第20話 魔王の憂鬱
『
ここは、魔王スマターの居城。
スマターは、誰に聞くでもなくそう問う。
魔王軍三騎将の一人、
魔将軍ザンは、
「恐れながら、私が屠りました」
とスマターへ報告する。
魔王スマターへ弓引く
聖騎士一行。
魔将軍ザンを直接、まだ聖騎士ハサンとして
力を目覚めさせる前にぶつける。
早急に潰してしまって、やや後悔した。
ハサンが目覚めれば、
必ず自分の覇道を阻む
障壁となるのは明解だった。
そしてハサンという希望が
マーラ全体を包む大きなうねりとなると、
各地で反乱が起きると厄介である。
なんて、
早めに育つ芽は潰そうと、
斥候を送ったのだが、
本当にアホだった。
普通は中ボスとか序盤に出る
イベントボスみたいのを
聖騎士ハサンに送る予定だったのに、
頭が脳筋の魔将軍ザンは
「私がやります!」なんて
手を上げるもんだから、
うっかり「抜かるな」なんて気合入れさす事言っちゃったらこのザマなんだよ。
普通、自分が行かないで配下の手頃な奴と手合わせするだろうよ。
ホントあほだなー。
マーラの人民が結託されるのを、
スマターは恐れていたが、
もう少し聖騎士ハサンの名声が
届いたからでも良かったなと
嘆いていた矢先だった。
それなら、聖騎士誕生で高まった希望ごと潰すことができる。
そうすれば魔王軍恐るべしの噂が広まり、反乱の芽も
まあいい。結果は結果だ。
スマターは悩む。
スマターは、何故自分が
魔王であるか思い出せない。
気付いたら魔王だった。
どうして生まれたのか、親は誰なのか、
そしてアヤカシの王として君臨しているが、
目的も良く分からないのだ。
ただ、聖騎士ハサンが元人間である
鏑木 凝流であることは知っていた。
だから、聖騎士召喚は血の流れなのか、
直感で気付くことが出来た。
何故?
鏑木 凝流とは個人的に繋がりはない筈。
「わ、わからぬ」
何故か、カブラギと言う言葉に懐かしさを感じる。
しかし、思い出そうとしても
頭の中の消しゴムが
思い出すことが出来ないのだ。
魔王の日課といえば、
たまにくる冒険者を血祭りにあげることくらいだ。
正直、魔王城は難攻不落で、
岩肌に囲まれ島になっている。
周囲は常に荒波で侵入者を阻む。
その丘の頂きに魔王城があるのだが、
空からの侵入も鳥型のアヤカシや、
龍型の大型アヤカシが迎撃する。
たまに、船でやってくる強者がいることはいるが、
三騎将に辿り着くのも容易ではなく、
大概トラップや、玉座のある部屋の手前で
城のアヤカシに倒されるのがオチだった。
だから、もう暇なのだ。
歴代のハサンとも何度も相まみえた。
中には聖騎士にも関わらず三騎将を倒せずに、
志半ばで倒れた一行もいた。
やっと久方ぶりに現れた聖騎士。
少し後悔した。
「居城を移そうか。世は退屈である」
スマターは暇すぎて居城をもう少し、
冒険者が来やすい所に、いっそ移そうかと
秘書であるディナーに話す。
「恐れながら陛下。我々眷属であるアヤカシは、
陛下が死ねば全て消え去ります。
一蓮托生なのです。よってみすみす
聖騎士に倒されるような方策は推奨しませぬ」
本当にやることがないのだ。
「恐れながら!」
魔将軍アスタロットがスマターへ
進言したいと近付いてきた。
「陛下!新たな聖騎士が生まれました。
聖騎士ハデルが誕生したようです。
陛下!直ちに対策を!」
なんと僥倖!
聖騎士ハサンの従者で、
後に聖騎士に昇格したと言う
聖騎士ハデルが召喚されたとのことだった。
やった!これで暇から開放される。
「聖騎士ハデルを討伐せよ。」
魔王スマターは全アヤカシに意思疎通で伝達した。
魔王の能力である。
魔将軍ザンが進言する。
「恐れながら陛下。私がまた自ら鉄槌を下しま……」
ダメーーーーーっ!
スマターは大きく手を広げて、
胸元でバッテンを作った。
次回へ続く
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