ハサンdeハサン〜しなおじ外伝〜
のんたろうさん
聖騎士ハサン伝説序章
俺の名は蕪城正文
《かぶらぎ まさふみ》47歳。
アレルギー持ちの、トラック運転主。
趣味はパチンコ。
ちょっと若いうちに、
借金まで作っちまったよ。
ほんの出来心だよ。
今は、やらねーよ。
CR機なんて物が出てから
面白くなくなっちまった。
んでよ、こっからが本題なんだけどな。
訳あって『アヤカシ』
と言うモンスターを狩っているんだよ。
しかも、この世界では
俺は聖騎士と呼ばれてるんだ。
でも、どうしてこうなった?
思い出しても、よくわからねぇだけど、
どういう訳か、トラックの運転中に
横から来た自転車が、
俺の車体をすり抜けようと
猛ダッシュで追い越しをかけてきたんだ。
最近のチャリンコはあぶねーよな。
俺も高校時代は、
チャリンコ漕ぎまくって学校行ったよ。
真冬の寒い時期もブレーキ凍ってたけど、
登校したさ。
バスの前で横転したこともあってな、
ありゃあ死ぬかと思ったぜ。
おっと、話が逸れたな。
そんで自転車は、
そのまま通り過ぎたんだけど、
自転車に注意が向いてしまってヨ、
目の前に、ベビーカーを引いた
身重の女性が歩いてくるのが見えた。
あ、あぶねー!
ハンドルを勢いよくきって俺の車は横転した。
中央分離帯を大きくはみ出し、
目の前が真っ暗になったよ。
あ、死んだなと思ったさ。
でも暗闇を抜けたらよ、
なんとまあ見たこともない
美しい景色が広がっていたんよ。
あー、ここは天国か。
いーとこだなー。
丁度紅葉が山々に色付いて、
街は、どこか中世を感じさせるんだけど、
どこか見たことある、
昔の日本の田舎を
彷彿とさせる風景なんだよな。
ここは、本当にどこなんだ?
と周りを見渡した時に
フードを被った男が俺を見ていた。
『汝に命ずる。聖騎士として我に仕えよ。
我の名は賢者パティーン』
何を言ってるんだ?こいつは?
と思ったのもつかぬ間、
赤い電撃が走って俺を貫いたんだよ。
すると、口を割って出たのが
言ったことない言葉よ。
『はい。御主人様。』とさ。
な、なんだ?口が勝手に喋る。
抗えない。こいつに。どうして?
「おまえは、私と共に、
『魔王スマター』を倒す旅に出るのだ。」
素又?
何を言ってるんだ。
歳の頃は俺より若そうだ。
しかし、賢者だか何だか知らないが、
こいつ偉そうだな。
いけすかねぇ、後でしばいたるわ。
まじ年下やろー。なんやねん。
そんなこんなで、高名な賢者と名乗る
パティーンという小僧と
俺は旅に出ることにした。
道中色んな事があったさ。
ハナナガ族のスロリヤと言う
女ヒーラーを仲間にした。
海底洞窟や、天空の城、
忘却の塔なんてのも行ったな。
楽しかったなー。
旅は道連れ、世は情けっていうじゃない?
あんなにいけ好かないパティーンも、
一緒にご飯食べて、寝て、闘ってるうちに
情が湧いちゃってね。
同じ釜の飯を食った仲なんていうでしょ?
もー調子いい時はお互いに
オカマ掘ったりしてね!
嘘だよ、嘘。
軽く生い立ちを説明するよ。
実は、俺の親ってのはロクでもなくてな、
親父は若い女作って逃げちゃうし、
母親はメンタルやられて、
飯も作らない、挙げ句には部屋も掃除しない。
だから俺と弟は学校も、
ほとんど行かなかった。
しかし最終的に育児放棄と見做されたのか、
俺達兄弟は施設に送られた。
寂しかったし、恨んだよ。
施設の上の奴らは俺達を虐めるんだ。
根性焼きの跡見るかい?
小6で付けられたよ。
弟の時政(ときまさ)も後から聞いたら、
相当酷だったらしい。
でもあいつは持ち前の努力と勉学の才で、
うまく立ち回るだけど、
それはずっと後の話。
当初は俺達兄弟を目の敵にしていた
ケンジと言う奴がいてな。
あいつは俺達兄弟を見たら、
見境なく絡んできたよ。
公園で遊んでたら石を投げられて
眉間を割ったことも、
オシッコ飲まされそうにもなった。
こんな世界あるか?
父親が若い女なんか作るから、
母親がオカしくなったんだ。
特に俺を虐めていたケンジと
刺し違えて死のうと思った。
それくらい俺は追い詰められたんだな。
ところが、ケンジは急に消えたんだ。
忽然とだよ。荷物はあったんだぜ。
昨日までいたんだから。
それから俺は中学出て働いた。
その時の新聞配達で雇った社長が
本当にいい人だったんだよ。
娘も可愛い子だった。
名前は和子と言った。
笑うとエクボができた。
でも、和子は口がきけなかった。
本当は喋れるらしい。
医者も本人の気持ち次第と言っていたのが、
そっと俺の耳にも聞こえてきた。
社長は男で一つで和子を育てていた。
和子のお母さんは病気で亡くなったらしい。
社長は優しかった。最初からだ。
ずっとおまえは俺の息子みたいだと言ってくれていた。
でも施設で、愛を知らず育ったから
社長からの優しさに俺は応えられなかった。
最初は社長の財布から、
金をネコババしたり
事務所の備品を勝手に売ったりした。
そして、ついに俺は
やってはいけないことをしてしまった。
和子を乱暴したんだ。
和子は俺に好意があると、薄々気付いていた。
我慢できず、俺は和子を陵辱した。
なんて馬鹿だったんだ。
俺は最低の野郎だ。
俺は社長に土下座した。
社長は俺を立たせると
思いっきり平手打ちで殴りつけた。
何度も。
何度も。
何度も。
社長は俺を半殺しにするくらい殴りつけた。
でも、社長は泣きながら俺を殴ったんだ。
社長は泣いて泣きながら俺を殴ったよ。
社長の手から血が滴ってた。
そして、こう言ったんだ。
「おまえは俺の息子にそっくりなんだよ。
だからおまえは俺の子なんだと」
写真を初めて見せてもらった。
本当に瓜二つだ。
だから、素性も定かでない
俺の面倒を住むところも
仕事も与えてくれたのか。
俺は泣いた。初めて愛されてるんだと感じた。
この世は捨てたもんじゃないと思った。
だから社長の恩に報いることにした。
社長の娘和子には誠心誠意お詫びし、
一緒になって欲しいと懇願した。
和子の心は一朝一夕では雪解けされない。
頑なに心を閉ざしていた。
でも、ある日和子に、
「今度遊園地に行こう、浅草の花屋敷」
和子は、『うん、正文といく』と
初めて喋ったんだ。
わーい!
わーい!
和子が喋った!
そして俺達は夫婦になった。
一年後、子供もできた。
施設の弟も一緒に住むことになり、
やがて弟は大学まで出て、
似つかわしくない、いい娘を嫁に貰ったよ。
その時も社長が親代わりで式に出てな。
めちゃくちゃ号泣してた。
俺は人として社長に感謝している。
同時に感謝と愛の力がどれだけ
強いのか知ってたんだ。
時を戻すぞ。
聖騎士として召喚されて、
アヤカシを倒してくうちに知ったんだ。
アヤカシは無闇に倒すだけじゃダメ。
祓うか、浄化するか、
話さないとダメと気づいた。
アヤカシが成仏して、
浄化する力が経験値となった。
それだけじゃなく、道中愛を体現する、
感謝する、他人のために祈ることで、
さらにスキル向上や、
ステータス増加に繋がると知ったのだ。
俺を召喚したパティーンは常に言っていた。
「この世界マーラは魂の世界。
神に繋がる世界。想いの世界なんだ」と。
もっと言えばこの世界は全体なのだと。
全てを知るということは、
違いを知ること。
違いを受け入れて全体に還る。
ここに気づけば5次元の世界に還るのだと。
だから、三次元の肉体の世界には戻れない。
同時にマーラの世界のアヤカシは
魔王スマターが元凶。
聖騎士の力を、持ってしても
スマターを倒せるかどうからしい。
俺はパティーンに頼んだんだ。
聖騎士じゃなく、俺の弟の
時政(ときまさ)を召喚できないか?って。
パティーンは言った。
『聖騎士召喚は陰我で決まっているんだ。
だから、誰でも良いわけじゃない』
パティーンは、風の声を聞き、暫く耳を澄ませると
『やってみよう。どうなるかは責任が取れないが』
と急に召喚する気になったようだった。
聖騎士以外として、異世界に召喚できるのか?。
パティーンは魔法陣を敷いて印を組む。
『ワタシノナマエハノンタロウドウシテコンナニイイオトコドウシテコンナニイイオトコ』
呪文詠唱だ。
ついに、異世界からの扉が開く。
時政が無事に召喚された。
しかし、イレギュラーが起きた。
聖騎士召喚三要素は以下3点である。
①アレルギー性鼻炎である
②歯が出ている
③自己破産している
①は精霊との反応が強い証拠
②口呼吸のため、ガイアとの息吹をダイレクトに感じること
③自己破産するほど欲求が強く理性が効かないこと
正文(まさふみ)は条件がすべて合致した。
だから聖騎士として召喚された。
しかし、召喚の際に術者である召喚者に
絶対服従を強いられる。
賢者パティーンは、
正文を聖騎士として召喚した。
よって正文はパティーンに逆らえないのだ。
ところが、時政は
アレルギー性鼻炎かつ、歯が出ているが、
自己破産していなかった。
彼は聖騎士として召喚されず、
只の人として召喚された。
当初は、正文を非難する時政だったが
やがて兄弟は力を合わせて
打倒魔王スマターを目指す。
何故かと言えば、召喚された当時
時政は絶望していた。
奥さんは子供を連れて出ていってしまった。
理由は良く分からない。
出張先から帰ると、
自宅の荷物があらかた消えていたのである。
絶句。
なんで……。
固定電話から嫁へ何度も電話するが出ない。
それから毎日の生活にハリが無い。
ついに会社も休みがちになった。
家中にゴミが溜まり腐敗臭が漂う。
もうダメだ。毛布一枚で動けずにいる。
寝返りを打つと、2匹のゴキブリが
毛布の中から外に這い出てきた。
「もうダメだ。死ぬんだな、俺は」
そんな消えゆく意識。
ミイラのように細くなった時政。
そして真っ暗な世界が、周囲を覆い、
その暗闇の先にある光を辿ると、
辺りは長閑な小麦畑と
大きなアカシアの木が見えた。
そして側には……
「兄ちゃん!」
死んだはずの兄ちゃんがいた。
3年前のあの日、トラック事故で死んだ
兄ちゃんが目の前にいる。
兄ちゃん!兄ちゃん!
ここは天国なのかと思っていたら、
隣のフードを被った男が
「三要素に合致しなかった。
この男は聖騎士ではないが……
召喚成功です」と呟く。
正文はマーラの世界、アヤカシ、
魔王スマター、
聖騎士となった経緯を時政に話す。
「分かった。兄ちゃん。
俺は兄ちゃんの従者として付いていく。
何か変わるかもしれない」
聖騎士ではないため、
召喚者の命令は契約されない。
しかし、三要素に合致しないイレギュラーの
時政は強かった。
並の冒険者に比べると、
格段にスキルが高く、
並の人とは3倍くらい
ステータスも違う気がした。
そして何故か最初から装備していた破邪の剣は
アヤカシとの相性がよく、
どんなアヤカシも滅していく。
元来、勉強家の時政は魔法も、
どんどん習得していった。
そして、俺(正文)は仲間の
スロリアと道中で恋仲となった。
魔王スマターを倒したら祝言をあげよう。
そう思ってた矢先、
スロリアは懐妊しちゃったんだ。
思えば二手に別れようなんて
よく、スロリアと俺、
パティーンと時政で、
各々探索するのが多くなっていたから、
そういう事よ。
ダンジョンの岩と岩の隙間や、
夜二人が寝静まってから
とにかく抱きまくったからね。
申し訳ない。
回復魔法が使えるヒーラーのスロリアは、
パーティから外れ里に帰ることになったのだ。
スロリアが里に帰る数日前
パティーンはスロリアに、
一子相伝『聖騎士召喚術』を授けた。
パティーンは知ってたのかな?
未来をこれから起こる出来事も。
そして改めて3人の旅が始まった。
苦難を乗り越えたよ。野郎だけで。
やっぱパーティに女がいないと、
侘しいよな。
切ないよな。
男も体が夜泣きするな。
でも代わりに村や里、城でも歓迎された。
アヤカシを破るのは俺達だと思った。
時のセンダー国の王カンデンブルグ1世も、
俺達の旅の軍資金やら、先々の船の手配など
様々な面で手を回してくれた。
感謝で、一杯だ。
そして俺は化神の術
《けしんのじゅつ》を覚えた。
本来は内なる神としての力を解放し、
パワーを向上させる術なんだけど、
マーラは心の世界。
俺は姿形も変えることにした。
俺のイメージは何と言っても
不動明王だよ。
あの猛々しさは、かっこいいよな。
邪を滅ぼし悪を祓う
不動明王に昔から憧れてたんよ。
俺は唱える。
「ノウマクサーマンダー、バーザラダンセンダー、マーカロシャーナー、ソワタヤ、ウンタラターカンマン!降臨せよ!
不動明王大神見参!!」
すると、俺の体から4本の腕が生え
髪は赤色に変わり、体は屈強に青色に変わる。
ゆらゆらと赤白い炎のようなソウルパワーを宿しながら、凄まじい力が舞い降り、不動明王へと化身する。
そうなれば無敵よ。
文字通り、敵はいなくなる。
バッタバッタと敵を浄化し倒していったよ。
そして1年後に、ようやく
ついに魔王スマターの居城へと
たどり着いたんだ。
魔王スマターは、どこかで見た顔だった。
ん?
ん?
ま、まさか
『おまえは!ケンジ!』
そう。あの施設で俺達を虐めてきた
ケンジが魔王スマターだったのだ。
なんで?
「聖騎士とはお前らの事か。
なら怖くねーな。
きな、またぶん殴ってやるよ」
メラメラと闘志が湧く。
おーよ!今までの借りをすべて返してやんよ。
泣いてもゆるさねーからな。
数時間の死闘。
ついに、俺はケンジを倒した。
止めを刺すか?
どうする?
愛を以て赦すか?
いや、こいつに受けた屈辱は
こんなもんじゃない。
殺す!
今、生かせばこいつら又
同じように悪事を振るう。
殺るしかない。
俺は自分の剣=倶利伽羅剣を
ケンジの胸に刺す。
すると、ケンジは笑う。
「俺に止めを刺したな。
おまえは災の王となる。
そうだ。お前が今からスマターだ。
永劫苦しめ。正義の味方め。
お前が最後の選択をミスらなければ
平和に解決してたものを。
アハハァ……。これで俺も
スマターから解放され……る。」
ケンジは消えた。
そして代わりに正文が、
瘴気を纏う異形の姿へと変わる。
最後の力を振り絞り、正文は
パティーンと時政を逃がすと、
魂を聖騎士最後の秘術で
3つに分けたのだ。
『ケンジよ、俺は負けてない。
いつかカブラギが、
別のカブラギが、この輪廻を断切る。
そして俺の魂は受け継がれる。
い、いつか必ず。』
正文の意識は、そこで途絶えた。
そこには、かろうじて正文の面影を残した新しい魔王の姿があった。
そして別れた魂は、どこかへ飛んでいく。
一つは異世界の日本。
もう一つは、また異世界の日本。
そして最後の一つは
マーラの世界へ。
ミャーギ地方のオーサキ村。
長閑な小麦畑と
広大な平原が広がっている。
その平原にある一本の樺の木に
正文の魂の一つが入り込む。
すると、霊樹である樺の木と
正文の魂は合わさり、
みるみる姿が変わっていく。
それは一つの剣だった。
『神剣 三鈷剣(さんこけん)』
それは、正文の心。
後に魔王に挑んだ聖騎士は、
過去の英雄に因んでハサンと呼ばれ、
弟である従者を、
同じく歴史の英雄と同名ハデルと呼び
後に聖騎士に昇格された。
魔王スマターに、
各世界に散らばった
カブラギが
聖騎士として代々召喚される。
もとの一つの魂に戻るために。
これが聖騎士伝説の始まりであった。
おわり
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