2/28 辻村深月『島はぼくらと』


 瀬戸内海に浮かぶ、火山を要する小さな冴島。そこで生まれ育った四人の同級生は、毎日フェリーで渡った先の本土の高校に通っている。

 子供の頃に父を海難事故で亡くし、母と祖母と暮らす朱里。網元という古くからの漁師の元締めの一人娘の衣花。母は保育士、父は公務員で、姉と妹に挟まれた長男の新。父はリゾートホテルの経営者で、両親は自身が保育園児の時に離婚した源樹。彼女たち四人を中心に、Iターンの若者たちも交えた島での生活と青春模様。


 まず、美しい海と自然の光景に目を奪われる。人と人との距離が近い交流や交わされる方言の会話にも、ほっこりとさせられる。

 だが、そんな島の素晴らしい暮らしばかりが描かれているわけではない。Iターンの人を積極的に受け入れていくという島の中でも、細々とした確執があったり、ホモ・ソーシャル社会の嫌な所があったり、女性たちが狭苦しい思いを強いられていたりと、しっかりマイナス面も現れてくる。


 そして、同級生ということ以外は、殆ど家庭環境や性格の違う四人の、それぞれの事情もじっくり描かれている。四人で集まったり、冒険したりもあるのだが、フェリーの中や昼休みにごく自然と集まって、わいわい話したりする日常感もキラキラしている。しかし、そんな恋や友情の陰には、それぞれの家庭環境や悩みの影も浮かび上がってくる。

 そんな高校生たちとは別に、Iターンの若者たちの事情も複雑だ。特に、元メダリストのシングルマザー・蕗子を中心とした人間模様も面白い。彼女が過去に受けた心の傷、娘と周囲に人に癒されていく様子、そして、この島で出会った唯一無二の親友……と、ここだけでも結構濃ゆい。


 人間ドラマと同時に、島の課題もしっかりと描かれる。島に伝わるという「幻の脚本」という謎で、ミステリーとして読ませてもくれるが、やはり、島に医者がいないことや、高校卒業すると子供たちは島を出ていくという問題は、中々に重たい。私も地方出身なので、気持ちが分かる部分が多々ある。

 だけど、様々な経験を積んだ上での、エピローグに酷く感動した。こういうもんだからと、諦めるのはまだ早い。変わりたいもの、守りたいもの、それらを見据えて、行動していけば、きっと未来は開けていく。彼女たちの柔らかで真っ直ぐな心に、そう教えてもらえた気持ちだった。









































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