第21話 三鈷剣を追え

な、ない!!


アタイ絶対埋めたはず!

なーーーーい!


セシアは、愕然がくぜんとした。

埋めた筈の三鈷剣が無くなっていた。


墓荒らしである。

聖騎士の遺品なんて、高く売れるもんだから、

盗まれたのである。


三鈷剣に、祝詞である

『トホカミエミタメ』を唱えれば、

ハサンは生き返ると言うのを、

当のハサン本人(霊体)から聞いた矢先、

三鈷剣が無くなっているとは。


ど、どうしよー。

アタイは本当にドジっ子だわ。

そうだ。困ったときは村長よ。


セシアは取り急ぎ村長に相談することにした。


村長は、うーんと考えながら

「取り敢えず領主ウェーダー様に

お会いなさい。

あの人は元々は高名な祈祷師でした。

何か力になれるかも」とセシアに話す。


セシアはオーサキ村を出て、

マヨールの街に向かうことにした。

領主ウェーダーは、そこにいる。


マヨールの街への街道は

セシアにとってトラウマである。


いきなり現れた魔将軍ザンが

ハサンを瞬殺してしまったからである。


爆殺と言ってもいい。

ハサンが吹っ飛ぶのを目の当たりに

してから、食欲が大分無くなった。


最近、ようやく食べれるように、なったが

生肉が凝視ぎょうし出来なくなった。


魔将軍ザンの光景と、

遠いあの頃に見たあの光景が重なるからだ。


正直思い出したくないが、

意を決してマヨールの街に向かう。


この頃には、セシアも攻撃魔法である

風の魔法ウインドスラッシュを覚えていた。


アヤカシをウインドスラッシュで切り裂きながら無事にマヨールの街に辿り着いた。


父が生きていた時には、

何度か来たことがある。

炭を売りに足を運び、帰りには薬や食料、

そして村にはないアイテムを買って家路に向かうのが楽しみだった。


家では母が手料理を振る舞う。

思えば、あの時が一番幸せだったかも。


そういえば、三鈷剣は

我が家の家宝でもあった。


いつも仰々しく奥の祭壇に飾られていた。

剣の掃除は私の担当で、

いつも手入れしてたな。


家族との団らん、イベント、

傍らには三鈷剣があった。


でも幸せは、永くは続かなかった。

近くの山へ薬草を取りに母と向かった。


その時アヤカシに襲われたのだ。


セシアの母サリナスは、セシアを庇い

「早く逃げなさい!」とセシアを突き飛ばす。


母はアリ型のアヤカシ

アリブンタの大群に生きながら喰われた。


動けない、動けないよ、お母さん。


もうだめだと思った瞬間に、

炎の柱がアリブンタを焼いた。


セシアは、たまたま通りかかった

名もなき冒険者により命を救われた。


それからセシアはアリブンタを、

見ると動けなくなる。


あの光景を思い出すからだ。


元来、マーラの民は魂の存在。

だから死ねば次のステージ、

5次元の世界に昇華する。


だが、アヤカシに殺されてしまうと

魂は昇華されず、アヤカシとして

転生されるのだ。


母サリナスは、きっとアヤカシだろう。

アヤカシの呪いを断ち切らなくては。

早く母さんを楽にしてあげたい。


そう思うのだ。


先ずはハサンを復活させるのに、

領主ウェーダーに会わなければ。


この時、まだセシアは

聖騎士と召喚士の秘密に気付いていない。


「領主ウェーダーにお目通りを。

わが名はセシア。聖騎士の従者である」


セシアは領主の館の門戸をくぐる。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


マヨールの街の領主である

ウェーダーは、カンデンブルグ8世の弟、

公爵の身分である。


元来、長男であるウェーダーが

世継ぎとされたのだが、

ウェーダーは側室の子であったのである。


先代カンデンブルグ7世と正妻の間には

長らく子が生まれなかった。


ところが、高名な賢者と言われる者が

王室に招かれた後に、

正妻は懐妊かいにんしたのである。


よって正室から産まれたカンデンブルグ8世こと、ラーロンが王位を継いだのだ。


ウェーダーが7歳の頃である。

ウェーダーは純粋に弟が出来て嬉しかった。

一緒に遊んだり出来ると思っていた。


しかし、正当な世継ぎが出来た途端、段々とではあるが、周囲の大人達の反応が変わってきたのである。


ウェーダーや側室ミランに当初はご機嫌伺いするような態度を取っていた家臣や従者が、ラーロンや正室へと変わっていったのである。

 

そして国を上げて関心は弟のラーロンへと目が行く。


昨日まで、あんなにチヤホヤしていたのに、父上の愛も私だけだったのに。


事もあろうに、カンデンブルグ7世も、

ウェーダーに対して

「そなたは兄であろう。

兄らしく振る舞いなさい」


「兄ならば、弟を支えなさい」


などと一転して厳しい口調に

変わっていったのである。


「弟の癖に」

「俺が世継ぎだったのに」


歳を重ねても、この鬱屈した思いは消えない。

ウェーダーは、マヨールの街の領主となったが不服だった。


そんな矢先、ウェーダーの領地である

オーサキ村には聖騎士を召喚できる

ハナナガ族の娘がいると聞いたのである。


村長を介し、セシアへ聖騎士召喚を命じたのはウェーダーであった。


ウェーダーは、聖騎士を陣営につけて

謀反を起こすつもりだった。


ところが、聖騎士誕生の報を聞いて間もなく、マヨールの街にたどり着く矢先に、

敵方の大幹部魔将軍ザンが単騎でハサンと勝負し片付けてしまった。


聖騎士弱すぎる。

いや、敵方の大幹部が単騎で普通くるか?


あー、私は運が悪い。

こうなったら、もう一度

聖騎士召喚するしかないな。


よし、召喚士セシアを呼びつけよう。


なーんて思っていたら、

『鴨がねぎを背負って来る』

とはこのこと、

向こうから、わざわざ訪ねてきてくれたのだった。


しめしめ、これは『棚ぼたからぼた餅だ』


※異世界には四字熟語の同義語があるが

翻訳してます。


ウェーダーはセシアと対峙する。

ウェーダーは、応接間の奥にある

隠し部屋に通す。


本棚が魔法により空間ができた。

そこは、内密な話をする際に通す

『秘密の間』である。


「ウェーダー殿。三鈷剣の場所は分かるまいか?」

セシアは経緯をふっ飛ばして要件だけ尋ねる。


ウェーダーは唐突に何?

って顔をしてセシアに問う。


「三鈷剣とは?まず、あらましを教えなさい」


セシアは経緯を説明する。

ハサンの霊体は三鈷剣に『祝詞』を捧げれば、復活を成すと。


「あいわかった。それならば、

三鈷剣のオドを辿ってみよう」


ウェーダーは過去に祈祷師アミダの元で修業したことがあった。


一時は祈祷師として生を全うしようと考えたが、国王である弟からの依頼で、

マヨールの街とミャーギ地方の領主となったのである。


ウェーダーは念じると、

三鈷剣に残るハサンの気を探った。


『どうやら、大きなサルが見える。

アヤカシ魔獣ヒババンゴの洞窟に、

霊剣:三鈷剣は置かれている!』


セシアは、たじろぐのであった。


魔獣ヒババンゴ。

村の娘を攫う凶悪な大猿だ。


アタイ一人で倒せるのか? 

いや、無理だ。

捕まったら何をされるか分からない。

下手したら貞操の危機でもある。


「ウェーダー殿。ありがとうございます。後はこちらで対応します」


謝辞を述べ館を後にするセシア。

弱ったな。どうしよー。


マヨールの街を彷徨いていた時、

ギルドが目に入った。


そうだ冒険者を募ろう。


次回へ続く

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