第二幕
舞台裏。男女二人の話声。彼らは同じ質の良いブロンズ髪を持っていた。
「緊張はしないのかい?エリー」
「えぇ。オーケストラの生の演奏に合わせて踊れるのよ。緊張していたら勿体無いわ」
「そうかい。エリーがこんな大舞台立てるなんてなぁ。兄として誇らしいよ」
「ありがとう。ヘンリー」
そう話していると、ホールに公演開始五分前のブザーが鳴り響く。
「私はそろそろ行くよ」
「あぁ。しっかりとエリーの姿を見ておく。最高の踊り子として美しく舞ってこい」
「うん! 行ってきます!」
「行ってらっしゃい」
エリーは純白の裾を翻し去っていった。
舞台に灯りが点る。観客は、一言も喋らなくなった。
静寂と緊張感の狭間、オーケストラの艶やかな音色がホールを包む。数瞬して、純白の花が姿を現した。指揮者の背面、そこで舞う彼女の波にホールは飲まれ溺れて行く。
客は皆、何処か懐かしさを憶えていた。中には涙を流す者も居たそう。
これが、彼女、エリーの舞には不思議な力が宿っていると噂される理由。
時はあっという間に流れてしまう。もう終盤だ。ホールの中は完全に彼女の物になっている。観客の視線も表情も、感情も。オーケストラの演奏も。演出も。照明も。全て彼女の舞が、彼女の表す全てが、ホールと一体化しているのであった。
最終二小節。弦楽器の柔らかな音色。低音楽器の深い響きが美しい旋律を織り成す。それに合わせて一回転。ワンピースの裾が円を描く。それは大きな純白の花であった。
裾を掴み二度はためかす。一度目は右に、二度目は左に。鳥の羽ばたきの様だった。
そして最終小節。軽やかなハープの音色と、しなかに伸びる白い腕が重なる。
最終一音。指先へと送られたのは、彼女自身の甘い視線。明日の方向へ伸ばされた指先は、ピタリと止まる。
小さく微笑みかけるその艶やかな紅い唇。踊りを楽しんで居る様で、それでいてまた、寂しそうで。一人を憂いている様な。エリーはそんな表情をして居たのだった。
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