2/4 伊坂幸太郎『フーガはユーガ』


 仙台のファミレスにて、一人の青年が自身の奇妙な半生を、ある男に語り出す。その青年・常盤優我は、双子の弟・風我と共に、無気力な母と暴力的な父のいる家庭に生まれた。父の暴力に耐えながら、二人で支え合いながら生きて行く中で、二人は自分たちがある条件を満たすと、互いの位置を入れ替わることが出来るのに気付く。

 2018年に発行された、伊坂さんのミステリー小説。伊坂さんの真骨頂である、ちょっと不思議な能力が出てくるミステリーだった。と、同時に、伊坂さんにとっては新しい試みも織り込まれているように感じた。


 冒頭から、中々衝撃的だ。優我の子供時代、父親から暴力を振るわれている瞬間から始まるのだ。そんな目をそむけたくなるような場面だけでなく、DVやいじめなど、弱い者が一方的に踏み捻じられる描写が、生々しく描かれている。

 「伊坂作品と言えば勧善懲悪」というイメージの人が多いのかもしれないけれど、今作はそれだけではない。苦しみや、過去のやり直せない後悔も、彼らはしっかりと抱えていて、それに対する心の傷も度々吐露している。


 作中に出てくるのは、巨悪というよりも、非常に身近な「悪」だ。人を苦しめても平気な、それどころか面白がるという人々。それも、この社会の中に潜んでいて、無辜の人々を歯牙に書け、何事もなかったかのように社会に戻ってくる。あってはならないことだけど、実際に起きているんだよと言われているような気分だ。

 そんな彼らに対峙する兄弟は、テレポーテーションの能力を持っているものの、非常に泥臭くも立ち向かっていく。自分の過去を挽回できなくても、こんなことは許されないという強い気持ちで。その姿が、私にも勇気を与えてくれた。


 そしてラストは、今までの伊坂作品にはない形だった。諸先の紹介分にある「切ない」の一言が胸に刺さる。こういう所も新境地なんだろうなぁと。

 半面、他の作品の登場人物の近況が描かれていて、伊坂さんのファンとして、ニヤリとさせられる演出もあった。元気そうで何よりと嬉しくなった。

























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