれた。

 子供ならではの生きづらさを描いた一編。「わたし」のお隣さんで唯一の友達の男の子・隼人も、母子家庭で母親の恋人が変わるたびにその恋人にちなんだ習い事をさせられるという、別種の大変さを抱えている。

 「普通」とは違う苦しさをしっかり描きつつ、しかし、あなたはこのままでもいいんだよと言ってくれるような優しい作品。理解者を得る話でもあるけれど、誰かを赦す話でもあると思えば、奥行きがまた深まる一作だった。


 「二百十日」

 一人暮らしをしている「わたし」の元に、初対面の自称・いとこの少年のるかが訪ねてくる。伯母と来る予定だったが、急遽一人でこの家に滞在することになったという。彼のことが何となく苦手な「わたし」だが、それとは別に、意識不明の重体の伯父のことも気がかりで……。

 本当に何気ない筆致で、「わたし」やその伯父が魔法を使えることが言及されているので、一瞬驚いてしまう。それゆえに、「わたし」も実の父母と上手くいかなくなっていた。

 不思議なパワーを持っているがゆえに周囲とは馴染めないという孤独が、淡々と描かれる。きっと、「わたし」にとってはそれが普通で、大げさにすることではないだろう。そんな中でも、人との繋がりは切なく、温かいものであった。


 「土曜日には映画を見に」

 恋人のいない成子に、伯母さんが人を紹介してくれた。相手は、四十八歳の会社員の太った男性の小西さんだった。彼はオタク趣味で、二人の最初のデートは映画を見ることに。

 恋愛感情がよく分からない成子に共感し、そんな彼女が小西さんと寄り添っていく過程が良い。小西さんのオタク趣味を知ったおばさんが急に反対してきても、小西さんの容姿を友達に笑われても、一緒にいようと思った彼女の決断が素敵。

 変わった形の恋でも、深く激しく愛し合うような仲じゃなくても、最初から最後まで穏やかな老夫婦のような関係性なのが、たまらなく好きだ。人に何と言われようとも、関係ないと貫ける尊さが最高だった。


 「バタフライ・エフェクト」

 手帳の九月一日の欄、「二階堂梨那」という知らない女性の名前が書かれていることに気が付いた、後藤光史。一方、二階堂梨那も、手帳の九月一日に「後藤光史」と書かれているのを発見する。

 交代ずつで描かれる二人の目線で、絶妙にすれ違っていくので、読んでいるだけでとてもやきもきしてしまう。そして、とうとう迎えた九月一日、何が起きるのか……読んでいる方が、生き詰まるような緊迫感だった。

 運命とは、何で決まるのだろう。意外とそのサインは、はっきりとどこかに現れているのかもしれない。こんなことが世界のどこかで起きていると思えると、より愉快に感じる一作だった。


 とまあ、これ以上語ると、止まらなくなるので、この辺で。

 それ以外でも、精神年齢に合わせて見た眼を変えて生活する世界観の「スミレ」、変わった放浪生活をしている女性の「無人島から」、必ず何かペットを飼わないといけないアパートでの暮らしの「大聖堂」、時代とは反対のことをして楽しむ大学生たちの「いいラクダを得る」も好きだった。……ほぼ全部になってしまったけれど、川上さんの小説は全部好きになるのだから、しょうがない。
































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