第34話 魔王の休日
魔王スマターは、邪神アドヴァンの欠片を
ハサン達が倒したのを
魔将軍ダロムの報告で知る。
忌々しい邪神は命を
幾つかに分けているようだ。
魔王と邪神の関係は?
と言うとスマターにも正直のところ
よく分かってない。
しかし、邪神がどうやら
スマターの
であるらしい。
スマターの、マスターか。
洒落にもならん。
苦笑気味にため息をつく。
時折、邪神の言葉が脳内に入る。
時には魔王スマターを介して
命令をしてくることがあるんだよ、あいつ。
20数年前に、とある国を滅ぼした事がある。
理由は不明だが、亜人の国トッポイ。
何故かこの国を【魔王軍】で攻めろと命令を受けたのだ。
亜人達は抵抗したが、
魔王軍の勢いは凄まじく、
トッポイ国の首都エギョマは3日で壊滅した。
どうやら、エギョマには
邪神を破る秘密が守られていたらしいので、
邪神はトッポイを狙ったのではないかと
魔将軍アスタロットは分析する。
何のことはない。
魔王なんて中間管理職。
中間管理職?
なんだ?
少しだけ人間の記憶を思い出した。
なんか理不尽な上司がいた気がする。
なんだ?
かつての体験を思い出して
少しの時間茫然自失となるスマター。
フフッと力無く笑い、どうせ
いいように使われるだけよ。
スマターは嘆く。
そういえばアイツも
あんな気持ちだったのかな?
アイツ?
誰だっけ?
まあいいや。
スマターは
でも完全に思い出せない。
人の頃の記憶も……。
頭の中の消しゴムは、記憶をも消したまま。
霞のような靄がかかったような感じがして
時折スマターを苦しめるのであった。
魔将軍アスタロットは、女性の幹部である。
魔将軍に昇格したのも随分昔。
その後に魔将軍ダロムが魔将軍に、
昇格したんだっけ。
アスタロットは小さな娘の時から
スマターが、魔王転生後に育てた幹部である。
何故だか胸を締め付ける。
本当に娘がいた気がする。
アスタロットは、
スマターに絶大な忠誠を誓っている。
魔王軍きっての聡明な顔立ちで、
魔王軍にもファンは多い。
アスタロットはスマターが
そして竹笛を、魔王城の屋上から
月を見上げながら吹いているのも……。
その音色はとても物悲しく魔将軍の心を
ギュッと締め付けるのであった。
ヒュールルル♪
ヒュールルル♪
今宵、スマターの竹笛の音色が聞こえる。
スマター様。なんと不憫な。
どうすればスマター様の御心は晴れるのか。
お慕い申し上げます。
アスタロットは涙を浮かべて
物憂げにその音色に聞き入るのであった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
魔将軍ザンは今日も鍛錬に明け暮れている。
日の出と共に祈りを重ねる。
祈りが終われば、
魔王城から下の海岸線まで猛ダッシュ。
山形の山寺の階段くらいある長い階段を上下、上下に3往復するのが日課である。
魔将軍ザンも元は人間。
召喚ではなく転生でマーラに呼ばれた。
人の記憶は覚えていないが、
当時アスリートとして名を馳せた
その習慣と修練の体験だけが
ザンを動かす。
古参の魔王でありながら、
スマターへの忠誠は高い。
俺が魔王軍の柱だ!
大魔王スマターの意志だ!
それがザンの口癖。
今日も魔王軍のために、
自身の鍛錬のために、
スマターのために、
階段を4往復もしちゃうのだった。
魔将軍ダロムは、最も成り立ての幹部。
最近と言っても僅か100年前に魔将軍となったダークエルフである。
顔は仮面で隠れており、
それは聖騎士との古傷で
顔を見られたくないのだという。
そして余りある魔力を抑える為の、
封印としても仮面が必要なんだと。
謎が多いんだけど、
その佇まいがスマートなんだよね。
屋上でしよう!
とが誘っても
なんやかんやで、誘いに乗ってこない。
いけずだよねー。
あれをやれ、これをやれ
背中を搔いてくれ、アイス買ってきてとか
なんて言っても
「所要で」と何もしない。
困った部下である。
でも、魔将軍ザンとアスタロットは、
ダロムを信頼しているのである。
隠れたところで、諜報活動はしっかりこなす。諜報と謀略はダロムの右に出る者はいない。
今日は、とっても晴れた良い日。
俺はまた声をかける。
「砂浜でバーベキューしないか?」
ザンとアスタロットは大喜び。
ダロムは今日も魔力抑えの口癖が出るかと思いきや、
「参加します……」とのこと。
正文が魔王スマターになってから、
数百年。
今日は記念の日だ。
魔王の一日は今日もゆっくりと
悠久の風に乗せて過ぎていく。
海岸で波音が今日も優しく聞こえてきた。
次回へ続く
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