5/2 きら『僕らはみんな死んでいる♪』


 目を覚ますと、真っ白な空間の中に一人でいた女子高生の凛。外に出ると、同じ状況の見知らぬ男女が。その中には、人気俳優のユアンもいた。そこに現れた喋る動物に変身できる「神様」から、ここは天国で、この七人は同じ日に死んだという共通点があり、生き返りをかけたラブゲームを勝ち取れと言われる。

 女性向け月刊誌『YOU』にて、二〇一〇年から二〇一三年まで連載していた全十巻の漫画作品。天国で死んだ男女によるシェアハウスという特殊設定の下に、恋愛と人間ドラマ、そしてサスペンスドラマが繰り広げられる。


 本作の主人公となる凛をはじめ、集まってきた男女はそれぞれに事情を抱えている。ラブゲームが主軸としているのだが、それぞれの心の成長と、だんだんと秘密や生前の事情を明かしながら、距離を縮めていく様子がじっくり描かれている。

 私は、ほぼ密室状態で、微妙な中の男女が、力を合わせて困難を乗り越えていくという設定のストーリーが好きだ。アニメの『無人惑星サヴァイヴ』や漫画の『彼方のアストラ』等々。デスゲームとは違う魅力があると思っている。


 さて、ラブゲームに参加することになった、登場人物たちをざっくりご紹介。


・凛

 主人公ポジションの女子高生。死因は、自らの手首を切ったこと。そのため、生き返ることが出来るラブゲームには消極的で、最初から棄権をしようとする。


・ユアン

 日本中誰もが知っているハーフの若手人気俳優。その死にも謎と疑念が多い。演技力は高いが、私生活が謎めいており、度々悪いゴシップが取り上げられる。


・大樹

 バーテンダーの青年。火事で死亡。地上に愛する人がいるため、生き返りたいと思っているが、その為には誰かとカップルにならないといけないのに悩む。


・アリエル

 太っているアメリカ人女性。たまたま来日中に無くなってしまったため、日本語が殆ど喋れない。愛犬家で、何よりもペットのグレード・デンのことを心配している。


・真

 翻訳者の青年。死因は急性アルコール中毒。主にアリエルの通訳をしている。自分に自信のない性格。


・静江

 マジシャンの恋人の助手をしていたアラフォー女性。何でも思ったことをずけずけ言う。ラブゲームに対しても積極的。


・弘

 ミュージシャンを目指して上京した、関西出身の青年。路上ライブで腕を磨いていたが、鳴かず飛ばずだった。優秀な兄たちと比べれるのがコンプレックス。


・賢一

 四十代半ばのサラリーマン。最年長メンバー。身振り手振りが大きく、少々胡散臭い話し方をしている。何気に秘密が多い。


・茜

 ユアンの大ファンの女子高生。彼の死がショックで、後追い自殺をした。ラブゲームのルールは「同じ日に死んだ人たちでやる」のだが、神様が特別に招待した。

 

 という風に、年代も性格も、抱えている問題もそれぞれ異なる男女が登場するので、誰かにどこかしら共感すると思う。それくらい、設定はファンタジーなのに、人物造詣が地に足が付いているのだ。

 このメンバーがラブゲームを通して直面したのは、自分の一生や周りの人たちとの関係である。死んだことによって、逆説的に自分の生と向き合うことになる。


 設定的に秀逸なのは、死んでいる彼らでも、生きていたのと同じような生理現象が出るということだ。ご飯を食べる必要もあるし、ムラムラだってする。それが、ラブゲームの命運を左右してくる。

 そして、このゲームを主催する神様の存在も、重要なキーパーソンだ。「コスプレ」と評して、一瞬で自由にいろいろな動物に変身できて、人知を超えた力を操る神様だが、実は本当の正体があるということは、第一巻から示唆されている。主催者として平等にあるべき神様だが、何かこのゲームには意図があるらしいので、その動きにも目が離せない。


 そんな波乱含みのラブゲームを通して描かれるのは、人の心の難しさだ。誰が誰を好きになるなんて、神様にだって分からない。ずっと一緒にいた家族の本心も読めないし、順風満帆な人生を送っているように見える人物も、誰にも言えない悩みを抱えているものだし、コンプレックスを持っていない人はきっといない。そして、憎しみと愛情は、いつだって紙一重だ。

 予想外の展開が繰り広げられて、衝撃と戦慄の事実も暴かれて、どんどん混沌としていく天国でのラブゲーム。それでも、最後の最後に、一人のことを真っ直ぐに愛する気持ちに胸打たれる、素敵なラストだった。




























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