プリン争奪戦争

ハッピーディストピア!

第1話

 『プリン』それは、至高のデザート。艶のある黄色い姿は少し揺するだけでプルンプルンと可愛らしく暴れる。そしてスプーンに力などかけずとも簡単に刺さってしまうこの狂おしいほどに華車やお体。


 口に運べば、広がるのは濃厚な味わい、それでいてクリーミー。それと最高の幸せ。『トゥルン』としたものが口の中を隅々まで癒してくれる。


 だが、それは一瞬の間でしかない。プリンはあっという間に崩れてしまい、儚く消えてしまう。しかし、いや、だからこそ、その幸せはより一層深く味わえる。


 一口一口、大事に味わう。それでもすぐに、全て食べ切ってしまう。もっともっとと際限なく欲しいと思うが、もしあったならきっと、プリンの山を作り、その中に思いっきりダイブして窒息死していたことだろう。


 そんなプリンは、どこまでも最高である。しかし、それ故にいつの時代でも争いの種となってしまうのだ。


 例を挙げるならそう、ご存知の方も多いであろう百年戦争だ。教科書にはフランスの広大な土地を巡った戦争とでも載っているだろうが、しかしその真相はそれもあったのだろうが真の目的ではなかった。


 そう、それがプリンなのだ。食べたもの皆魅了してしまう魔性、それが悲劇をもたらしてしまったのだ。フランスとイギリスはどちらかがプリンを独占する為に戦ったのだ。


 「私のために争わないで!」とは言ったものだが、これはプリンからすれば切実にそう思うことだろう。そして他の国から見ても、飽きられるどころかドン引かれること間違いなしだろう、その当時は。


 そうなのだ、この頃のプリンは全くもって広まっていなかった。故にその存在を知らず、この戦争を無意味にしか感じられないのである。それはなんとも悲しいことであるが、これ以上の悲劇が起きなかったことに安堵するしかない。


 ちなみにこの戦争はフランスが勝利した。それは何故か。そう、プリンである。


 いやいや、ジャンヌダルクではないのかと言う人もいるだろう。確かに、フランスの劣勢を挽回したのは彼女である。しかしだ、戦争での劣勢を挽回するというのは相当大変なことなのだ。


 1人が頑張るにしても、限界がある。では何故出来たのか。これもそうプリンのお陰だ。実はジャンヌダルク、彼女は大のプリン好きであったそうな。プリンあるとジャンヌダルクあり、そんな言葉もあったらしい。


 プリンのために精を出し、そしてプリンによる最高のひととき。これが彼女、プリンマスターを更なる高みへ導いてくれたのだ。






       知らんけど


 そんなこんなで現在でも、プリン争奪戦は違う形で行われている。一瞬の内の一発勝負、究極の戦争。そうじゃんけんである。


 そして今、この教室にてそれが行われようとしていた。


 「今日は中田くんが風邪で早退するので、余ったプリンは誰か食べていいですよー。」


 給食の時間、そこで先生が大きな声で言った。それは、戦争の始まりの合図だ。


 「よっしゃ食べ終わった!!これでプリンは俺様なもんだ!!」


 このクラス随一の大食いかつ早食いの多田がプリンに向かって走り出す。しかし、早い者勝ちなどと言うルールなど、ありはしないのだ。


 「おい、待てよ多田。ここに早いもん勝ちなんてルールはないんだぞ?やるならじゃんけんだ。」


 「そうだそうだ!!じゃんけんで決めるぞじゃんけんで!!」


 坂本が言うとともに皆が騒ぎ始めたので多田はやむを得ず諦める。


 「まっ、それでも勝つのは、俺なんだがな!!」


 そして皆が食べ終わった頃、それは遂に始まる。体を前のめりにして、グーにした手を掲げる。


 「おい皆、じゃんけん始めるぞ!!」


 坂本はそう言い、掛け声を始める。


 「最初はグー!!じゃんけん…」


 

 いよいよその時。


 「ぱー」


 「「グー」」


 皆がグーを出す中、1人だけパーを出すものがいた。


 「馬鹿っな?!はっ…!!貴様は!!」


 勝ったのはクラス一の豪運、石川であった。


 「おっ、ラッキー!じゃぁプリンはいただくねー。」


 石川は勝ち誇った顔をして立ち上がる。負けたものたちは悔しがり、石川を恨めしい目で睨む。だが、敗者は敗者。口出すことなど許されない。しかしそんな中、1人だけニヤリと笑うものがいた。


 「おー、西村。体調はどうだ?」


 先生が声をかける方に皆注目した。そして石川は嫌な予感に冷や汗をかく。


 「いやー、かなりしんどいです…。」


 「そっかー、お大事にな。」


 「はい、有難うございます。あっそうだ。俺の分のプリン、花木が食べていいよ。」


 皆が、顔を青ざめながら、その花木の方へ顔を向ける。


 「おー、ありがとね西村。」


 じゃんけん、それは唯一無二の戦争。それは勝者が絶対となる究極のものだ。しかし、例外もある。そのプリンは本来、西村の所有物。そう、その所有者の言うことには勝者すら逆らうことなど出来ないのだ。


 石川は油断していた。花木は確かに頭の冴えるやつだった。しかし、普段は物静かで争いごとに突っ込むような男ではなかったはずだ。やはりプリンとは人をも変えてしまうようだ。


 「うそ、だろ?」


 「くくく、最後に笑うのは、この僕さ…!」


 こうして、プリン争奪戦は幕を閉じたのだ。だが、それはまた、いつか起きることであろう。プリンがこの世に存在する限り。


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

プリン争奪戦争 ハッピーディストピア! @ataoka881

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ